第十四話 スパイ
【これなんすか?】
と シェリアンとリーシャの目の前にある紙にスラスラと文字が書かれた。
「そりゃ逃げないようにする拘束よ。」
紙に文字を書いている男は目と右手と鼻以外の所をまるでミイラみたいに紐でぐるぐるまきにされて椅子に座らされていた。
男の右手はペンを持っていて、机には紙が置いてあった。
【俺はただの盗賊すよ?】
また文字が続く。
「ただの盗賊じゃないってのは分かってんのよ。さっさと情報を吐いちゃいなさい。
じゃないと死ぬよりも、もーっともっと酷い目に会うわよ。」
シェリアンとリーシャが手を組みながらフッと笑いながらちょっと首を傾げた。
完全にシンクロしている。
(どっちが悪だよ…)
と ドンデの騎士団長は思う。
【あんた達は知ってるだろうけど俺はドンデの騎士団長だ。あんたらこそ痛い目見るぞ?】
「あーら。そんな事言われたの初めてだわ。我がロンデンヴェル家の者に痛い目見るぞ?ただの元小国の騎士団長ごときが?しかも為す術なく私と私の娘であり弟子であるこの子に負けたのに?」
(あぁ。終わった。)
騎士団長は思う。カシュクラン帝国の第二の天使。どうりで強かったのか。
じゃあ…そうかこの茶髪青眼の少女は…
【わかった。情報をやるから許してくれ。俺は別にドンデに忠誠を誓ってる訳じゃないし他の奴らと違って命が惜しいんだ。】
「忠誠を誓ってない?」
【まあ色々あってな。】
「まあいいわ。じゃあまず…あんたらは何をしてたの?」
【帝都からの情報をドンデに届けようとしてた。】
「どんな?」
【あんたらにとっちゃそんなに価値の無い情報だぜ。反セナーラン戦争派のドンデの王子が帝都にいるって情報を受けたんだ。何か怪しい動きをしてるらしくてな。】
「そうね。私達にはあまり価値の無い内容だわ。見つけて人質にとってもドンデ王は何も応じないだろうし、ドンデ王は自分に反対の王子に価値のある情報を渡さないわ。」
【大正解だ。】
「ただ、その情報を渡した人物が気になるわね。帝国へのスパイなんでしょ?」
【それも大正解だ。】
「そいつは今どこにいてどんな奴なの?」
【知らねぇ】
「とぼけないの!」
【いやホントに知らないんだ。シェルドネ学院の生徒に化けてるってのは知ってるが、俺たちと会う時も真っ黒のフードを被って魔法で顔を隠してた。俺たちから情報が取られたらまずいってな。だがスパイは2人だって事は知ってる。】
「ふーん。まぁ目の向きとか汗のでかたは嘘ついて無さそうだけど…なんであの学院に居るの?」
【上がいうには学院にはお偉いさんがたくさんきててそいつらに上手く魔法をかけれたら情報を取れるんだってよ。上手くやればあそこは新鮮で上手い情報が大量に集まる所らしい。】
「盲点だったわ。シェルドネ学院ねぇ…」
学院の生徒は1000人以上いるだろう。
スパイは上手く上手に隠れているだろうから一人一人ちゃんと調べてたらその間に上手く逃げてしまうだろう。
それにしても…帝国のお偉いさん達に魔法をかけて情報を取れるだけの腕を持ってる奴なんてドンデに居たんだ。
「それで?他の目的は?」
【やっぱバレちまったかー。ご想像の通り情報を持って帰るってのはついでだ。一番の目的はセナーランのo】
騎士団長がそこまで書くといきなり発作が起きたように震え始めた。
「大丈夫?!」
白目をむきその白目も充血し始める。
「〈ヒール〉」
回復魔法をかけるが効かない。
ついに口から泡を吹きはじめてそのまま目をつぶり動かなくなった。
「大丈夫?!おじさん!」
リーシャがびっくりして声をかけると、ゆっくり騎士団長が開けた。
「大丈夫?」
騎士団長の目がキョロキョロして
「ん!んんーん!んん!」
口は塞がっているのに何とかして声を出そうとし始めた。
「紙に書いて!」
【ここはどこだ!お前らは誰だ!】
「おじさん。覚えてないの?戦いにまけて私たちに捕まったんだよ。」
リーシャが不思議そうに聞く。
【何を言ってるんだ?俺は今からカシュクランに行かなきゃならん】
「ここはカシュクラン帝国だよ?」
【は?】
ーーそれからリーシャとシェリアンは騎士団長に色々な質問をしたがどうやらカシュクランに盗賊として潜入するための上からの説明がある前の晩の記憶までしかないらしい。
嘘をついている様子もない。
急いで捕まえたもう一人の騎士の所に行ってみるが、歯に隠していたらしい毒薬を舐めて倒れていた。
何とか回復させてみるが自分に関しての記憶全てを失っていた。
結局2人ともサンデルが街に帰る時に連れて行って近衛騎士半数で城に送り届ける事になった。
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