第二十三話 神童リーシャ


目を開けると窓から溢れた光が部屋を照らしていた。

眩しくて瞬きをしながらボーッと天井を見る。


自分が熱を出していたことを思い出しておでこに手を当てた。


うん。

熱はほぼ下がったな。


体を起こして周りを見渡す。

お母さんとルーンはまだ寝ているようだ。

床に足を着いてちょっとよろけて歩く。


「おはよ!」


ルーンがぱちぱちと瞬きしていたのでそっちに歩いていって顔を覗いてニコッと笑った。


「うわぁぁぁぁぁあ!!」


目を開けたら人の顔があってビックリしたルーンがベットの向こうまで転がっていった。


「な、なんだリーシャか…熱はどうだ?」


「ん、多分下がった。」


「そうか。よかった。」

「おなかすいたぁーご飯食べよ」

「病み上がりなんだから濃いもの食べるのやめとけよ。」


「わかったよぉ。口うるさいへっぽこ皇子様だなぁ」


「おい!…ったくもう」


階段を降りて見えなくなったリーシャに怒るルーン。


リーシャはパタパタと降りていき、シェリアンが昔、4年かけて作った冷蔵食料保管箱からリンゴを取り出した。

シャクシャクかじりながら窓の外を見た。


「?」


すると、リーシャが首をかしげる。

何か…何かがいつもと違う気がする。

こう、なんか視覚が不自然なくらいクリーンて言うか…世界がいつもよりキラキラして見えると言うか…


気のせいかな。


「リーシャー…おはよーう」


シェリアンが欠伸をしながら階段を降りてくる。

ルーンも一緒だ。


「お母さんおはよ!」


「熱、下がって良かったわ。あの熱治癒魔法が効かないもんだから…」


不思議なもんだ。どうして治癒魔法が聞かなかったんだろう?


「それよりもご飯!ご飯!おなかすいたぁー」


目をキラキラさせているリーシャ。


「私二度寝しようかと思ってたんだけどー」


ソファにバタンっと座ってウトウトし始めるシェリアン。


すると、はぁっと息をついてルーンが腕まくりして言った。


「しゃーねえな。俺が作るよ。」


「「?!ルーンって料理出来んの?!」」


「失礼な!そんくらい出来る!最近は魔法の調節が上手くなったんだ!ちゃちゃっと作ってやる!」


「ふーん。じゃ、私は二度寝するわー」


そう言って、階段を上がっていくシェリアン。


リーシャは椅子に座ってルーンを眺めている。

ルーンがはぁっと息をついてかまどに枝をたくさん入れて杖を向けた。


「〈ヒューム・リフェクト〉」


杖から小さな火の玉が飛び出し、小枝にぼうっと燃えつく。


「?!」


リーシャはビックリして目を見張った。


リーシャには火の玉が飛び出す直前に非常に小さな青いキラッと光る稲妻のようなものがいくつかルーンの杖先に集まるように見えたからだ。


そんなもの見た事がないので、目をこすってもう一度暖炉を見る。


いつも通りの普通の暖炉であのキラッと光る稲妻はどこにもない。


あれはなんだったんだろうか?と、気のせいだろうか?なんて思ってまたルーンを眺める。


ルーンは今、棚から小麦粉やバターを取り出して食料保管庫から牛乳も使って何かを作っていた。

フライパンの中身をヘラを使ってかき混ぜている。


豚の骨からとった出汁をすこーし入れてかき混ぜながら左手で杖を振った。


「〈フェラフドフォナス〉」


包丁がひとりでに村のおばさんがくれたパンを切り始める。


まただ。

今度のリーシャの目にはナイフが動き出す前に、ルーンの杖先から小さな稲妻がいくつかナイフがある方向の空中に向かってバラバラに飛んだ。

そしてその空中から今度はナイフに向かって同じような稲妻が飛ぶ。


するとナイフが動き出し、ナイフがパンを切る最中ずっとナイフの近くの空中の色々な所からでた稲妻がナイフの方向に飛んでいる。


信じられない思いでそれを見つめながらリーシャはルーンに言う。


「ねぇルーン。あれなあに?」


「何って?あぁ。俺でもこの位の魔法は出来るようになったんだ。」


ルーンはリーシャが指さしているナイフの方を見て、自分がやった『ナイフを細かく調節して動かす』という難しい魔法の事を言っているのかと勘違いしてそう言う。


「違う違う。その青い稲妻。」


「青い稲妻?何言ってるんだ?」


「見えないの?そのキラキラ光ってるやつ」


「なにが?」


「いや…あ、うん。何でもない」


そう言ってリーシャはキラキラしてる稲妻をまたまじまじと見始める。

ルーンには見えないらしい。


パンを切り終わってルーンが魔法を辞めると青い稲妻は無くなった。


その後もルーンが魔法を使う度、稲妻がキラキラと光る。


「出来た。リーシャシェリーさん呼んできて」


「らじゃ!」


トテトテと階段を上って寝室に行く。

あの稲妻、どっかの本で読んだことある気がするんだよね…

後でお母さんにも聞いてみよう


シェリアンはベットでぐーすか寝ていた。


「おかーさん!」


返事が無い。ただの屍のようだ。


「ご飯だよ!」


「もう食べられないよ…」


いかにもな寝言を言う。


するとリーシャは部屋の隅っこまで行ってこう言った。


「お」


リーシャが走りだす。


「き」


途中でビョーンと飛び上がってそのままシェリアンのお腹目掛けてダーイブ!


