第三章 炎と真実

第二十一話 真実の詩


20日後…


「シェリアン様。お手紙でございます。」


リーシャが本を読んでいると前に座って本を読んでいるシェリアンの後ろにシュッと黒いスラッとしたローブを着た人がいきなり現れた。


びっくりしたァ。気配も感じなかったんだもん。


帝国の影ーー帝国諜報部隊かな?


「ありがとう。」


シェリアンは来るのが気配で分かっていたんだろう。振り向きもせず手紙を受け取った。


「失礼しました。」


またシュッと居なくなった。


カッケー!


「なんのてがみ?」


「うーんとね。サンデル殿下からよ。」


「お!サンデルからか!お兄ちゃんに会いたくなったのかな?」


ルーンが目をキラッとさせて言った。


「影で持ってくるって事は重要情報?」


「うーんと…あー最近ドンデで第二の天使が普段の仕事を放棄して王都に戻ってるらしいわよ。一応連絡しとくってさ。」


「…へー。不穏だね。」


「そうねーあ、あと10日後のリーシャの誕生日帝都に他国の偉い人が来るから忙しくて祝いに行けなそうだから代わりに凄いプレゼント帰ってきたら渡すってよ。なんかすんごい謝ってる。」


「えへへーうれしいなぁ」


「俺の事は?」


「一言も書いてないわね。」


「がーん…」


「それはそうともうすぐリーシャも6歳なのよねーそりゃ私も歳をとるもんだわー」


「いやお母さんまだ20代だよね?」


「あーそうだっけ?まぁ歳なんてどうでもいいのよ。」


「普通は若く見せようとするんじゃないの?」


リーシャは呆れ顔でそう言った。


「私は小さい頃から今までずっと可愛かったからなー」


そういやお母さんって美人なんだよな。


「お母さんの婚約の話とか聞いた事ないなぁ。普通お母さん位の女貴族って結婚してるもんじゃないの?お母さん美人だし家柄もいいしよってたかって来ると思うんだけど。」


「そういや俺が城にいた時もきいたことないな」


「来たわよ?でもね。この村に逃げる3年くらい前にね、毎週来る恋文なんかがウザくて私に結婚関連の話を持ちかけた貴族全員集めて目の前で彼らから来た手紙をバラバラにしてこう言ったのよ。『私に勝てたら結婚してやってもいい!』ってね。そしたらあら不思議。誰も私にそういうモノ送ってこなくなったわ。ちょっと脅かしただけなのにねー?まぁこの話もルーンがまだちっちゃな頃だったからね。知らなくても無理はないわ」


