第五話 大公


◇リーシャ◇


今、周りが全員跪いててかなり怖いです。


そりゃそうだよね。

皇室専用馬車が通ったらそうなるよね。


リーシャは馬を歩かせながら馬車の中を見る。

リルガン殿下がさも当然のようにしていた。


時々リーシャを見てビックリする人がいるのを見かけたがそりゃあ皇家の馬車の周りに小さな子供がいたら驚くだろう。


帝都の門の前にはズラーっと人が並んでいたがさすが皇族。

すっと門に入れた。


「うわぁ...」


門を抜けた瞬間ビックリした。


田舎では考えられないほど綺麗で大きな建物が並んでいてずーっと先に大きな城が見えた。


カシュクラン帝国は世界の中でも1位、2位を争う大国である。

きらびやかで大勢の人が行き交う街にリーシャは少し目眩がした。


兵士達も加わってとても小さなパレードのようになっている。


そのまま馬車と共に前に進む。

リルガンは偉そうに窓から手を振り

周りの民達は旗を振っていた。

その中に旗を振りもせず、跪きもせずリルガンを睨んでる人をリーシャは見つけた。



◇◇◇



ーーそうして40分位経っただろうか。


やっと城の前まで来た。

ゆっくりの馬車と帝都が広い事もあり

長い行進にリーシャは疲れていた。


そのまま馬車は城の中に入って行く。


そして馬から降りて地に足をつける。

その城の前の庭園は見事な淡い青のバラが咲き乱れ、バラにのった雫が太陽を受けてキラキラと輝いていた。


長い階段を登りやっと城に着く。


「長旅お疲れ様でございます。4時間後に謁見がございます。それまではお部屋等でおくつろぎ下さい。城自慢の温泉もご利用下さい。」


リルガンは先に自室に戻っていて

リーシャ達が入るとメイドが言った。


メイドに案内されて来た部屋を見るとリーシャは思わず苦笑いした。


ビックリするほど綺麗な部屋。

いたるところに金銀があり椅子1つでも見惚れるほど繊細な技術で作られている。


メイドがいなくなり

シェリアンは慣れた様子で荷物を置き始めた。


「さぁさっさと温泉に行きましょ!いやぁーこう疲れた体を癒す時間をまずくれるなんてさすが私の幼なじみスロンだわぁー」


「スロン?」


「スロンドランティス。この国の皇帝であり私の幼なじみよ。」


「おかあさんやっぱり凄いね...」


「スロンはただのおじさんよ?ただちょっと皇帝なだけで...リーシャもスロンおじさんって呼んだげなさい。元々私のお母様は先帝の兄弟だから私とスロンはいとこなのよ。...よし!さぁ温泉に行きましょー!」


「おかあさん皇帝陛下のいとこだったんだ…」


ボソッと呟くとリーシャは着替えを持って母を追った。


◇◇◇



「お風呂気持ち良かったわねぇー」


「...あのぉおかあさん?これは一体全体どういうことで?」


自分が着ているきらびやかな青のドレスをつまみながら言う。


周りにはさっきからリーシャがドレスを着るのを手伝っている侍女達がいた。


「何ってオシャレよ」


「おしゃれ?」


「一応スロンとお父様に会うんだから第一印象良くしないと!」


「えぇ」


「それにリーシャの可愛いドレス姿が見れるチャンスじゃない!!」


それが本音である。


「...動きずらいよぉ」


「ガマンよガマン」


「出来ました!」


侍女がリーシャの髪を綺麗にし終わったらしい。


そこへトントンとドアを叩く音。


「どうぞ」

「失礼します。皇帝陛下への謁見のお時間です。」

「えぇ。今行くわ。」


シェリアンは可愛らしい青のドレスを着たリーシャを引っ張って謁見の間へ向かって行った。





◇◇◇




リーシャは冷や汗をかいていた。


頭の中で貴族マナーの本を開き謁見のページを思い浮かべる。

ぐんぐん迫る謁見の扉を見て

この先にあの皇帝と大公がいるんだと思うと目眩がしてきた。


ついこの間まで私はただの村娘だったのに...


謁見の間の扉の前で一人待っている男がいた。


「お待ちしてました。シェリアン。お久しぶりです。それと...初めましてリーシャ殿。」


「あら兄上。ご機嫌よう。」


「さ、宰相閣下!お初にお目にかかります...」


リーシャは男の豪華なローブに付いていたバッチを見て慌てて頭を下げる。


「そんなにかしこまらなくてもいいんですよ。君は我が家の人間なのですし...」


「兄上こそいつもの通り堅苦しいわ。もっと気楽にいったらいいのに」


「私には出来ない相談ですね。」


「シェリアン!」


後ろから大男が何故か口元をヒクヒクさせて

歩いてきた。


これは怒っているな。


「お父様。ご機嫌よう。」


「ご機嫌ようだと?!5年ちょっと行方不明になってご機嫌よう?!お前の事だから逃げただろうとは思っていたが田舎で子育てだと?!しかも命の危険のある守り人魔法を使ってまで!!」


「いのちのきけん...?」


後ろにいたリーシャが怖々言う。


「あぁ!そうだ!守り人魔法は術者が60%の確率で命を落とす!!ってお嬢さんは一体誰だい?」


「60%...いのちのきけん...」


リーシャが急にオロオロし始め、やがて泣きそうになるとシェリアンの後ろに隠れた。


「あーあ。お父様が泣かせたー」


「お、お嬢さん?ってこの子は一体...」


「うちの娘のリーシャよ。お父様の血をひいた2番目の孫です。」


「え...」


「お、お初にお目にかかります。リーシャ...リーシャ・フォン・ロンデンヴェルと申します...」


リーシャがシェリアンの後ろから出てきてぺこりと頭を下げた。


「お、おお。センベルト・フォン・ロンデンヴェルだ...」


「もう!孫を初めて見た時の反応がそれですか!」


「大公、久しぶりだな。」


シェリアンの声を遮りリルガンが近づいてきた。


「...これはこれはリルガン殿下。お久しぶりです。」


大公は露骨に嫌そうな顔をしたがリルガンは気が付かないようだ。


「あぁ。俺は父上に話があると呼ばれたんだが...」

「えぇ。私達もです。...リルガン殿下。どうやら領主代理は上手くいかなかったようですな。初めてからすぐに陛下に呼ばれるなんて...」


大公が皮肉を少し込めて言っている。


「あーゆうの向いてないだよ。勉強が出来ないからな。才能もないし。俺は。」


「諦めないで少しは努力をして下さい、殿下。」


扉が開かれ一行(シェリアン、リーシャ、大公、リルガン殿下、宰相)が謁見の間に入っていった。


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