第六話 イレークスとリーシャ


「『イレークス』という杖を」


皇帝がそういった時リーシャの思考が停止した。


たった一つだけ鮮明に覚えている自分の過去への手がかり。


...なんで私はイレークスを知っているの?




◇シェリアン◇



一瞬リーシャの顔色が変わった気がしたが気のせいだろうか?


皇帝の話は続いていく。


「でも戦争で勝ってもイレークスは見つけられなかったんだ。」


哀れな話だ。

「それの為に戦争したのに見つけられないってのも可哀想ね。」


「どれだけ探しても結局イレークスは無くて王が自分の子供達にこう言った。『イレークスを見つけた者に次の王座を渡す』って」


「それで起きたのが王位争いですな。」


「その通り。王子、王女達はそれぞれ死にものぐるいで歴史家や見つけるための商会や貴族なんかを味方につけて探し始めた。それが2年前のことだ。」


「でもなんでそんなにイレークスが欲しいのかしら」


「王は子供達にイレークスを手に入れればこの大陸を支配できると言ったそうだ。

まぁとにかく重要なのは最近になって第三王子がイレークスはこのカシュクラン帝国にある。隠しているのだろうから差し出せとかなんとか言ってきた。」


「帝国に?あるわけないじゃない」


セナーランから帝国に行くにはいくつかの国を通らなければならない程遠いのだ。


「そうなんだが東側にあると言ってる。

それにそんな事を言われてから度々東側に盗賊が出るようになった。

その盗賊達と来たら普通ではない。 第一強すぎるし色々な所に出没するのにそこまで物を盗んでいかない。食料と飲料のみだ。

そして冒険者ギルドや騎士がいる所は絶対狙わない。

一番不自然なのは...殺された盗賊達は自分で舌を切って死ぬんだ。」


「どっかの国の偵察か何かだと睨んでるわけね。」


自害するのは自分が持っている情報が帝国に渡らないようにするためだろう。


盗賊なら絶対にやらない。


「そう。東側にあるのはベラドンナ王国。

小国だ。セナーランを攻めたことでどんな秘術を手に入れたか分からないドンデに逆らわずに軍を通すだろう。

もう既に帝国東側国境には軍を配置してるがセナーランを滅ぼした国だ。何が起こるかわからない。申し訳ないが東側国境には魔法に詳しい君がいて欲しい。それに加えリルガンは一応皇子だ。何かあった時に命令できる権限を持ってる。」


「ふーん。それに加えリルガン殿下の根性を叩き直そうってわけね。」


「そうだ。頼まれてくれないか?」


少し考える。


これはチャンスだ。


何か要求すれば大抵のものは貰えるだろう。

…よし。いいのを思いついた。


ニヤッと笑って言う。


「一つ条件があるわ。」

「なんだ?」

「あなたに借りてた借り全部チャラにして!」


勝ち誇ったような顔で叫んだ。


「は?!143個もあるんだぞ?!」


皇帝は思わず玉座から立ち上がっている。


それにしても…呆れた


「それ覚えてたのね…」


執念深すぎでしょ!


「せめて100個!」

「ダメよ!全部!私にしかできないんでしょ?」

「…はぁ。わかったわかった。」

「いよっしゃぁ!」


思わずガッツポーズをとってしまう。


皆が私に向かってジト目をしてきた気がしたが、気のせいだろう。


「と言う事だリルガン。君には平民としてシェリーの弟子として東側に行ってもらう。」


皇帝はもう玉座に座り直してスっとしている。


「何故私が平民なんかに…!」

「そういうのがダメなんだ。護衛の事なら安心しろ。シェリーはハッキリ言って

この国で1番の実力者だ。それに影も数人付けて置く。…実は私も小さい頃シェリーと一緒に田舎に平民として行ったことがあるぞ。」

「…」

「言う事は?」

「承知致しました。皇帝陛下。」

「よろしい。」


リルガンはまだまだ子供ね。

13歳なんだからそりゃそうか。


再び杖を出して振る。

自分の防音魔法を解除したのだ。

これを維持しとくのには体力を使う。

ずっとこのまま魔法をかけておく訳にはいかない。


「じゃあリーシャと私はもう行くわ。さ、リーシャ。…リーシャ?リーシャ!」

「あっ」

「どうしたの?ぼーっとしてたわよ」

「あ、うん。ごめんなさい」

「行くわよ。早く城の美味しいご飯でも食べましょー!」

「うん!あ、あの皇帝陛下。」


リーシャが皇帝に話しかける。

扉の方に歩いていたが立ち止まってリーシャの方を見た。


「なんだい?君の方にもリルガンがお世話になるからね。なんでも言ってくれ。」

「あの、もし、もし良かったらでいいんですが城の図書館を少し見せていただく事は…出来ないですよね!申し訳…」

「いや、いいよ?そんなので良かったらたくさん見ていってくれ。」

「ありがとうございます!

…では失礼致します。」


ぺこりと頭を下げてリーシャがシェリーのあとについてくる。


私は何か考えるこんでいるリーシャを不思議だなと見つめた。




◇リーシャ◇



リーシャは頭の中の歯車を超特急で回転させてイレークスの事を考えていた。


自分があの「古い記憶」の中で唯一ハッキリ覚えているあの言葉。


その中で頑張って考える。


リーシャが捨てられた年。

ーー4年前。つまりセナーランが滅んだ年だ。



バスケットには高度な保護魔法がかけられていた。

ーーセナーランは魔法大国だ。



皇帝陛下は城は焼かれたと言った。

ーーあのぼーっと覚えていた記憶も火の海の記憶。


もしあれがセナーランの城の中だったら?


私が見たのはセナーラン最後の日だったら?



私は誰だろう?



私を運んでいた人が何かを私に向けていた。

ーーあれはきっと杖だろう。あれで保護魔法をかけておかあさんの家に私を運んだんだ。

確かとても高度な魔法だが転移魔法もあったはず。


きっとあの人は“母”だ。



おかあさんは人が茶髪青眼なんているわけないと言われたと言っていた。

ーー異国の地だったら有り得るかもしれない。



セナーラン最後の日に城の中にいてまあまあ豪華で綺麗なドレスを着ている人の子供。

セナーランとはいえ高度な保護魔法と転移魔法が使える人の子供。

そう仮定すると私は誰?


そして何故かイレークスを覚えてる。


イレークスはセナーランの国宝。

…王の杖だ。



…もし私がセナーラン王家の生き残りだったら?



…それはないか。



とりあえず図書館でセナーランについて調べて見よう。



…結局謁見の時の挨拶、名前呼ばれなかったな。

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