45 考え

 ルーシーの名前を呼びながら、森を駆け抜けて、ようやく彼女を見つけた。

 ルーシーは森の中1人立っていた。


 他の場所は光がほとんど入らなかったが、そこだけは綺麗に日光が入っていて。


 彼女の銀髪を照らしていた。


 ………………はぁ。

 びっくりした。

 ルーシーが急に走り出して、森の中に入って。


 追い付かなかったから、ルーシーともはぐれてしまうとも思った。


 無事で良かった。よかった。

 そうして、俺エドガーはルーシーと再会。

 1人でいたルーシーだが、彼女がいうには1人の女性に会ったという。


 だが、この場所がどこかは聞いていなかったようで。

 彼女は申し訳なさそうに、「すみません」と言った。


 「それで、その女性はどこに行ったんだ?」

 「あっちに行きました――――って、へ?」


 ルーシーが指した方向。

 それはただの森。

 暗い森が広がっているだけ。道1つない。


 「あんな暗いところを1人で歩いて行ったのか?」

 「え? あ、いや、さっきはあっち側がすごく眩しかったんですけど………………あれ?」


 そう言って、首を傾げるルーシー。

 彼女は「おかしいな?」と呟いていた。


 何度見ても、暗い森があるだけ。家も道も何もない。

 もしかして、幽霊でも見えてるんじゃあ………。

 幽霊でも会ったのかと尋ねると。


 「そうですね、幽霊に似たような人? いや、その表現は失礼か………でも、分類としては似てるけど………」 


 と話していた。

 おい。

 怖いこと言うなよ。


 そんなルーシーは周囲をキョロキョロと見渡す。


 「また、森の中で迷子になっちゃいました?」

 「………………そうじゃないが、でも、どこにいるのかは分からないままだ」

 「うーん」


 ここから花畑に戻る道は分かるが、相変わらずここがどこかは分からない。

 ムーンセイバー王国かもあやしい。


 そんな状況に、さっきのルーシーは絶望的な顔をしていた。

 だが、さっきとは違い、今は少し晴れ晴れとしている。


 「アースは何を考えて、こんなことをしたのでしょう?」

 

 ルーシーはそう呟いていた。

 そんな彼女の一言に、俺はあることを思い出す。


 ルーシー誘拐事件後。

 カイルからこんな話を聞いた。

 

 アースという人物がルーシーを欲しがっていた、と。

 だから、彼が手下を使って、ルーシーを誘拐したのだ、と。


 アースという名前はまぁ、正直どこにでもいる名前だ。

 しかし、それを陛下や側近の者たちに話すと、事件の公表はなしになった。

 

 犯人も捜さない。これ以上事件については追及しない。

 

 なぜかそんな決定が下された。

 なぜそのような決定をしたのか、陛下に尋ねると、陛下はこう言った。


 預言者アースが何らかの目的を持って行ったことではないかと。

 

 俺もアストレア王国に預言者がいることは知っていた。

 災害ならほぼ的中。

 外すことは稀にしかない、そんな預言者を。


 だが、それが俺たちと同い年の王子アースであることは、その時初めて陛下から始めて聞いて、知った。

 

 預言者アースと、アストレア王国第7王子アース。

 俺はてっきり偶然同じ名前で、それぞれ別の人物だと思っていた。世間も同じ認識だろう。


 だが、2人は同一人物。

 預言者アースはおじいちゃん預言者ではなかった。

 

 だとしても、事件については無視できない。

 一国の公爵令嬢ルーシーが誘拐されたのだ。

 相手が預言者だとしても、放っておけない。


 俺は臣下たちに、何か罰を与えるべきだと訴え続けていた。


 そして、俺に押された臣下たちは、一応確認のためと言って、アストレア王国に事件について、尋ねの手紙を出してくれた。

 すると、返信の手紙には預言者アースからの返答が記載されてあった。

 

 それには「それなりに考えがあった」とだけ。


 しかし、ムーンセイバー王国にもアストレア王国との関係もあるため、陛下はこれ以上はさぐらないことにした。


 一方、今回は公爵家の人間が狙われたこともあるため、彼の監視を裏の目的に、表向きは国の交流を目的に、ムーンセイバー王国側はアースに留学を持ちかけた。


 アースはそれを承諾し、シエルノクターン学園に入学した。

 入学後の彼は、なぜか研究までし始めていた。


 そして、今。

 あいつのせいで、遭難しかけている。

 本当に、あいつは何を考えているんだ。

 何を考えて、何を思って、こんなことを?


