リーシャと魔法の秘密

ちー

第一章 人生のプロローグ

プロローグ

ーーー『時に人とは残酷で恐ろしい。』



「火だ!早く消せ!」

誰かが言った。



ーーー『常に裏切り、常に憎み』



「おかぁさん!!おかぁさん!!」

メイドの服を着た少女が、火の中で冷たい母親を抱いた。



ーーー『挙句の果てには知らぬ間に同族を殺める。』



誰かが炎の中を走っている。美く、綺麗なドレスを着ていて、胸には1歳の子供を抱いている。



ーーー『それでも平気で生きて、正義を語る。』



彼女がその後ろにいた女性と、ある部屋に入り、少しすると出てきた。

…その胸には子供は居ない。

彼女ともう一人の女性の元に黒いローブを着た者たちがゾロゾロと現れた。

彼女達はドレスのポケットから40センチ位の杖を取り出し構える。



ーーー『そして人間である事の意味を忘れ、考えるのを辞めた。』



子供を抱いていた方の女性の杖は、構えた瞬間、光り輝く剣に変わった。

彼女達はまるで舞うように黒ローブの者たちを倒していく。

周りは火の海で、建物が崩壊する音と人の叫び声が聞こえた。



ーーー『自分達が何故生きるのか、生きているのか』



子供を抱いていた女性の、後ろについてきていた女性が黒ローブの短剣に刺されて倒れた。

「ヴィラ!!」



ーーー『それすらも忘れ、ただ意味もなく生きるのだ。』



残った女性は電撃を纏うその剣で、懸命に戦うが黒ローブの一人の魔法が心臓に直撃してしまった。

「あ…あぁ…」

彼女の金髪が中に舞った。

彼女が倒れたのを見ると、黒ローブ達はすぐにどこかへ消えた。



ーーー『だから、私は君達に託す。』



「…どうか…あの子に…私の子に…」

小さな幸せが訪れますように。

一筋の彼女の頬を伝う涙が煌めいた。



ーーー『この美しい牢獄の中で、人が害をなさないために。』



燃え盛る城でまた、2人の命が消えたのだ。



ーーー『セリン・ニンドーラ』







リーシャと魔法の秘密







◇4年後…◇


私…リーシャには、少し不思議な記憶がある。

少し前の5歳の誕生日にパッと戻った記憶。

炎の中、人の叫び声の中の記憶。

私を抱いて、どこかへ走っている女の人。


とてもうっすらでとても曖昧だけど、あれを思い出すと怖くてたまらなくなる記憶。


でも、お母さんにには話してない。

だって話しちゃダメな気がしたから。


あ、そうそう。

あともう一つ。

なぜかね?あの記憶と一緒に思い出したのに、あのうっすらな記憶とは比べ物にならないほどはっきりと『イレークス』っていう言葉だけは覚えてるんだよ。


ほんとに不思議だね。




◇◇◇




「おかあさん!おかあさん起きて!」


そう言っているのはリーシャ・ヴェント。ちょっとしっかりしすぎている5歳の女の子である。


彼女が居るのは二階建ての木の家で、ゲンデ厶村の雑貨屋のすぐ側に建っている。


ゲンデム村はカシュクラン帝国の最東端にあり、国境は歩いてすぐ行けるほど近かった。


「うーん...もうちょっと寝るぅ...」


いつまで経っても起きそうにないその人は、リーシャの目線の先にいた。


シェリアン・ヴェント。リーシャの母親である。

その家の隣にある雑貨屋はかのじょが経営している。


「ダメだよ!今日はリルガン様が来る日だよ!」

「いいわよあんなダメ男...」

「困るのは村の人達だよ...」

「ハイハイ...起きればいいんでしょ起きれば...」


シェリアンはゆっくりと起き上がってトロンとした目でリーシャを見た。


「やっぱもうちょっと...」

「ダメ!」

「ハイ。」


シェリアンがゆっくりと支度を始める。

リーシャの方は服も来てバックの中身も詰めたようだ。


リーシャは艶のある茶色の髪にサファイアのような青い目。

ボブヘアーのその髪は綺麗にとかされていて、小さな飾りがつけてあった。

今日来ている服はいつもよりしっかりとしている服で、淡い青の柔らかい生地のワンピースに腰にはリボンが巻かれていた。


シャリアンの方は鮮やかな赤毛に灰色の目だ。起きたばかりで髪はボサボサ、まだトロンとした目をしていた。


「もう時間が無いよ!」

「わかったわかった」

「おかあさんしか居ないんだよ!」


リーシャがこう言っているのは今日この村に来るリルガン殿下のせいである。


まだ若く後継者もいなかった前領主が突然亡くなり、少し前に次の領主が決まるまでと

リルガン・フォン・アースド・カシュクラン、すなわちカシュクラン帝国の13歳の第八皇子がこの村を含める領地を治める事になったのだ。


他の優秀で大人でも難しい事をなんでもこなしてしまう皇子達とは違って、彼の評判は最悪そのものだった。


良人であった前領主に比べ、リルガンと言う皇子はその領地で税を高くし、挙句の果てには何かと気に食わない住民を街から追い出し始めた。


そんな彼が領地であるこの村を視察しに来るらしい。


ある一人の臣下が視察は領主の務めですとか何とか言って無理やり行かせたという噂もある。


はっきりいって迷惑極まりない。


ゲンデム村は人口100人程で老人がほとんどの小さな村である。


特に何かある訳では無い小さな村で今まで気にかけられていなかったからいいものの

税を高くされたらたまったもんではない。


ゆえに何とかして皇子の機嫌を取らなくてはいけない。


あいにく村の中で皇子と話せるだけの敬語が使えてなおかつ機嫌を損ねないだろうという人はシェリアンしかいなかったのだ。


今、シェリアンの背中にに村が託されている。


「シェリさーん!リルガン様がなんか早く来たみたいだよー!おじいちゃんが呼んで来いって!」


玄関から13歳くらいの女の子が走ってきた。


「えっ...」


ただいま髪を結び中のシェリアンが固まってこっちをみる。


「…マジ?」

「はい!すぐに案内役を連れてこいって!」

「...それはヤバい...まだ服も来てないのに」

「どうすんのお母さん!」


シェリアンはちょっと考える...

すぐに明るい顔をすると


「そうだ!リーシャが変わりをしといてよ!すぐ追いつくから!」

「え?!」

「わかった!リーシャでもできるのね?!」


女の子がもうなんでもいいよと言うような声でいう。


「無理だよ無理だよだいたい私は5歳でラーダは13でしょ?ラーダが行ってよ!」


「そんなこと出来ると思って?だいたいあんたは5歳だけど5歳じゃないの!自分の心に聞いてみなさい!私は5歳ですか?って!『ゲーデンの貴族会話術』なんか読み終わったんでしょ?あれ貴族の子供が12歳で習うやつっておじいちゃんが言ってたわ。」


「そうそうリーシャはできる!」


「読んだだけだし!無理!無理だっ...あちょっと!引っ張んないでぇぇぇぇーー」


ラーダと呼ばれた女の子はリーシャを引きずって村の入り口まで運んで行った。


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