第二話 大貴族の家
「…あのー…リーシャ?この話はまた今度でいいんじゃないかしら?」
シェリアンが言った。
「この話ってお母さんの過去の話?」
リーシャがシェリアンを見ながら言う。
「え、えぇ。」
「ダメだよ。家族には本当の事言っておくべきでしょ?」
頬を膨らませるリーシャ。
「そうだそうだ。なんで言わないんだよ」
ドルフェイが口を挟んだ。
「リーシャ、面倒臭いことに巻き込まれるわよ?」
「別にいいもん!で、で?お母さんは貴族なの?」
「あー…えっとー」
シェリアンがゆっくり出口の方を向きながら言った。
するとドルフェイがはぁっと息をついて話し出した。
「リーシャ殿、シェリーは話す気が無さそうなので変わりにお話します。」
「あ、あのリーシャ殿ではなく気軽にリーシャと呼んでください。出来たら敬語も無くして頂けると…ドルフェイ様はお母さんの友達だし、なんだかむず痒いので。」
すると、ドルフェイがニコッと笑って言った。
「はい…いや、うん。分かった。…リーシャ、では私の事も様ではなくて…」
「じゃあ…ドルフェイさん?」
「うんうん。それでシェリーの身の上話だが、シェリーは貴族だよ。それもあのロンデンヴェル大公家のね。」
「は、はぁ?!ロンデンヴェル大公家?!ってあの帝国唯一の大公家で天使の家の?!」
天使とは神話に出てきて、神からこの世界の土地を分け与えられた生物の事。
…それについてはまた別のお話。
「そうだよ。それで本名はシェリアン・フォン・ロンデンヴェル。」
「うわぁ…」
「だから、リーシャの本名もリーシャ・フォン・ロンデンヴェル。」
「うわーかっこいい…」
「そして、シェリーはSSS級冒険者でもある。」
冒険者とは人にとって害悪なモンスターを狩る危険だが夢の仕事だ。
「な…SSS級って世界に14人しか居ないんじゃ…?!」
「そうそう。シェリーは魔法は少なくともこの国で一番だし、体術や剣術も魔法を使わなくても私より強いかもしれない。要するにバケモンだよ。」
「だーれがバケモンじゃい!!」
シェリアンがいじけて言う。
「うわー。まさかお母さんがそんなに強いなんて…」
「リーシャがあんなに素早く動けるのにもまあ、頷ける。」
「?別に普通でしょう?」
「そうよ。これくらいはやらないと。魔法は体力使うんだから、いずれこの子に教える時にラクな方がいいでしょ?」
「これくらいって…ま、いいや。とにかく、そういう事だ。わかった?」
「はい!よーく分かりました。」
リーシャが元気よく言った。
「でも、なんでこんな村に大公家のお嬢様が居るんですか?」
「突然家出したんだよ。大量の追っ手を巻いてひっそりと暮らすっとか言ってね。」
「へー!そうなんですか!」
そういえば、リルガン様はずっと大人しく聞いていた。
2人の殺気をこめた目が余程怖かったらしい。
「あれ...待てよ?」
不意にドルフェイがシェリアンの方に向く。
「シェリー。ようく考えればそうだ。なんの冗談なのか分からないけどリーシャは...」
「ドルフェイ」
シェリアンに思いっきり睨まれるドルフェイ。
...なんの事だろう?
「...ごめん」
「…後で教えるわ。…殿下!この村をご紹介致します。と言ってもとても小さな村ですが…」
フェリアンが紹介を始める。
リーシャはシェリアンが無理やり会話を変えたような気がした。
うん。さっきから何か引っかかる。
ドルフェイは何を言おうとしたのだろう?
何を後で教えるのだろう?
