第二十二話 悪夢


お婆さんが出ていってから少ししてさっきの村長がドアからひょっこり顔を出した。


「あの変な婆さんがなんかウッキウキで出てきたけどなんかあったんですかい?」


それまでずっと頭をぐるぐる回転させて今婆さんに聞いたとんでもない情報をどうにか消化しようとリーシャ、ルーン、シェリアンの3人は黙りこくっていた。


場違いな雰囲気でひょっこり顔を出した爺さんに3人は顔を見合わせる。


「あ、あーえとー」


「?」


「あー、お婆さんがなんか変な詩の話をしてくれてー」


「あぁ。センターランドがなんちゃらなんちゃらって詩ですかの?胡散臭いったらありゃしない。元々センターランドは神話で出てくる地。現在のどこを位置しているのかもまだ分かって無いのじゃからの。」


「あーそうですねー。そうですよねーアハハ。」


棒読みでリーシャが言う。


あのお婆さんが言ったことも信憑性が無い。

リーシャがセナーラン王家なんて真実味が無いし、セナーラン貴族に茶髪青眼の子供が産まれるというのは図書館で教えて貰って知ってるけど、もしかしたらその年にどこかお婆さんの知らないところで茶髪青眼の子ーー祝福の子が産まれたのかもしれないじゃないか。


「ま、まぁとにかく今日はダズさんも届けられましたし、リンゴも頂いちゃったし少し興味深…変な話も聞きましたしお暇させていただきます」


シェリアンがぎこちなさそうに言う。


「おぉ。そうですか。またいつでもよってください。あっお土産にリンゴでもどうですかな?」


リーシャ達は村のおじいちゃんおばあちゃん達にリンゴ20個を持たされて転移魔法で村に帰った。


リーシャはその人達が何となくお爺様に似ている気がしておかしくなった。



◇◇◇


それからリーシャ達は森へ行って無心でモンスターを狩った。

ルーンがB級モンスターを初めて単独で狩ったこと以外、別に何も無く狩った大量のモンスターの一部を焼肉にして、庭で育てている葉っぱに包んで食べた。


そういえば、シェリアンの経営する雑貨屋はいつも雑貨がドンっと置いてあって村の人達が勝手に貰って勝手にお金を払うというゆるーいシステムで成り立っているので大してやることも無い。


雑貨と言っても、筆記道具はあるにはあるが文字が読めない人も居るためそんなに売れないし野菜や肉も村で作っているので売らなくていいので、塩やら干し魚やらあとは機織り機、糸、とかそういうものばかりが売れる。


つまり雑貨屋というよりか村人はなんでも売ってる屋みたいに思っていた。


村人達はシェリアンが突然住み着き、そんな働いても居ないのに大金を持ってる事を知っていたし、その上とても強い事も知っていたので何かワケありなのだろうと思われている。


話はそれだが焼肉を食べた3人は家へ帰った。


「はぁ…今日大変な1日だったわねー」

「うん。ホントに」

「あー眠い。」


3人は家に入ると思い思いの椅子に座って背もたれに持たれかける。


「2人ともどう思う?」


リーシャがそばに置いてあったクッションを取って抱きしめながら言った。


「どおってー?りんごの事なら俺が全部食べるよ。」


ルーンが夏用の薄い毛布を自分の方に引き寄せながら言う。


「そうじゃなくて!あのお婆さんはっきりいって怪しいよ」


「そうかー?うそついてるようには見えなかったけどなぁ。…むにゃ」


なんて言ってルーンは大きなソファの隅っこで毛布にくるまってウトウトし始める。


「えー」


「リーシャ。私も嘘ついてるようには見えなかったわ。リーシャが本物の王女様かどうかは分からないけど、可能性は大いにあるわ。リーシャの能力が高いのも第一と第二の天使の能力が合わさったからって言ったら辻褄が会うかもしれないじゃない?」


