第二十話 暗闇へのカウントダウン


リーシャは木剣を受け取る。


「…これって魔法を使っても構わないので?」


「別にいいぞ?」


「そうですか。」


「お前ら!大人をバカにしたこの子供は俺に試合を挑んだ!まぁただの子供だ。かるーく教育するだけだがな。」


わぁぁぁと歓声がる。

ようく耳を澄ませて周りの人達の声を聞くとどうやら普段は真面目そうなギルドマスターだが聞き分けの悪い奴が居ると、模擬戦だとかなんとか言って徹底的に懲らしめるらしい。


チラホラとあの子が可哀想だとかそんな声が聞こえた。



それにしてもこの人は何言ってんだ?


大人をバカにしたつもりは無いし試合を挑んだ覚えもない。


「あの?試合を挑まれたのは貴方様の方では?」


「何言ってんだ?ガキの癖に生意気だな!」


あぁ。この人はダメだ。


「さっさとかかって来い!時間が無いんだ!臆病風に吹かれたか?」


元A級とか言ってたから、多分勝てはしないだろうけど周りにたくさん人がいるしそれなりに打ち合えたら認めて貰えるだろう。


リーシャは右手に木剣をしっかりとと持って目を瞑る。


人間は危機的な状況など、そういう無理をしなければ死んでしまったり危険な目に会う時は本能で本来使っていない筋肉や頭をフル回転で使ってその状況を脱出しようとする。

しかし無理をするのだから当然その後その分の代償が来る。


でももし、普通の戦闘時少しだけ無理をして普段よりも少しだけ1…割だけでも、多く力を出して戦える事が出来れば

その戦闘の時はたくさんの力を出す事が出来るしやりすぎると良くないがそこを上手く調整出来れば短時間で強度なトレーニングができる。


シェリアンはそういう普段使えない、それ以上の力をコントロールして引き出す事が出来たリーシャが知る限り初めての人だ。



その方法とは、戦闘や訓練時にわざわざ負けたり失敗したりしてその後に高度な魔法で恐ろしい幻覚を何度も見せる事で、

自分の体に負けたら恐ろしい事が起こるぞ!と教え込むわけだ。

それを何度も何度もやって、するといつもよりとても身体がよく動く様になる。

これを息の仕方を変えたり大声を出したりしてコントロールする。


これは習得するまで、何度も何度も自身の最大のトラウマを引き出してくる幻覚魔法を何回も何回もかけられないといけないし、その幻覚魔法でさえとても高度な魔法使いでないと使えない。

びっくりするほどどんどん運動能力が成長していくが、使うと体が痛くなる。

しかも力を制御するのがめちゃくちゃ難しい。制御しきれないと体を壊すので寝たきりになる可能性もある。


シェリアンもこの危ない訓練法は公開しなかった。

これを使って子供達を教育しようとするのが怖かったからだ。


もちろんリーシャにも教えなかった。



でもなのにリーシャはシェリアンが訓練しているのを見て、自分でシェリアンが書いた幻覚魔法陣を使って見様見真似でこっそり訓練をやってしまった。


お母さんに認められたくて死にそうになりながら何とか出来てしまったのだ。


出来たー!っと言ってリーシャがシェリアンに見せに行った時、泣きそうな顔をして回復魔法をかけまくっていた。



まぁそんなこんなでリーシャはこの最恐であり最強の戦闘方法や訓練方法が出来るようになったのだ。

それがあったからリーシャは異常に強くなれた。


大きく息を吐いて呼吸を整える。


目を開けて真っ直ぐギルドマスターを見た。



「行きます!」


魔法奴隷だったあの人にやったようにリーシャはマスターに走っていったが、途中で超速になりシュッと消える。


次の瞬間ギルドマスターの目の前に現れたリーシャは空中でシュッと木剣を振り下ろした。


カァァン!!


かろうじて反応し、マスターはリーシャの剣を受け止めた。


「くっ!」


あまりの速さに野次馬達は呆気に取られる。


リーシャは剣に全体重をかけた体勢から腕をバネの様にしてそのまま宙返りしてギルドマスターの後ろにトンっと降り立つと間髪入れずに斬り入れる。


◇ギルドマスター◇


ギルドマスターは必死だった。ギリギリ受け流してはいるが間髪入れずに斬り入れられる攻撃にだんだん限界が近づく。


するといきなりその小娘が杖を取り出した。


は?!


戦闘中に杖を取り出すなんて正気の沙汰じゃない!


何をする気だ!


小娘は変わらぬ攻撃を続けながら左手で杖を持ち何かを叫んだ。


するとすぐに地面から水の太い縄が出てきて足を縛ろうとしてくる。


「なっ…!」


これって上級魔法じゃ…!



何とか避けるがそこに気を取られたおかげで小娘の剣が腹を刺す。


「ぐっ!」


そして地面から出た水の縄によって足が囚われ転ぶ。


そのまま小娘の木剣が首数ミリの所に突きつけられる。


「こ、降参だ…!」


なんなんだこいつは!!



◇◇◇



「え…勝っちゃった?…なんで?…A級じゃなかったの?」


野次馬達がポカンと口を開けてリーシャの方を見てきている。


誰も喋らない。


「あ、アハハ…」


シーーン…


「…冒険者試験があるんで…サヨナラ!」


リーシャは逃げるようにその場を離れた。



◇◇◇



「へー?で結局試験を受けて冒険者になったんだー?」


サンデル殿下がさっき来たギルドマスターからの手紙を見ながら呆れたように言った。


「い、いやーまさかA級があんなに弱いとはて…」


「僕は君くらいの歳でA級が弱いなんていう人は初めて見たけどねー?」


手紙の中にはリーシャは試験の時、走らせれば全然バテなくて何時間も速くで走ってみせて、魔法を使わせれば全て上級魔法。新人がはしゃぎ過ぎないように用意されたS級冒険者を激闘の末、まさかの倒してしまうという全ての冒険者ギルド内で2番目(1番目はシェリアン)の快挙を成し遂げた。ちなみにその後にまさかのSS級が闘技場に立ち寄っていてリーシャと闘ったと言う。


リーシャは負けてしまったが、弟子にならないかとそのSS級が言ってそれをお母さんと言う最強の師が居ますので!

とかなんとか言って断ったので軽い伝説になったらしい。


しかもその後にリーシャがロンデンヴェル家だと言う事が分かってギルドマスターが土下座通り越して土下寝したんだとか。


一応、冒険者に規格外の子供が出たと国の上層部に連絡して置いた方がいいと使いがサンデルに手紙を送ってきたのだ。


(…これから机に置いてある大量の仕事にプラスでリーシャの事も一応報告書に書かなきゃいけないんだなー)


サンデルはリーシャを見て言った。


「リーシャ。僕を休ませる気ないよね。」



◇◇◇


3ヶ月後…


結局リーシャは多数の国で天才やら神童と呼ばれ、普通なら4.5年、またはそれ以上かかるはずのC級到達を3ヶ月で達成してしまった。


ところで、男爵がどうやって魔法奴隷を手に入れたかは今でも分からずじまいである。

ワリィンは行く宛てもなく自分がセナーラン貴族である事を言っていいかも分からずに、とりあえずサンデルの屋敷にまだ留まっていた。


後に、リーシャとワリィン両方にとってこの出会いは希望となるのだがまたそれは後のおはなし。


色々なごちゃごちゃが詰まった半年をリーシャは乗り切ったが、気づけばリーシャの誕生日まであと1ヶ月となっていた。










…そして、ある人の余命まであと1ヶ月となったのだ。




第二章 完

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