リーシャはフェリアンが村紹介をするのをボーッと聞きながらさっきの言葉について考えていた。
◇◇◇
リーシャ達が家に帰ったのは空が暗くなってからだった。
「はー疲れたー」
すぐにベットに転がり込むシェリアン
リーシャも寝る準備を始める。
でもやっぱり何かがずーっと引っかかっている。
ふと足元におかあさんの赤い髪の毛が1本落ちているのに気がついた。何気なく拾うーー
あ。
そうだ。ドルフェイのいう通りようく考えればおかしい。
ロンデンヴェルは赤毛の一族。
産まれてくる子は赤毛で能力値の高い子供だ。リーシャは茶髪。リーシャがロンデンヴェル家から産まれてくるはずない。
おかしい。
立ち止まってよく考える。
「...お母さん。私は誰…?」
考えてたらポツンと出てきてしまった言葉だった。
バッとこっちを振り返ったシェリアンの顔から色が抜けた気がした。
「え...あ...」
「...教えて?」
「それは...」
「...おねがい」
シェリアンがリーシャから目を逸らす。
やがてゆっくりとシェリアンが話し出した。
「...この村に越してきてからすぐの時、朝起きて玄関を開けたら...バスケットがあった。中には...中にはね。赤ん坊が居たの。」
ここで深呼吸してリーシャに向き直る。
十分大人になってから聞かせる予定だったからだ。
「赤ん坊はメモを持ってた。この子をお願いします。誕生日はこの日の1年前。ってね。ご丁寧にバスケットには保護魔法までついててね。」
「保護魔法…?」
「えぇ。孤児院に預けようと思ったんだけどふとメモを見るとなんかなんとなく懐かしい気持ちになったの。...結局私はその子を引き取ったのよ。その時に『守り人』っていう魔法を使ったの。既に産まれてる子供に自分の血を分けるって言う魔法...」
「そうなんだ。」
リーシャはなんとでもないようにそう言った。
「あのね。私は貴方を拾ってすぐ貴方の親を探したの。この子をよろしくなんて書いてあったからただの捨て子じゃないと思って。」
「見つかった?」
「見つからなかった。あのバスケットには高度な保護魔法がかけてあった。あんなの独学でできるもんじゃない。だからきっと貴族や金持ちだと思ったの。...隠し子なんて事もあるんじゃないかと思った。でもどれだけ探しても見つからなかった。それどころか茶髪で青色の目の子供なんて存在しないとさえ言われたの。」
「存在しない?」
「何故か茶髪と青目の子は産まれないんですって。でも、それよりもあなたはびっくりするほど物覚えが良くて2歳で敬語まで話したり読み書きもできるようになった。…不思議よ。」
「へ、へぇ。不思議だったんだ…」
リーシャは今の今までそれが普通だと思っていたのだ。
「あの…ごめんね?」
「なんで謝るの?」
リーシャは不思議そうな顔をする。
「ありがとう。リーシャ。」
リーシャは少し考える。
“存在するはずない”とはどういう事だろう?
私の“ママ”は誰?
不意にあの火の海を走る古い記憶を思い出す。
ーーもし私を運んでいた人が“ママ”だったら?
口を開きかけて辞める。
ーー誰かに喋ってはいけない。
そんな声がまた頭の中できこえた気がしたからだ。
◇◇◇
次の朝。
「...よし。さぁ!シェリアン!リーシャ!一緒に帝都に帰ろう!」
リルガンとドルフェイ達は帰る準備を済ませて、リーシャ達の家にやって来た。
もう既にリーシャが捨て子だということは話したらしい。
「は?私とリーシャはここに住んでるの!」
「そうも言ってられない。もう既に陛下には早馬を走らせておいたから。シェリーを見つけましたーって」
「嫌よ!絶ッ対嫌!」
「ギルドにシェリーにやって欲しい依頼が溜まってるんだ。あとリーシャのことも大公達に見せにいかないとね?君の子供だろ?」
「ぐぬぬぬぬ」
「ほら。一応貴族のお披露目は5歳だ。リーシャをお披露目するかしないかは大公達が決めるだろうけどとりあえず顔を見せに行きなよ。ついでにリーシャの魔法の杖も買ったらいい。」
「杖?!おかあさん!杖...ダメ?」
「...分かったわよ!行けばいいんでしょ行けば!」
シェリアンが渋々馬に乗った。
「...ねぇ俺の事忘れてない?」
馬車の中で皇子が呟く。
そんな事はお構い無しにシェリアンが聞く。
「ねぇドルフェイ。ずっと気になってたんだけど第三近衛隊が殿下の護衛?ちょっと過剰戦力だと思うんだけど」
「あぁそれは僕が志願したのさ。東部は長らく行ってなかったし帝国は最近安定してるからね。暇だったんだよね。陛下に言ったらすぐOKしてくれたよ?適当に筋がある、人材でも探して来いって」
「ふーん。
「皇帝陛下の幼なじみだからってそれ誰かに聞かれないようにしろよ...」
リーシャを馬に乗せながらドルフェイが呆れたように言った。
...こうして行きより2人多くなって帝都行きの人達がゲンデム村を出発した。
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