第二十四話 悪夢の始まり
「ーーではそう言うことで。頼むぞ。エンダイア。」
「承知致しました。」
先程、招集されたアイリス騎士が一人、頭を下げた。
さっき彼の弟子に招集があると告げられた者だ。
彼らがいる部屋は広く、白色をしていた。
天井のドーム状になっている見事なステンドグラスが綺麗な光を通す。
7つの白い椅子が円形状にポツンポツンと置いてあって、それに七大騎士と呼ばれるアイリス騎士団で一番上の者たちが向かい合って座っていた。
しかし3席、空いている。
どこかへ任務にでも行っているのだろうか?4人しか居ない。
椅子と椅子の間に二人か一人づつ、『セコン』という上から2番目の階級の者達が立っている。
セコン階級の者は全員で14名。
現在共和国に残っていたのは9人だ。
みんな白いローブをきていて誰か何も知らない人がそれを見たら神々しくて崇めてしまうかもしれない。
それくらい彼らは綺麗で繊細でどこか力強い、そんな感じがした。
先程、頼むぞ。と言った椅子に座っている七大騎士の中でも一番偉いその人がそういった。
「では、これにて解散とする。エンダイアと七大騎士は残ってくれ。」
彼がそう言うと、立っている人達がガヤガヤと出口から出ていった。
「帰ってきたらまた闘おうぜ。絶対お前に勝つからな。」
小声でエンダイアの肩をポンポンと叩きながらニヤリと笑う彼の親友。
エンダイアもため息をついてニヤっと笑う。
「あぁ。友よ。いつもやられてるやつのセリフじゃないな。」
「ちぇっ。とにかく早く帰ってこいよ」
「はいはい」
去っていく親友にヒラヒラと手を振る。
エンダイア以外の全てのセコンが出ていくとバタンとドアが閉まった。
耳が痛くなるほど静かだ。
不意に、七大騎士の1人が話し出した。
青の透明感のある髪に全てを見透かすような金色の目の女性だ。亜人だろう。
「…エンダイア。今回の任務は君にとって危険とも言えるし安全とも言える。」
「危険?少女か少年を連れて帰ってくるだけでしょう?」
「そうだね。君にとってはただの子供を連れて帰ってくればいい簡単な仕事だ。でもね。私達にとっては違うんだよ。」
「それは…」
「…これはね。君にとっては試練だ。…いいかいエンダイア。この任務でどんな秘密をどんな風に知ろうと私達以外、誰にも話してはいけないよ。秘密を知ってしまったのなら、子供を連れて帰ったあとすぐにここに来なさい。わかったね?」
「…はい。秘密というのは…」
「いずれ分かる時がくるよ。これが素質のある者を示すコンパスだ。」
その女性が左手手を少し動かすとそばに置いてあった金でできたコンパスがふわっと浮いてエンダイアの方に飛んで行った。
エンダイアがコンパスを取ってちょっと見てからローブに仕舞う。
「預かります。」
「報告は数時間に一回はしてくれ。」
報告…というのはアイリス騎士だけが出来る通信技術。素質のある者は訓練をすればお互いになら何の道具も使わず通信がとれてしまう。
まさにチートである。
「それと、弟子は連れていかないで欲しい。」
「あー…ついてくるなと言ったら隠れてこそこそ無理してついてくるやつが一人、いますけど…」
そう言いながら、いつも反抗してくるビニンを思い出す。
「どうにかして巻いてくれ。君なら出来るだろう?」
クスッと笑ってそう言う彼女。
「勿論です。」
「では、出来るだけ早く出発してくれ。今から全速力で走っても2週間はかかってしまうからな。幸運を祈る。」
「はい。」
頭を下げてエンダイアは出ていった。
バタン…
大きな扉が完全に閉まる。部屋にいるのは七大騎士で、アイリス共和国に残っていた4人だけになった。
「…エンダイアは上手くやってくれるかな。」
青髪の女性が言った。
「どうだろうかの?儂達がいければ良かったものを…」
