第十三話 戦闘


リーシャが着いた頃にはリモン村は激しい戦闘中であった。

シェリアンを中心にまるで波紋のように盗賊団が広がっている。


しかしやはり盗賊団とは思えないほど洗練された動きだ。

ドンデの騎士達なのだろう。


戦いの波紋の中心の方に行った者はシェリアンの魔法で死亡するか生き残った重傷者は舌を切ったり自分の首を切ったりして自害していってしまう。

奥に居る敵の隊長はなんと逃げる準備をしていたが。

シェリアンの方に騎士達を向かわせて時間を稼いでいる間に自分だけ逃げるつもりなのだろう。



お母さんは向かってくる騎士たちに手加減してるのだ。とリーシャは思う。


あくまで目的は情報を引き出したり証言をさせたりする敵数人の捕獲だから殺さないようにしているはずなのだ。


できるだけ質がいい情報が欲しいからお母さんは奥にいる隊長の所に行きたいだろう。しかしそこにずっと留まっていた。


シェリアンの周りをようく見るとその理由がすぐわかる。


シェリアンの隣には小さな防御ドームが作られていて、その中に片腕を失った男の人がぐったりしていた。


動かせないだろう。


1人無力化するなら裏で動く方がやりやすいのに多分お母さんは男の人を庇ったんだろうなと高い木の上に登り状況を上から見ながら思う。


「よし。」


私も頑張っちゃおう!


「〈セルテンド〉」


透明化魔法を自分にかける。


気配を消して木のてっぺんまでいくとグッと踏ん張ってバネのように飛び上がった。


空中で手に持っていた特別強化版弓に矢を番える。


そしてちょうどお母さんに向けて時間をかけて作った大きな火の玉を打とうとしている人の右手に狙いを定めて射った。


パァァン シュルルルルル


という音がして見事腕に命中させた。


これできっとお母さんは私が来た事を知っただろう。


魔法は魔法自体を透明にすることは出来ないが弓だと矢自体に透明化魔法をかけることが出来るので奇襲にはちょうどいい。


「〈カルニム・リーシャ〉!」


呼び寄せ魔法で自分を呼び寄せるとさっき居た高い木の上に杖を投げた。


自分が投げた杖の方向に弾丸のように進んでいく。


空中で杖を取って木の上に着地すると5mほど離れた他の木に飛び移った。


そうして色々な所から透明な矢を射って少し手強そうな敵を無力化していく。


「腕から攻撃準備!!あと10秒!」


いきなりシェリアンが叫んだ。


その意図を理解したリーシャは隊長の一番近くにある木の上まで周りの物の上を伝って走っていった。

そしてその木の上に着くと思いっきりジャンプした。


「3!2!」


シェリアンの声に合わせて空中で杖を構える。


「1!」


片目をつぶって隊長の腕に狙いを定めた。


「「〈ビュセンデント〉」」


リーシャとシェリアンの杖から青く輝く紐が同時に現れて、シェリアンの紐は頭からリーシャの紐は腕から隊長の体に巻きついて行った。


腕と頭から巻くことでことで自害する事も出来ないだろう。


完全に動かせないくらい紐が巻かれるとリーシャが杖を引っ張った。


するとリーシャの居る木の上に向かってぐるぐる巻きにされた隊長が足の方から持ち上がって、最終的に頭が下のまま木の上に結び付けられた。


「よっしゃー!」


「ふごーふごごごふふ」


紐が猿ぐつわのようになっているため、満足に喋れない隊長が何か言っている。


「ふふ。ダメだよ?逃げようとしちゃ。」


嘘をつくかもだからもう1人くらいは捕まえないとだな。


敵の騎士たちが魔法の紐が出てきたあたりに攻撃をし始めたので隣の木に飛び移りながら考える。


「東!5!4!」


リーシャがさけぶ。

東っていうのは隊長の一番近くにいる東側の騎士って意味なんだけどお母さん分かってくれるかな?


「3!」


何が起こるのかと敵達がザワザワし始める。


目標の騎士まで少し遠かったので超高速で透明化してある矢を何本か射って、その矢を踏み台にして矢よりも早く走った。

そしてその騎士の頭上まで行く。


「2!」


矢を蹴って飛び跳ねて落ちながら狙いを定める。


「1!」


「「〈ビュセンデント〉」」


またリーシャの杖からの紐は腕から、シェリアンの杖からの紐は頭から巻きついていく。


「〈ファーム〉」


リーシャが唱えると杖から風が出てきてふわふわとゆっくりシェリアンの頭上まで運んでくれた。


「〈ヒリムー〉」


着地する地面に軟化魔法をかけてストンと着地しる。


「大!成!功!」


ガッツポーズを決めるリーシャ。


隊長とそれに近い騎士が易々と無力化されてしまった事で周りの騎士達が逃げ出した。


去り際に浴びせられる攻撃を2人は易々と回避する。


「お母さん。逃がしちゃっていいの?」


「逃がしておけば自分の国に帰ってヤバいやつらが東の国境にいるーって報告するでしょ?だから多分もう盗賊に化けてスパイなんて事しなくなるわ。」


しぇあは急いで片腕を失った男性に回復魔法をかけながら言った。


「そっかー!じゃ一件落着だね!」


「えぇ。来てくれて助かったわ。…〈ドレント〉〈カルニム〉〈スレンダ〉」


シェリアンが杖を向けた先の土が掘られて、次に杖を向けた先にいた今は亡き騎士達が穴に埋められた。

最後の魔法でその穴に土が被せられる。


「…」


お母さんが黙って祈った。

リーシャもそれにならう。


「さ。行きましょうか。この人もちゃんと治さなきゃいけないしね。」


「うん!」


シェリアンとリーシャは一番近くにあった村の家を訪ねる。


「こんにちはー!」


「だ、誰だ!ワシは、ここを絶対に通さんぞ!」


さっきの偽盗賊とでも思ってるのかな?


「盗賊達はいなくなりましたよ。私は隣町に住んでいる冒険者です。」


ギィーっという音がして少しだけ扉が開き、老人が中から覗いてきた。


「ほ、本当か?」


「本当です。ですが一人の村人が重傷ですので連れて帰って治療したいと思います。茶髪に茶色眼の20代位の男性です。」


「ダズか…あいつ盗賊をやっつけるって外に出ていったんです。…どうぞよろしくお願いします。あの…お名前を聞いても?」


「シェリー。冒険者ギルドではその名前で通ってます。そのダズさんが回復したらまたこちらに向かいますので」


「ありがとうございます…ありがとうございます…ってシェリー?…シェリーってまさか!」


老人がいい終わる前にリーシャとシェリアンはダズという人の所に行って、転移魔法の陣を書いていた。


転移魔法は魔法陣魔法で今いる座標と向かう座標を陣に書き込む。


そしてその魔法陣を書いたものに沿って削ってそこに杖を置いて呪文を唱える事で使える。

魔法陣は魔道具等を作る時にもよく使うが、時間がかかり、燃費が悪いという欠点がある。


丁度今、シェリアンが出来た魔法陣に杖を置いて呪文を唱えた。


だんだん魔法陣が輝いていく。


一瞬視界が真っ白になって目を開けると目の前に我が家が見えた。


「ただいま!」


2人は負傷した男性を担いで家の中に入っていった。

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