第八話 運命の歯車
リーシャは城の図書館に来ていた。
メイドの人に案内してもらって図書館に入るとまずその規模の大きさにびっくりした。
中央が吹き抜けになっていて二階建てで真ん中に司書らしき人が座って大きな机に置いてある書類に何かを書いていた。
「リーシャ様。あそこにいらっしゃる司書様に色々聞いてみて下さい。私はここの扉の所で待っていますので何かあったらお尋ね下さい。」
「ありがとうございます。」
リーシャは司書の人が仕事をしている机の所まで歩いていき
背伸びして机の上を見た。
そこに居たのは見事に顔が整った青年で綺麗な黒髪に紫色の目をしていた。
ーーこの人は亜人だ。それもきっと古代変異種でとても知能が高いあのモンスターの子孫だろう。
「こんにちは」
リーシャが言う。
「…」
「こんにちは!」
「…」
「あのぉ?」
「…はぁ。なんですか?ここは子供の来る所ではありませんよ?…童話ですか?それなら私に聞かなくてもあそこの端にありますよ。」
司書様が顔を上げて面倒くさそうに言った。
「えっと童話じゃなくて…」
「童話じゃない?じゃあまたですか?最近貴族の子供がよくここに来るんですよね。皇帝陛下が私の質問に答えられた子供は無料でシェルドネ学院に入れると言ってしまったから…」
シェルドネ学院。カシュクラン帝国一の学園で入学試験はとても難しく、授業料もとても高い。
貴族なら払えるがとても負担になる。
お金をはらわないで行くには平民の頭のいい子供達が試験を受けに行ったり誰かに推薦されたりして
3歳~6歳までの子供が通う無料のシェルドネ学院付属学校に行ってそこで高い成績を残したら
奨学金でシェルドネ学院学院に行けるが
附属学校に行って援助して貰えるのは資金的に困難な平民だけだ。
こういう風な制度にしているのはシェルドネ学院の頭のいい貴族の子供達に混じって
附属学校で勉強したさらに頭のいい平民がいる事で
貴族が平民を卑下するのを防ぐというのもあるらしい。
ともかく授業料が無料になるというのは貴族達にとっては願ってもないチャンスだろう。
「えっとそれとは別で…ただ本を見たいだけなんですけど…その…」
あ
そういや皇帝陛下が何か言ってたな
「あの、皇帝陛下が『色々うちの司書に聞いてみるといい。もしかしたら本より便利かもしれないぞ。もし相手にしてくれないようだったら皇帝がお前の気に入りそうな子だぞと言っていたと言ってくれ』って言ってました!」
「気に入りそうな子ねぇ…」
目を細めてリーシャを見る司書様。
「じゃ、質問です。リゼン歴1198年。カシュクラン帝国ではこの年を厄災の年と呼びます。何故ですか?」
「1198年1月5日古代突然変異の巨大で獰猛なユニコーンが現れて北部のほとんどの畑を荒らしました。その途中で数百人の人を殺していて冒険者ギルドのSランクが集められました。最終的にそれでは歯がたたず、SSSランク冒険者が一人で倒しました。
同年4月8日。世界中で魔法が使えなくなりました。これは主に『神のお怒り』と称される事件で魔法で動いていた全ての物が使えなくなり、それから3日間街は真っ暗だったと言います。これを『全ての夜』と称されます。
その他にも8月20日にSSS級が病気で亡くなられたり、その年は飢饉にあいました。それに便乗して帝国に攻めてくる国もあったため帝国では厄災の年と言われます。」
「…ではスルデ語でいいお天気ですねをなんと言いますか」
「『サドゥヒー レンテ ドナヒュー』と言います。あなたは元気ですか?という意味にも使われます。」
「…はぁ。完敗です。お名前を聞いても?」
「リーシャ・フォン・ロンデンヴェルてす。」
「最近話題のロンデンヴェル家の子供でしたか…私はサンデラ・フォン・ローガスト。
サンデラとお呼び下さい。フォンと着きますが元は平民で選挙で司書になりましたので貴族位を貰いました。」
宰相やその他の重要な役職は平民の選挙等で決まる。
平民がそういう役職になるとまず貴族位を与えられる。
「あの…サンデラ様。綺麗な色の目ですね。…もしかして…」
「ええ。そうですよ。祖母の祖父が古代突然変異の黒ドラゴンです。黒ドラゴンは頭がいいのでね。産まれ付き理解力や記憶力なんかはいいんですよ。」
「素敵です!紫目に黒髪なんてかっこいいですね!」
「あなた様こそ不思議な組み合わせですね。茶髪に青眼なんて…あそうだ。捨て子だと聞きましたがセナーランから来たのでは?」
「?!」
自分が考えている事を言い当てられてドキッとする。
「私もそうじゃないかなと思ってここに来たんです。少し前から頭に残っている言葉がセナーランに関する物だったので。セナーランなら珍しい目と髪色の組み合わせでもあるんじゃないかなと」
「遠い異国の地ですからここくらいしか資料がありませんですしね。ところでセナーランに関する物とは…?」
「…秘密です」
「そうですか。詮索は致しません。あまり知られていないことですがセナーランの貴族に稀に茶髪青眼の子供が産まれると聞きます。」
「!そうですか!…この事は秘密にして頂けませんか?」
キッと司書様の目が細められた。
「皇帝陛下や大公家にもですか?」
「はい。」
「なぜ?」
「自分の事が全て分かってから話したいんです。」
「…そうですか。まあそのくらいなら。」
「ありがとうございます!」
「一つお願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「…時々ここに来て討論会でもしませんか?最近、お偉いさん方は忙しいし暇なんです。」
「もちろんです。私でいいのなら。」
そう言ってリーシャは図書館を後にした。
自分はセナーランの貴族の子供だったのかなと思いながら。
図書館でサンデラは一つ呟く。
「(そういやセナーラン王家も茶髪青眼が多かったな)」
と。
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