第一話 リーシャの奮闘
「お初にお目にかかります。リルガン殿下。本日はこのような辺鄙な村にお越しいただきありがとうございます。私は案内役を務めさせていただきますリーシャ・ヴェントと申します。」
椅子に座って偉そうにしている13歳くらいの少年にリーシャが跪いた。
結局ここまで引っ張られてきてしまった...
隣にいた1人の臣下が驚いたようにリーシャを見る。
「ふん。遅いぞ!」
「申し訳ございません。」
リーシャは落ち着いて答える。
するとリーシャを見ていた臣下がリーシャに質問した。
「リーシャ殿。私は第3近衛騎士団長ドルフェイと申します。失礼ですがリーシャ殿はおいくつですか?」
「ドルフェイ様。本日はお越しいただきだきありがとうございます。私は少し前、5歳になりました。」
ドルフェイは後ろに控えていた1人の騎士と目配せした。
「5歳ですか...マナーはどこで?」
「隣町の図書館の本や母からで勉強させていただきました。」
「それはそれは...」
「…そんなのは関係ない。遅い事が問題なのだ。だいたいこの俺に子供の案内役をつけるとは何事か!」
リルガンが暴れる。
「申し訳ございません。本当は私の母シェリアンが案内役を努めさせていただく手筈でしたが母は多忙でして、ここに来る途中トラブルが発生してしまった様ですぐに駆けつけられなかったようなのです。大変申し訳ございませんが、母が来るまでこのリーシャでご容赦ください。」
これできっと何も知らない人はこれを聞けば馬車がモンスターにでも襲われたと思うだろう。
リーシャは頭の中でニヤリと笑った。
ーー嘘は言ってないぞ
「関係ない。何か詫びに差し出す物でもないのか!」
「殿下...私達が早く来てしまったのです。非はこちらにあります。」
やれやれと言った様子でドルフェイが言った。
「ふん。税を高くしてもいいんだぞ。」
「殿下。私が舞を披露致しましょう。」
リーシャは跪いたままそう言った。
このまま勢いで税を高くされてはいけない。
とにかく何か気をそらさなければ
「ほう?お前に何か出来ると?」
「少しばかりですが。」
「…まぁいいやってみろ。」
そう。どんなに普通の芸でも少しでも時間を稼げばもうすぐシェリアンが来る。
あの舞は隣町で披露するとお金が貰えるので頑張って練習した舞だ。
ちょっと時間を稼ぐくらいは出来るだろう。
小さな魔道具を取り出してボタンを押す。その魔道具は一般的な魔道具でボタンを押すと曲が流れるもので、入っているのはリーシャのお気に入りの曲である。
シェリアンが誕生日に買ってくれた物だ。
ペコりと頭を下げる。
リボンを空中に投げた。それと同時にリーシャも飛び跳ねる。
曲に合わせてリーシャとリボンが綺麗に空中を舞う。
空中で何回か回転したり、リーシャの持っている魔道具(シェリアン特製)から10秒程で消えてしまう魔法の花びらが散ったりまるでリーシャ自身が花のようであった。
色々な舞をよく見る皇子のリルガンでさえ目を見張る程綺麗であった。
しかし何よりその身体能力に驚く。軽々と魔法を使わずに空中に数秒留まったり、びっくりするほど素早く動いたり、体の柔らかさも異常だ。
リーシャにこの舞を教えてくれたのはシェリアンだった。どこか遠い国で行われていた舞らしい。
この村を出た事がないリーシャは自分と自分の母親は「普通」だと思っていた。
第一 、母シェリアンもそう言っていた。
この位すぐできるものだろうと。
周りの大人はリーシャを褒め称えてくれるがそれは自分が数少ない子供だから可愛がってくれているのだろうと思い込んでいた。
だから知らなかった。
どのくらい自分の母親が「規格外」か
どのくらい自分が「普通でない」のかを
「このままそこにある花瓶を魔法無しで割ってお見せましょう。」
リーシャの所から少し距離がある棚の上に小さな花瓶が置いてあった。
数秒経ってリーシャが口を開く。
「終わりました。」
そのすぐ後にカシャンという音がした。
見ると小さな花瓶が真っ二つに割れていた。
リーシャがペコりと頭を下げた。
それを見たドルフェイは目を見開く。
リルガン様はまだふんっと言った顔で向こうの方を見ていたがもう遅れたことで怒っていたのは忘れたようだ。
パチパチパチとドルフェイが拍手をする。
「これは凄い!いつまでも見ていられそうです!」
「恐縮で...」
その時、コンコンという音と失礼します。という声。
リルガンが入れというとすぐにカチャリと音がして後ろのドアが開いた。
「リルガン殿下。遅れてしまい大変申し訳ございませんで...」
「シェリー?」
シェリアンが跪いてリルガンに頭を下げるとドルフェイが信じられないという声で言った。
シェリアンがパッと顔を上げる。
「え...ドルフェイ?」
自分への挨拶を止められて気に食わないといった顔でドルフェイを睨む。
「ドルフェイ!この女と知り合いなのか?」
「え、えぇ...って殿下はご存知ないんですか?」
「質問に質問で返すな。」
「シェ...この女性はシェリアン・フォンー」
「殿下!私はシェリアン・ヴェント!本日は案内役をリーシャに代わり務めさせていただきます!」
ドルフェイ様今ぜったいフォンって言った!
フォンってあれだよね?貴族につく...おかあさんは貴族?!いやそんなわけ...
回想 1年ほど前ーー
「おかあさん。おかあさんもこの村出身なの?」
「ん?いいえ私は帝t...じゃなくって少し遠い小さな村で育ったのよーー」
ーー現在
...絶対帝都って言おうとしてた!
じっとシェリアンを見るリーシャ。
リーシャが口を開きかけた時
「シェリー!曲がりなりにも殿下の前でなんで嘘をつくんだ!」
「ドルフェイ!曲がりなりにもとはなんだ!」
リルガンが怒鳴るがそれを無視してシェリアンが喋り出す。
「うっさいわねドルフェイ!殿下とかそういう問題じゃないの!ほんと空気を読めない男は嫌われるわよ!」
「そこの女も俺を無視するな!」
「だいたいなんでこんなとこにいるんだ?!ギルドが必死になって探してるのに!」
「私がいなくても他の奴らが何とかするわよ!それに時々行ってるでしょ?!」
「行く頻度が少ない!それにあいつらにどうやって依頼をしろと?!」
「そこをどうにかするのがギルドでしょ?!」
「だから俺を無視するな!」
「「殿下は黙ってて下さい!!」」
「...ハイ。」
もはや殺気を放つ両方の目を見て縮こまるリルガン。
言い争いを続けるシェリアンとドルフェイ。
そこへリーシャが意味が分からないという声で2人に聞いた。
「おかーさん?おかあさんは貴族なの?ギルドってなんの事?なんで近衛騎士隊長と友達なの?あと殿下知らないんですかとか言われてたけどそんなに有名なの?」
よりいっそう困惑したような目でシェリアンを見ているリーシャ。
頑張って目を合わさないようにしているシェリアン。
怒っているドルフェイ。
置いてけぼりにされたリルガンとその臣下達。
ーーこうしてハチャメチャな村案内が幕を開けたのだ。
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