「ハハハ〜…いや、怖ッ!」


貴族さんたちお気の毒です。


ゴーン…ゴーン…ゴーン…


村にただ一つだけある鐘が正午を告げた。


「さあー!行きますかぁ」


シェリアンが伸びをしながら言った。


今日は盗賊が村を襲った時、重症になっていたダズさんって人が完治したので村に送り届ける予定なのだ。

せっかくだからとルーンも行く事になった。

帰りにモンスター狩りに行く予定なのだ。


「ダズさーん!もうすぐ行きますよー」


上の階で荷物を整理しているダズさんをリーシャが呼ぶ。


「分かりました!」


うーん。今まで殆どの登場せずにお別れになっちゃったなぁー。

今のダズさんは長い時間をかけた治療が終わり、腕も元に戻った。


でも結局、盗賊に化けてたドンデの騎士団長についても分からずじまいだし、学園内のスパイも手がかりを掴めずにいる。

魔法奴隷に関しても、男爵の側近さえ甲冑姿しか見た事なくて中身を知らなかったらしい。


それになんか、ワリィンさんに違和感を感じるんだよな?上手く説明出来ないんだけども…


色々上手くいかないもんだなぁ


「リーシャ!魔法陣書くの手伝って!」


「はぁーい!」


リーシャは庭に出てテキパキと手伝い始めた。



◇◇◇



「なんかなっつかしー!」


ダズさんの故郷、偽盗賊団に襲われていたリネン村に着いた。


どうやら盗賊に襲われて荒らされた所は復興したらしい。


「ダズ?!ダズじゃないのかい!」


洗濯物干していたおばさんがこっちに駆け寄ってきた。


「おばさん!久しぶり!」


「良かったー、よかったなぁ?お前が全然返ってこんからもしかしたら冒険者シェリーってのは嘘でお前がさらわれたんじゃないかと心配してたんよ」


「違う違う。ほんとに良くしてくれたよ。」


「やー失礼なこと思って申しわけないですよ。ささ、村長の家でこの村名物のリンゴでもどうぞ。」


そう言うおばさんにリーシャとシェリアンとルーンは着いて行った。



◇◇◇



「いやぁー!うちのダズが世話になりましての!本当にありがたや!」


「いえいえ…」


隣でシェリアンと村長がそんな会話をしているのを聞きながらリーシャはリンゴを頬張った。


うひゃー!サクッと硬いのに口に入れた瞬間果汁が溢れ出す〜あー幸せ。


ルーンも隣で幸せそうな目をしている。


「なぁ。リーシャ。城で食べるのよりももぎたての方が美味しいかもしれんな。」


とこっそりルーンが耳打ちしてきた。


「そっかーじゃあ私のも欲しい?」

「いいのか?!」

「ダメー」

「ちぇっ!」


「ルーンが私にちょうだいよ。」


「やーだね!」


ぷいっと向こうをむくルーン。


「ルーンは私と兄弟(って設定)なんだよ?お兄ちゃんは妹に分けてあげるもんなの!」


「やだね!そっちこそ妹なら兄にリンゴを捧げろ!」


「ぐぬぬぅー…」


「ほら!おにーちゃんは偉いんだぞ!」


ゴツン


「「イッタ!」」


シェリアンが2人の頭をゲンコツで叩いた。


「んな、どーでもいい事で喧嘩しないの!」


「「だって『リーシャ』『ルーン』が!」」


2人が互いに指さして言う。


「ははは。ほほえましいのぉ!リンゴならたくさんあるからいくらでも食べるといい!」


「「やったぁー!」」


「ほんと、いっつも大人じみてるのにこういう時だけ子供なんだから…」


「それでのぉ。シェリー様。ついでと言ってはなんじゃが1つ相談に乗ってくれんかの?」


「相談?」


「えぇ。最近この村に変な旅のばぁさんがきてのぉ。なんか世界が危機に陥るとか何とか言う、変な婆さんで…」


「およびかえ?」


村長家のドアがキーっと開き小さなおばあさんが顔を見せた。


濃い紫のローブをしていていかにも占い師でーすみたいな格好をしている。


「村長さんや。ワシのことを変なばあさん言ったんかい?ワシは全然変じゃないぞい。ボケてるんでないか?」


うわー。またなんか新しいキャラ現れたな。キャラ増やしすぎじゃない?いつか多分誰が誰かわかんなくなるよ。


おばあさんを見てそんな事を考えながらシャクシャクとリンゴを食べるリーシャ。


おばあさんと目があった。


その瞬間、おばあさんの口が顎が外れるほど空いた。そしてまるで時間が止まったようにそのまま動かなくなった。


「お、おばあさん?大丈夫?」


リーシャが恐る恐る聞く。


「な、な、」

「な?」

「なんでここにお主がいるんじゃ?!」


おばあさんがリーシャを指さして腰を抜かした。


「へ?」


やっぱりボケてるのかな。


「私、おばあさんとあった事無いと思いますけど。」


「や、や、そゆう事じゃなくてな…ええい!とりあえず村長!出ていってくれ!」


「なんじゃと?ここはワシの家なんだがの?」


「いいからいいから!今すぐ出ていかんと呪いをかけるぞよ!」


「はぁ…もう好きにしてくれや…」


村長さんが出ていった。


お婆さんが杖を取りだし振った。

この感覚…この振り方…防音魔法の無言魔法?なんで?

しかも何個かロックがかかっている。


「あのーおばあさん?どうしたの?」


「なんでお主がここに居るんじゃ?!」


もっかい同じ事を言われてもなぁ?


「あのー人間違えでは?リーシャは私の娘で私と一緒に怪我したダズさんをここに送り届けるために来たのですが…」


シェリアンが困ったように言う。


「私の娘?!いや、そんなわけ無かろう?彼女は茶髪青眼だぞ?!こんな小さい茶髪青眼なんて1人しかいないだろう!」


まさか私の正体を知ってるんじゃ?