「て!」

「ぐふぅ!!」


お腹を抱えてピクピクするシェリアン。


「おかーさん起きた?」


「…リーシャはもう結構強いんだから本気で突っ込まないでぇ!!」


「本気じゃないよ?3分の2くらいかなぁ?」


「…とにかく!それやられたら2年後くらいには死ぬ!死ぬから!」


「お母さんが起きたらやらないよ?ほらほら。ルーンが出来たって!」


…明日からは必ずすぐ起きようと決意したシェリアンであった。



◇◇◇



「サラダとクロックムッシュ、コンソメのスープだ。」


リーシャとシェリアンの目の前のお皿にはトロっとしたクリームソースとカリッと焦げ目がつけたチーズと柔らかそうなハムが入った大きなクロックムッシュがドーンっと乗っていて、左の方の木の器には採りたてのレタスとトマトのサラダ。しかも見たことの無い人参のドレッシングがかかっている。

スープも透明感があってなんかもう全てがキラキラしている。


「ほわぁー。。ルーンって料理上手かったんだ…」


「えぇ。下手すれば大公家で食べた朝食より豪華なんじゃないかしら。」


「俺はサボり魔で出来損ないだったがな。料理だけは楽しかったから城のシェフと交渉(という名の脅し)して料理を教えて貰ったんだ。料理なんて皇族らしからぬ行為だから母上にも父上にも言ってないけどな。案外、父上は知ってるかもだけど。」


「じゃ、じゃあ城のあの美味しい料理と同じ味って事?!」


「同じ味までは行かなくても近い味だ。」


「うわぁ。うわぁ。」


2人はゴックンと唾を飲み込む。


「「いっただっきまーす!」」


パクっと食べるとこのクリームソース!最高!最高!

クリーミーなソースにカリットロッなチーズが加わってそこにハムがはむっと!そしてこのパン!いい感じにソースが染み込んでてあぁ。まいう〜〜


サラダもスープも忘れられない味!


ほらほら。そこの貴方も食べたくなってきた?


「あ!リーシャには濃いもの食べさせないようにって思ってたのに!」


「いいじゃんいいじゃん!もう熱出したのが嘘のように元気なんだから!」


クロックムッシュを頬張りながら言うリーシャ。


「あぁー失敗したなぁー」


「それはそうと、あの熱はなんだったんだろー?なんか不思議だったよねぇ。」


「治癒魔法も効かなかったしね。」


「うん…あ!そうだ!お母さん。今日、朝起きたら魔法が起こる時なんか、こう稲妻みたいのがキラキラッと光るんだけどあれなんだろう?ルーンは見えないみたいだし…」


「え?稲妻?」


「あぁ。さっき言ってたヤツか?」


「うんうん。」


リーシャはとっくに食べ終わった空の皿を見て残念そうにしながら言った。


「…それって…アイリス騎士団のやつじゃ…?」


考え込みながらシェリアンが言う。


「え?」


アイリス騎士団と言ったらあの平和の騎士団って言うやつだろうか?


「アイリス騎士団員っていうのはみんな魔法が『見える』って言うでしょ?それで何故か分からないけど物を操ったり万物を消滅させる虹色の槍みたいなのとか出せたりするの。でね?何回か会った事あって聞いたんだけどアイリス騎士団に入る為にはそういう素質がないといけないのよ。」


「素質?」


「えぇ。5歳から15歳くらいの間にある日突然、魔法が『見える』ようになる子がいてね。その子達をアイリス騎士団が特別な道具で探し出して訓練してもっとよく『見える』様にしたりして騎士団員にさせるのよ。」


「へぇ。」


「いわゆる超能力者ね。で、彼らに会った時どんな風に『見える』んですか?って聞いてみたら青い稲妻や紫の稲妻が光って教えてくれるんだって。とっても印象的だったからよく覚えてるわ。」


「…じゃあ、私もそうだと?」


「可能性の話よ。」


「なんか最近リーシャの意外な事実が発覚しすぎてるよなー」


ゆっくりクロックムッシュを食べながらルーンが言う。


「えぇー。」


「とにかく、色々実験してみましょ。リーシャがお婆さんにセナーラン王家だって言われたのも、リーシャに『素質』があるかも知れないってのも万が一情報が漏れたら大変な事になるから私達が直接皇帝に会いにいかないと。リーシャの誕生日の後、すぐに行きましょ。」


「う、うん。」




◇◇アイリス共和国◇◇



「…なんだ?」


少し前にセナーラン戦争の話を弟子にしたアイリス騎士が自身の弟子が自分の部屋に入って来たのを見て言った。


「師匠。共和国内に居る七大騎士とセコンに招集です。」


七大騎士というのはアイリス騎士団で一番上に実力も知恵も位置する七人の者。

セコンというのは七大騎士の1つ下の階級に居るアイリスの騎士達だ。


師匠と呼ばれたその人は『セコン』に位置していた。


「分かった。内容は?」


「はい。驚くべきと言うか…その、喜ぶべき事なのですが…」


「あぁ。」


「4年ぶりに『素質』のある者が現れました。」


「何?!」


そう。4年前までは素質のある者が、1年に10人は出てきていたのに4年前、突然1人も出なくなったのだ。


「魔道具によるとカシュクラン帝国東側だそうです。今すぐに招集と。」


「…わかった。今すぐ行くと伝えてくれ。」

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