白い髭のお爺さんが言う。
「んな事言ったってしょーがねーだろ?俺らは契約でこの国を出られないんだ。」
黒髪の青年が足を組みながらそう言った。
「正確にはこの国とその周辺地域ですよ。しかも1年に一回は転移で他の国に行けます」
長い白髪の女性がメガネをカチャリとやって言う。
「細けーこたぁいいんだよ。今、カシュクランに行けない事が大事なんだ。」
青年が言い返す。
「まあ。そんなこと言ったって仕方ないでしょう?セナーラン王家が滅亡したのに、セナーラン国王がこっそり任命するはずの『素質』のある子が出たんだから。その子が何者か調べないと。」
考えながら青髪の女性がそう言った。
「逆にセナーラン王家の生き残り以外あるか?裏切り者が任命したんだったらわざわざカシュクランにしないだろ。」
「もし、そうじゃったら我々の光となる。必ずやエンダイアには成功してもらわねば。」
お爺さんが近くに置いてあったガラス玉を空中に浮かせてクルクルと回しながら疲れたように言う。
「ドンデ王国に潜入してる七大騎士3人からも連絡来てないですしね。」
メガネの女性がまたメガネをカチャリとやりながら話す。
「ほらほら。細かいこと言ってないでさっさとやりましょ!私達
そう言いながら青い髪の女性が椅子に付いていた隠し仕掛けを開けて指を置いた。
『指紋認証しました』
シュンっと目の前にキーボードが床から出てきた。それと同時にホログラムの画面がいくつも出てくる。
他の椅子に座っている者も同じ様にしてキーボードを出す。
「カミサマを酷だよなぁー?たった数人の人間に秘密を預けるなんてさ!」
キーボードをトントンと叩きながら青年がふっと笑う。
「セナーランが消えた今、秘密を知るのは儂らとあの裏切り者だけ。…確かに酷じゃの。ここまで秘密を守った儂らを褒めて欲しいわい。」
お爺さんは自分のメガネに手を伸ばしつけた。
「でも、良かったじゃない。今回の子のおかげでこの楽園の檻はまだ安泰かもしれないんだから」
◇◇4日後…カシュクラン帝国◇◇
リーシャが見える不思議な青い稲妻は誰の魔法でも見えて、魔法が持続している間はこの前のナイフの時みたいにずっと見えるという事がわかったが、この4日間それ以外大した事はなかった。
リーシャは今、ルーンと山を作ったり池を作ったりして遊んでいる。
今は6時半ごろ。
この6月だと、ちょうど夕日が赤く染まる頃である。
いつもリーシャとルーンは村の近くの野原で遊んでいた。
魔法で地面を持ち上げて山を作ったり見張り台を作ったり、誰も使わない土地なのでやりたい放題である。
それに2人ともシェリアンの地獄の特訓でこのくらいの遊びで怪我をする事はまず無い。
今、丁度リーシャが崖を作ったようだ。
「みてみてルーン!立派な崖が出来ました!」
リーシャがたかさ10メートル以上ある自分で作った崖の上でルーンに向かって手を振った。
「なんだそりゃ」
「見てて見てて!ここにね。こーすれば…」
予め用意しておいた長く、太いホースの端っこを池の水につけてもう片方を崖の窪みに置く。
あとは魔法で色々やれば…
「ジャーン!」
滝の完成。
魔法で水を沢山出すよりもこっちの方が効率がいい。
「わぁ…」
「凄いでしょ!〈ファーム〉」
魔法で風を出して飛んでルーンの所に戻ろうとする。
「…え?」
リーシャは空中で驚くべき物を見た。
遥か遠くの場所からリーシャの村周辺一直線に、地面を伝って紫色の稲妻がバチバチと凄いスピードで向かってきている。
リーシャにはそれがまるで悪夢を見ているかのように思えた。
ぶわっと悪い予感がリーシャを襲った。
リーシャの誕生日まであと2日
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