「…茶髪青眼について何か知っているんですか?この子は捨て子なんです。5年前に私の家の玄関に…」


「ムムム…ハハハ!面白い縁もあるもんじゃ!その子は…」


私は?!


「セナーランの王女じゃ。」


「「「は?!」」」


な、何言ってんだ?この人…


「うむ。間違いないぞよ。茶髪青眼というのはセナーランの王族か貴族にしか現れない現象じゃ。しかも稀も稀。彼らは生まれ付き魔法能力が高いと言われる、祝福の子じゃ。6年前生まれた王族の子が祝福の子だと言うのはセナーランの貴族なら誰でも知っている。」


「でも、まさか…私がセナーラン王族なわけ無くないですか?ほら別のセナーラン貴族とかの場合も…」


「いや、王女の次に幼い祝福の子は今15歳歳。まさかお主が15歳とは言わないであろう?」


「6歳です…」

「ほらの!」


「…うわぁ。マジでリーシャってあの、セナーラン王家なのか…」


ルーンがアホみたいに口を開けながらそう言った。


「でもなんでうちの前に…」


「とにかく良かった!良かった!世界が滅ばなくてすむわい!」


「世界が滅ぶ…とは?」


「じゃ。我が家系に代々伝わる伝承じゃ。」

「どんな?」

「そうじゃなぁ…詩のような物でなーー」


◇◇◇


セカイは無し

我らがセカイというものは世界では無し

世界は広し

無限に広がる様

セカイは檻

我らはそこにあり

我らそこで栄える

その檻を出る者は

世界から消しされし


センターランドはセカイの柱

センターランドが滅ぶなら

混沌の時代が訪れり


秩序は破られ

精霊は怒り

魔法は死ぬ


いつか異形の生物訪れて

我ら抵抗する術もなく

我ら全てが滅ぼ去る


センターランドが栄えるなら

それで生きよう思うなら

備えよ魔法

捨てよカガク


センターランドが滅ぶなら

それでも生きよう思うなら

備えよカガク

捨てよ魔法


カガクとは世界の要

カガクとは世界の理


センターランドが滅ぶまで

この唄誰にも伝えるな

センターランドが滅ばずに

その唄他人が知るならば

その者すぐに息絶えり


センターランドが滅んでも

センターランドの主が居れば

彼にこの唄届けでよ


センターランドの主に告ぐ

センターランドが戻るなら

必ずこの歌消滅させよ

これは有ってはいけない唄


この唄知るもの

セカイに八人


センターランドの主に告ぐ

センターランドを戻すなら

秘密を見つけ城に戻れ



我らがセンターランド

その名をセナーラン

我ら栄光なるその地よ


永遠に栄あれ


◇◇◇


「うわぁ…」


リーシャ達3人はお婆さんの読む詩に聞き入っていた。


なんかカッチョいいもん。


「セナーランから円形状にセナーランを継ぐものがいないか探しながらこの唄を広めて旅をしてたんじゃ。殆どがさっきの村長みたいに変な奴だと思われるばかりだったがな」


「お婆さんは何者なんです?」


シェリアンが聞く


「セナーランの男爵家じゃ。セナーラン戦争の時にあった貴族狩りの時、セナーラン王家と血の繋がりが無いとされて滅ぼされなかった家系の1つじゃ。」


「そうなんですか…」


「この唄はの。いつも家系の中で2人が知っていた。主に家系の主と跡継ぎだな。跡継ぎが主となりその後、主だった者が死んだらその孫に伝えられる…とそんな具合にいつも2人しか知らんかった。しかしワシの場合孫も居ないで息子が死んでの。結局ワシしかこの唄を知らなかったのじゃ。最も唄を知るもの世界に8人という伝承じゃからあとうちも含めて4つの家系に伝わっているということじゃな。滅んでなければ。」


「なるほど」


リーシャがふむふむと頷いた。


「唄に出てくるセンターランドの主ってのはリーシャのことかな?」


ルーンが呟いた。




「よっこらせっと」


お婆さんが立ち上がった。


「ワシはこの唄を広めるためまた旅に出るぞよ。あとはその子しだいじゃ。またどこかで会えるといいな」


「…はい!お婆さん!」


リーシャはそう言ってニコッと笑う。


お婆さんは防音魔法を解除すると村長の家からドアを開けて出ていった。


ここからリーシャの波乱の10日間が始まったのだ。

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