第十九話 みんな大好きテンプレ
「…はぁ。魔法奴隷なんて…この間の盗賊も不可解なことばっかりだよぉ…」
リーシャはサンデル殿下が項垂れているのを見て苦笑いした。
「ほんと、迷惑をかけてばかりで…」
「たかが男爵が、強い魔法奴隷なんて絶対買えないと思うんだよなぁ。。魔法奴隷って希少でなんでもさせられるからとんでもなく高いはずだからね…」
「ですよね。」
「大きな貴族か他国が関わってくるかもしれないね。まぁ、この後のことはこっちで色々調べとくよ。ワリィンさん…だっけ?色々聞きたいし、とりあえずこの屋敷に居てもらいたい。ここの屋敷何故か秘密の通路がたくさんあってねー。この前僕が見つけたとびっきりの超スイート客室使っていいからさー♪」
「恐れ入ります。」
「あのーサンデル殿下!よく考えたら私何故かワリィンに5歳でそんだけ身体能力が高い人は私だけーみたいな事言われたんですが、なんで皆私がちょっと運動が出来るのを知ってるんですか?」
皇帝陛下の策略でリーシャは病弱って設定だったはず。
「ち、ちょっとって…リーシャがちょっとだったら僕は何なの?」
サンデルが苦笑いしながら小声で言う。
「?」
黙っているサンデル殿下を見てリーシャは首を傾げる。
「まぁいいや。前シェリー姉ちゃんと一緒に盗賊追い返したでしょ?それを家のスキマから一部始終見てた人がいてさ。空中から紐が出てきたのを見てリーシャは魔法力がすっごくスゴいって広めたんだ。すると噂が噂を呼んで巷ではリーシャの事、神童とか天使の先祖返りとか色々言われてるよ。」
「私が聞いたのは“帝国の光”ですね。」
は?
「なんだそりゃ」
もはやイミワカラン。
「で、リーシャが馬車に乗り込んだって事はなんか用事があったんじゃないの?」
「あ、そうです!私冒険者になる事にしたんです!」
「へぇーそっかぁーシェリー姉ちゃんの紹介状?」
「へ?ショーカイジョーってなんですか?」
なんか嫌な予感がして聞き返す。
「え?知らないの?S級以上の紹介状があれば超面倒臭くて超辛い冒険者試験受けなくて済むんだよ?」
「え、そうなんですか?紹介状あればあの噂に聞く超超面倒臭くて超超超辛い冒険者試験受けなくていいんですか?!」
噂に聞けば1ヶ月に1回冒険者試験は新人冒険者を調子に乗らさせないために、一人づつS級と対峙させられるあげく、例えば体力測定とか何とか言って体力のギリギリまで走らせられたりするのを1日がかりでやってとにかく面倒臭くて大変らしい。
それを受けなくていいと?!
あ、なんかお母さん行く前になんか『私も受けたあの超面倒臭い試験をリーシャも受けるのよーー!!アーッハッハッハ!』とか言ってたような?
あん時はそりゃ受けなきゃなれないんだしとか思ってたけど、お母さんが紹介状さえ書けば受けなくて良かったのかァー!!
てゆうか今日は試験がある日だからルーンと一緒に遊びに行こうと約束してたのを謝って辞めて貰ったのにー!
「ガァァァァァーーーーン!!」
◇◇◇
「ここかー」
リーシャは目の前の建物を見上げた。
周りよりも数段豪華で大きいその建物の看板には冒険者ギルドの剣と杖のマークが書いてある。
そういえば冒険者について本で読んだな…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
古代より活躍してきた冒険者。
危険なモンスターを狩る、危険な仕事。
いくつもの国を跨いだ仕事。
年齢制限は無く、実力で全てが決まる仕事。
それをまとめる冒険者ギルドは各地に点在し、唯一の共和国でありセナートゥス(元老院)やアイリス騎士団(平和の騎士)の拠点でもある『アイリス共和国』に各地の冒険者ギルドをまとめたギルドのトップが居る。
実績を上げ、民の信頼を勝ち取ればいつかそのトップになり一国を治める一端を担う事になるかも知れない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本当に夢のある仕事だなぁ…
そんな事を思いながらリーシャは人が多く出入りしているギルドへ入っていく。
そういえばギルドの隣の建物も随分大きな建物だけど何だろう?
ガヤガヤとするギルドに入っていくと大きなギルドの見取り図が横に見えた。
受付はどこかなとその見取り図を覗く。
「広っ!」
さすが大きな街。二階建てのギルドは色々な目的別の大きな受付(以来受理受付、終了受付、ヘルプセンター、冒険者試験受付、等々…)があってモンスター解体所、職員室、どデカい倉庫、会議室や飲み屋なんかも入っている。
隣の建物は闘技場兼訓練場で試験でも使うらしい。
もしかしなくとも帝都のギルドはもっと大きいのだろうか?