 「………俺にも分からないな。何か考えてやったことなんだろうがな」




 ★★★★★★★★




 「何も考えてないよっー! あははっ――!!」

 「なんですってぇ゛――?!」


 一方、アースの研究室では。

 怒りMAXのリリーはアースの胸倉を掴み、問いただしていた。


 しかし、アースは気楽そうに笑みを浮かべている。

 そんな状況に、カイルは困惑。パニック。

 

 「リリー、やめなよ。相手は王子だよ」

 「そうだよー、僕は王子様だよー」

 「チッ………王子であろうと関係ありません。ルーシー様が消えたんです! 一大事なんです! それだけではなくエドガーこの国の王子もどっか消えたんですよ! 大問題なんですよ!」

 「そうだっ! 姉さんが消えたんだっ!」


 リリーと一緒になって、キーランも問い詰めていた。


 「一体何をしたの!? ルーシー様に何をしたのよっ!?」

 「何をしたって、見れば分かるでしょー? 転移したんだよ、転移ぃー」


 アースはリリーに胸倉を掴まれたまま話始める。


 「ルーシーが触ったあの魔法石には、複数の術式を刻んでいたんだよー。1000通りぐらい、あるのかなー? 魔法師が持つとランダムに起動するんだよー」

 「………………」

 「未来が見える僕でも、君たちの未来はなぜか非常に不安定。完全に見えないわけじゃないけど、他の人ほど強い未来を見えないんだよねー」


 アースはバッと両手を広げる。


 「だからこそ、君たちと関わるのは楽しいぃー! 新鮮なんだよねー!

 そして、今日は君たちがあの魔法石に触ったら、どんなことが起きるのか、試してみたんだー」


 すると、アースの胸倉を握るリリーの手はさらに力が入る。


 「………………なぜそんなことを?」

 「もっと楽しくなるから――!」

 「この変人がぁ――――!!」

 

 リリーはアースの顔面を殴ろうとする。

 しかし、彼はサッと瞬時に避ける。

 それがリリーをさらに苛立たせた。


 リリーは魔法を使い、アースへと薔薇の蔓を伸ばす。

 しかし、蔓ははねのけられる。

 はねのけられた蔓が棚へ、魔法石へとあたる。

 棚からは本が落ち、魔法石は床に落ち、パリンっと音を立て割れていく。


 研究室は大荒れだった。

 始めはリリーに加勢していたキーランだが、彼は呆然としていた。


 「姉さんとエドガー様はあの魔法石のせいでどっか消えちゃって、リリーは怒りを爆発させて、アースなそんなリリーを見て笑ってる」


 まさにカオスの世界。

 キーランにとっては正直手に負えない状況だった。


 「なんとかしないといけないけど、どうする? カイル?」

 「………………」

 「カイル?」


 カイルはキーランの呼びかけに応じない。

 それもそう。


 さすがのカイルも怒っていた。


 アースの訳の分からないお遊びで、愛するルーシー(エドガーも含む)がどこかに飛ばされたのだ。

 アースも転移先が分からないようなので、転移先が安全かも分からない。


 だが、優先すべきことははっきりしていた。

 いつもとは違う声色で、低い声で、カイルは彼に尋ねる。


 「――――ねぇ、アースさん」

 「なんだいー?」

 「ルーシーたちをここに戻す方法はあるの? 戻せるよね?」


 カイルはいつになく威圧的でいた。

 そんな彼に物怖じせず、ニコリと笑うアース。


 「そんなの簡単さー」


 彼は自信気にそう答えていた。

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