「えぇー」


「ともかく、あの人の話とあの唄が本当だとしてカガクってのは何なのかしら?」


「『セカイは無し、我らがセカイというものは世界では無し』ってのも気になるし『いつか異形の生物訪れて』ってのも異形の生物ってなんだろう?」


リーシャが考えながら言う。


「え、もしかしてリーシャあのお婆さんが言ってた唄全部覚えてるの?」


と、まさかねとシェリアンが聞く。


「? もちろん。お母さんも覚えてるでしょ?」


「私情報引き出すような物騒な事は得意だけど、記憶力とかそういうの苦手なのよ。ましてや1回で覚えるとか普通ムリよ。」


「そうなの?ルーンも?」


「…俺をなんだと思ってんだ?帝国随一のだめだめ皇子様だぞ?俺ができるなら他の奴ら皆できてるさ。んじゃ、おやすみシェリーさん、リーシャ。」


そう言ってルーンはソファの隅っこで寝息を立て始めた。


「もう!ちゃんとベッドで寝なよお!だらしないお兄ちゃんだこと!」


「まぁいいじゃない。さぁリーシャもお風呂はいって寝なさい。」


「はーい」


そう言ってリーシャは外にある小さな小屋に行く。

貴族として育ったシェリアンが普通村人は水で身体を流すくらいなのに我慢できなくて風呂場を自力で作ったのだ。


石でできた浴槽にリーシャは杖を向ける。


「〈スロフォーニアス〉」


杖から水が溢れ出て浴槽に溜まった。


「〈ヒューム〉」


ぽっと小さな炎が杖の先に出来た。

唯一全然出来なかった火魔法だが、最近何とか小さな炎を灯すことには成功したのだ。


リーシャはそれを浴槽の中に入れる。

じゅっという音がして火は消えるが、絶えずエネルギーを流し込んでいるので杖先はとても熱くなる。


浴槽を杖でぐるぐる回して温める。

ちょうどいい温度になったくらいで杖を水から出してポケットにしまった。


リーシャは着替えてからシェリアンが城から(勝手に)持ってきたとても良質な石鹸を持って風呂の湯を使って身体を洗い始める。


その間ずっと考えていた。


私は本当にセナーラン王家なのだろうか?と。


まさか。


でももし、そうなら私の“ママ”に会えるのかな?

…いや、違う。セナーラン王家は戦争の時、殺されたんじゃないか。

…じゃあどうせ会えないのか。


…本で読んだことあるけどセナーラン王は数々の悪行を起こしてたらしい。それをセナーラン王の弟が正したっていう歴史だけどそれは本当だろうか?


そういえば皇帝陛下はセナーランを良い風に見てたな。

なんでだろう?


イレークスが帝国の東側にあるって言うのは何か意味があるのかな?


ドンデは私が生きている事を知ってるのかな?


ドンデは私がここにいるから東側と言ったのかな?


それとも単なる偶然?


あー。わかんないや。


リーシャは布団に潜ってからも考えている。


そうだ!あの火の中の記憶は本当にセナーランの城なのかな?

じゃああの人は王妃様?


あの人は最後になんて言ったんだろう。


……


◇◇◇


気がつくと火の中を走っていた。


すぐにこれが夢だと気づいたが、例え夢の中であろうとなぜかたくさんの火を見るととてつもない不安が襲ってきた。


怖い。寂しい。助けて。


そんな感情だ。


リーシャは昔、川に流されて溺れた時でさえ冷静な判断で周りを観察し戻ってくることが出来たのに、何故夢だとわかっているたくさんの火がそんなに怖いのか分からない。


でもただただ怖かった。


ふと、きっとこれはあの記憶が原因なんだと思う。

試合のあと、トラウマを見させて身体を活性化させる訓練法にもこれより酷い炎がでてきたのだから。


とにかく、リーシャはなにかの建物が崩れる音で耳が痛くなりそうな火の海をただ走っている。


不意にどこかで人の声がした。


助けなきゃと思うが足は一向に逃げる方向へ走る。


その止まない人の声を聞いていると、その声はリーシャの頭の中に直接響いているんだと言う事に気づいた。


火の海の恐怖で押し潰されそうになってから頑張ってその声を聞く。


逃げて!!


その声は言っていた。

逃げて!そこから逃げて!と。

もうやってるよと走り続ける。


その後も永遠に火の海があるかのように思えた。


実際、リーシャはその後3日も熱が出て寝込んでしまった。


そして、火の海の悪夢はその日だけだったのだ。






リーシャの誕生日まで6日

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