第六話 セナーラン王国


謁見の間に入ると、宰相は玉座がある1段床が上がっている場所の壁にある扉を開け、その他全員は玉座の方に横一列に並んで跪く。


彼らの後ろで扉がバタンと閉まり、宰相が入った扉から皇帝が出てきて玉座に座った。


ちょっと驚いた顔をしていた気がする。


リーシャはまたもや貴族のマナーの本を頭の中で開いて謁見の仕方の1番上を思い浮かべた。


ーーまず〝帝国の太陽、最上の天使に(自分の名前)がご挨拶致します。〟と言う。この時、自分の他に人がいた場合一番位の高い者が代表して全員の名を言う。



この場合だとーーリルガン殿下か。


「皇帝の太陽!最上の天使にリルガン・フォン・アースド・カシュクラン、センベルト・フォン・ロンデンヴェル、シェリアン・フォン・ロンデンヴェルがご挨拶致します!」


ーなんかこう、地味に長いな。


あれ?


私名前言われてなくね?




「顔を上げよ」


皇帝が言いリーシャは皇帝の顔をはっきり見た。


青眼黒髪。珍しい組み合わせだがキリッとしていてダンディなおじ様感が凄い。


きらびやかな玉座と王冠がよく似合っている。


いきなり皇帝がはぁっとため息をついた。


「...シェリー。君が私に跪くのは今日が初めてじゃないか?」


...マジで?


「貴方に最初にあった時はやったわよ。」

「じゃあ私が皇帝になってからは無いな。

...一応私の執務室に飛び込んでその流れで手合わせするくらいは覚悟してたんだけど...ちゃんとここに来てくれるとは思わなかった」

「私にはリーシャがいるもの。いい所を見せないと」


トンっとリーシャの頭に手を置きながら言うシェリアン。


すると皇帝はニヤッと笑い


「リーシャ。初めまして。さっそくで悪いけど君のお母さんがなんかしでかそうとしたらストッパーになってくれるかい?恥ずかしい話だがうちにもイタズラ好きの息子がいてね。もうすぐ帰ってくるんだ。

シェリーはよくその子ととんでもないイタズラをしてたからね。」

「はい。お任せ下さい。」


リーシャも皇帝を見てニヤッと笑う。


「リーシャ!従っちゃダメよ!」

「うん。いい子じゃないか。良かった良かった。なぁ大公?」

「何も良くないです!この子は5歳ですぞ。もうすぐお披露目会があるんです!それに来年は試験!いきなりロンデンヴェル家の子供がもう1人なんて他の貴族になんと言えば...!」

「そういうのが嫌だったから帰らなかったのにぃ!」

「リーシャを拾ってからすぐ帰れば良かっただろう!」

「だっそしたらお父様絶対リーシャを家に置いておくの許してくれないでしょ?!それに私はリーシャの杖買ったら田舎に帰るわ!」

「何を言っている...?!」

「それなんだが...」


真剣な顔をして皇帝がいう。


「シェリーはリーシャと離れるのは嫌なんだよな?」

「ええ!」

「じゃあリーシャにはお披露目会だけ出てもらって田舎に帰ってもらおう。

他の貴族には

『シェリーは子供を拾ったがその子はとても病弱でロンデンヴェルの回復力が上がる血の守り人魔法を使ってその子を救った。しかしシェリーはその子を家族に反対されないようにと隠れて育てたが大公家はそれを聞き、その子を受け入れる事にした。』

と言う。その後、リーシャには都会が合わなくて体調を崩してしまったから一旦田舎に帰りだんだん慣らしていくことにすると言う。

これでリーシャが帝都の学校に行く事になったらロンデンヴェル家が最高の治療をして治りましたとでも言えばいい。

どう?ちょっと無理やりだけど感動のストーリーの完成だ。」

「いいわね!それで行きましょう!」

「そこでだ。リルガンも一緒に連れてってやってくれないか?」


「は?!」

「ち、父上?!何を...」


今まで何も言葉を発しなかったリルガン殿下が驚愕して声を上げた。


「天使と天使の家の同じ代の子供を一緒に居させるっていう伝統があるだろう?マールとうちの皇太子が今ずっと一緒に居るみたいに。リーシャとリルガンは同じ代だ。

リルガンには平民として暮らしてみてほしい。」


「ち、父上?!何を」

「...リルガンの教育はこの13年間彼の母親に一任してたんだ。彼女が懇願してきてな。でもダメだ。平民を街から追い出し税金で贅沢をするような子供になってしまった。」

「父上!私は...」


そして皇帝は顔色を変えて言った。

「それにーーー最近騒がしいからな。」


シェリアンが目を見開き皇帝を見ると

皇帝が頷いた。

自分のドレスの外からだと見えないポケットの中から杖を取り出して天井に向けて振った。


リーシャは一瞬もう一生何も聴こえなくなったようなありえないほどの静かさを感じた。


ーーああ。これは防音の魔法だ。


「すごいな。何個ロックをかけたんだ?」

「20個よ。それで?何かあるんでしょう?元々この部屋にかけられた防音魔法は凄いんだから。」

「子供には聞かせたくないんだが...」

「あら。うちの子は平気よ。絶対誰にも言わないって神に誓えるわ。それにリルガン殿下だって聞いといた方がいいでしょう。」

「...この事は極秘で頼む。大臣達でさえ話していない。大公には話しているがな。」

「そうですな」


皇帝が話し始める。

「北の方にドンデ王国という国がある。」

「絶賛王位争い中の国ね。」


「そう。4年前ドンデはセナーラン王国を滅ぼした。

当時ドンデは小国。セナーランは魔法大国。ドンデが勝つはず無かったんだ。

セナーランは未知の魔法で動いているロックがあった。攻めれば王国全体に防御結界のようなものがはられる魔法も。

この世界で一番豊かな国と言えただろう。あれだけの軍事力がありながらどこにも攻めず、高度な魔法と教育制度、豊かな畑と娯楽。王も皆賢王だった。

ついたあだ名は『平和の楽園』だ。」


「私も行ったことがありますな。あそこは本当に最高の場所だった。」


大公が思い出を懐かしむように笑う。


「そう。滅ぼされるはずなかった。どこの国にも協力的で災害があった国には支援を惜しまない。全ての国がセナーランに借りがあった。この国もな。

でも彼らは上手くやっていた。舐められないように。貸しを作りすぎないように。

なのに滅ぼされた。何故かセナーランのロックはほぼ全て無効化されて、はられるはずだった防御結界は張られなかったのだ。

理由は…セナーランに裏切り者が出たからだ。

王族であったはずのその男はドンデにつき、セナーランを滅ぼした。そして城は焼かれあの楽園は消え去った。

しかし何故ドンデはセナーランを攻めたのか?なんの恨みもなかったはずだ。

それどころかセナーランの事だ。裏切り者でさえ奥の手があるかもしれない。

でも攻めた。

理由は...理由は1本の杖が欲しかったからだ。

天使が神から神のものを一つ貰ったというのがセナーランの場合杖だった。

王が代々持つ杖。


『イレークス』


と言う杖を。」



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