ちょっと色々廻って見たくなる。
「えーと、試験用受付はと…」
場所を確認して受付まで歩いていく。
冒険者試験受付にはかなりの人数が並んでいた。
若い人が多く、まだ10歳位の者、ヒョロっとした者、太った者、大剣を背負った者…とにかく色々居る。
質素であったり豪華であったり様々だが防具を着ている人が多く、少数のお金持ち以外はみんな茶色とか単色の服を着ている。
そして、緊張でか皆しかめっ面をしていた。
まぁともかく、冒険者試験受付に並んでいてリーシャみたいに5歳で普通の町娘の服を着ていて鼻歌歌いながら楽しそうにしている者はリーシャ1人しか居ないのだ。
当然注目が集まった。
周りからヒソヒソと言う声が聞こえている事も周りの人がみんなリーシャを見ているのもリーシャは知らずに夕飯の事を考え始めた。
そんな中1人の冒険者がゲラゲラ笑ってリーシャを指さしながら言った。
「ハハハハ!!ちっっちゃな女の子が試験受付に並んでやがるぜ!!見ろよ!どうちたんでしゅかー?おかあしゃんとはぐれちゃったんでちゅかー?」
周りの冒険者がつられて笑い出す。
リーシャはその言葉を聞いて、誰に言ったのかキョロキョロと当たりを見渡した。
だがリーシャ以外に『ちっっちゃな女の子』に当てはまる人が周りにいない。
「えっとー?それって私の事?」
「ハハハハハ!!お前以外にいるかよ!WWW」
「じゃあ私は今日一人で来たからお母さんとははぐれてないよ?」
「は?」
「私は今日冒険者になりに来たのー!」
一瞬辺りが静まり返る。
次の瞬間さっきまで笑ってなかった人も含めて笑いだした。
「何事だ!」
男が奥の方からやってきた。
だれ?
「こんちゃっす!ギルドマスター!」
ええー!ギルドマスター?!
なんか見た事ある展開な気がするのは気のせいだろうか?
「何騒いでいるんだ?!」
「いやぁここの子が試験を受けるって言うからちょっと笑っちまいましてね」
「…ここの子って」
ギルドマスターがリーシャを見る。
「…はぁ」
次の瞬間ため息をついた。
ん?なんかだんだんムカついて来たぞ?
「悪い事は言わないからやめとけ。」
「なんでですか?」
「これな?受ける分にはいいんだがもしダメだったら金を払わなきゃならない。毎月毎月とりあえず受けに来るやつの対策でな。」
「それで?」
「嬢ちゃんダメな時の金払えるのか?」
呆れたような目でリーシャを見るギルドマスター。
「払う必要ありませんよ?受かるから。」
冒険者試験は面倒臭くて辛いけど合格率はまあまあ高い。
ルーンがよくリーシャなら楽勝で普通の冒険者になら勝てるってよく言っているし、お母さんも実力で落ちるとは一言も言ってなかったからまぁ多分というか絶対大丈夫だろう。
「なんでそう言いきれる?」
腕を組んで言うギルドマスターに少しムッとしながら言い返す。
「私、強い級は無理かもしれませんが少なくともそこら辺の冒険者よりかは強いと思います。」
「思おうが思うまいが関係ない。大事なのは事実だ。」
「事実を言っているんですが?」
あーやばい。追い返されたりしないよね?
「はぁ…だいたいお前は何が出来るんだ?」
「魔法と剣と弓と…あと体術や槍もかじる程度ならやりました。」
その瞬間また爆笑が周りで起こる。
ムッカァ
「なぁ。棒振り回したら剣が出来るって事になる訳じゃ無いんだぜ?魔法だって杖の先に明かり灯すくらいなら何の役にもたちゃしない。まぁお前ぐらいの歳でそれが出来るなら大したもんだと褒めるべきだがな?冒険者は無理だ。諦めろ。」
ムッッカァァァ!!
「冒険者に年齢は関係ないのでは?この年齢だからとそうやって文句を仰るなら大きく書いたらどうですか?何歳以下お断りって。」
「口だけは達者なようで。俺は親切で言ってやってんだ。お前が金を払わなくて済むようにな。」
小馬鹿にしたようにギルドマスターが言う。
「相手の実力もちゃんとみずに親切?バカバカしい。余計なお世話です。」
「黙って聞いていたら…!大人をバカにするな!」
「いいえ?馬鹿になどしていません。逆に私の方こそ馬鹿にしないで頂きたいです。」
「…はぁ。わかった。わかった。どーぞ試験をしたらいい。その代わり今すぐ俺と勝負して俺に認められたらな?」
周りの人達が歓声をあげる。
何故?
「分かりました。場所はどこですか?」
「ギルド前の広場だ。少し狭いがまぁお前の鼻を俺が折るだけだ。すぐ終わるさ。」
そう言いながらギルドマスターはそこら辺にあった木剣を2つ持ってギルドの扉に向かう。
それにリーシャもついて行き、この時には大量になっていた野次馬もゾロゾロたくさん着いてきた。
「引退したとはいえギルドマスターは元A級だぞ?あの小娘は何がしたいんだ?」
そんな声が聞こえた気がする。
ギルド前の広場に来たリーシャは木剣を受け取る。
試合は次回!でも皆さんなら結果は分かりきっている事でしょう。
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