第十六話 街に入るまでが長いって話


リーシャは転移魔法から出て辺りを見渡した。

魔法が成功したならここはリーシャ宅に1番近い大きな街、サタリアンの入口付近なはずだ。

サンデルが治める領地の中で1番大きな街で帝都には及ばないが中々に賑やかな街である。


不意にリーシャはあっと何かを思い出すと茂みに隠れて自分に魔法をかけた。

茂みから出てきたリーシャは青い目が緑色になっていた。


「よし!」


城の図書館の司書、サンデラ様が冒険者ギルドに行く時は各地を旅する冒険者が茶髪青目の少女をみて何か勘づくかもしれないから目の色か髪の色を変えておけと言っていたのを思い出したのだ。


リーシャが石畳の道を歩いていくと大きな門が見えてきた。歩くにつれてだんだん人や馬車が多くなり賑やかになっていく。


門の前まで来ると街に入るための列が出来ていた。

どうやら身分証明書を見せて入るらしい。


いきなりリーシャが歩いているところにガラガラと大きな音をたてながら豪華な馬車が通った。


「どけ!小娘!」


豪華な馬車の近くにいた護衛らしき人が馬に乗りながらリーシャに怒鳴った。

格好からして騎士だろう。


リーシャがびっくりしてそっちを見ると


「どけって言ってんだよ!」


ヒヒーンと馬を使ってリーシャを脅かす。


「あのーすみません。そちらの馬車は貴族の方が乗っているのですか?」


リーシャはへっちゃらな顔をして騎士に聞く。

周りの大人達が心配そうな顔を浮かべた。


「小娘が何言ってんだ?もちろんそうだ!男爵様が乗っているのだぞ!お前には届かない方だ!」


「あのーその貴族の方の馬車はどうやら優先的に門に入れそうですが貴族の方はみんなそうなんですか?」


「当たり前だろう!貴族の身分証明書があれば門番達がどうぞどうぞと言うぞ!逆にそうしなきゃダメだからな!」


「そうですか…それは困りましたね…質問に答えて下さりありがとうございました!」


リーシャがぺこりと頭を下げる。


「お、おう?」


予想外に丁寧な態度にド肝抜かれた騎士がパカパカとその場を去っていった。


リーシャは自分のポケットに入っている自分の貴族用の身分証明書をギュッと掴んだ。


「あーまいったなぁー」


貴族の身分証明書をそれもロンデンヴェル家の身分証を門番の受付で出したらすんごい面倒事になるに決まってる。


お母さんが平民の身分証明書が無くてもどこへでも行けたのは転移魔法があったからだ。

転移魔法を使える人なんかほとんどいないからそれ用の対策を街はしていない。

というか出来ないのだ。


だから街の中へ転移すれば身分証明書など見せる必要がない。


リーシャは門から入って街を見てみたいと思ってこの場所に転移したけれどそれが仇となってしまった。


どうする?

もう1回転移するか?


いや連続転移は体の負担が大きすぎる。


馬車に潜り込むとか…?


せっかくならさっきの偉そうな平民を見下してる人をちょっとばかし懲らしめたいよね?


リーシャは貴族が乗っているらしいさっきの馬車の方をみてニヤリと笑った。



◇◇◇



透明化魔法でサラッとさっきの馬車の荷物入れに入り込んだ。

意外と広くて隙間から外が見える。

油断して魔法を解く。


「上手く入れちゃいました〜!誰にも見つからな…」


「誰だ」


後ろから声が聞こえてスっと首に何か冷たいものがつけられた。

両手を挙げて恐る恐る後ろを向く。


「あ、アハハ…」


「さっきの少女…か?」


リーシャの首にナイフを当ててる人が困惑している。

暗くてよく見えないが彼女は金色の髪に青い目をしていて動きやすい服を着ているようだ。だいたい15歳くらいに見える。


護衛がいるかもともっと警戒しておくべきだったか?

ちゃんと索敵すればすぐに分かったのに…


「…まさかリーシャ・フォン・ロンデンヴェルですか?」


「えーっと」


なぜ分かった?


「なぜ分かったかと思いましたか?5歳位の歳で透明化魔法が魔法が使えて高い木から飛び降りてそのまま音を1つもさせずにここに飛び込める人はロンデンヴェル以外いないでしょう?」


「別にいると思うけどな〜」


「5歳なら高い木から飛び降りることさえ出来ないですよ」


そう言いながらナイフをしまう彼女。


「私はワリィン・フォン・ロデンシマ。一応この馬車に乗っている男爵の娘です。」


「えーと私は平民…」


「あ、大丈夫です。誤魔化さなくても正体は確定していますので。」


「ア、ハイ」


「この馬車に乗り込んだのはどうしてですか?父が何か罪でも犯しましたか?」


「いやいや、私が貴族の扱いをされるのが面倒臭くてこっそりここから抜けようとしただけです。」


「そうですか…残念です。父が逮捕されるかもしれなかったのに」


「?」


「言っておきますが私の父はクズですよ。ちょっと調べたらホコリがバンバン出てくると思います。でもまぁ小者すぎて誰も気づいてくれないんですけどね。」


「そ、そうなんですか…」


「おい!ワリィン!毛布を持ってこいと言っただろう!それくらいもできないのか!」


上の方から図太い明らかにデブそうな怒鳴る声が聞こえる。


「ほら。クズそうでしょう?ぜひ調べて頂きたいです。よろしくお願いします」


頭を下げられてリーシャが慌てる。


「では、父に毛布を届けてきますので」


荷物置き場の毛布をとって荷物置き場から出ていくワリィン。


「なんだったんだ…」





バァァァン!!パリン



突然人の頬を叩くような音とガラスが割れるような音がしてリーシャはびっくりして飛び上がった。


「何が…」


リーシャは何があったのかとキョロキョロする。

するとすぐに怒鳴り声が聞こえてきた。


「何度言ったらわかる!この毛布は違うだろう!青い毛布を持ってくるべきだろう?!なぜ分からない!」


んな無茶苦茶な。

貴族ってこんなやつばっかなのだろうか?



バァァァン



もう1回頬を叩くような音がした。


我慢出来なくなって荷物置き場を飛び出した。


そこは門の中。

貴族用通路らしくキラキラしている。


「誰だ!ってさっきの!」


さっきリーシャに怒鳴った騎士がやって来た。


「はぁ…こんなことなら普通に入りゃよかったよ…」


そう言いながら超速で騎士の後ろに回り込む


「ごめんね?」


騎士がリーシャに首のある一点を突かれてそのまま倒れて気持ちよさそうに眠り始めた。


急いできらびやかな馬車をあけて中を見る。


「誰だ!!!」


太った男がリーシャを指さして言った。

男爵だろう。


「リーシャ…さん…」


倒れて頬から血を流しているワリィン。

さっき音がした割れたガラスが刺さったのだろうか。


「大丈夫ですか?!」


ワリィンに回復魔法をかける。


「小娘!何をしている?!ここはお前の来れるような所じゃない!」


「どうかな?」


立ち上がって男爵を睨む。


「ぐぬぬぅ!捕まえろ!」


数人の騎士達が馬車の扉を開けてリーシャにかかってきた。


フッと笑ってリーシャは杖をポケットから取り出した。

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