32 結婚してください! 中編
「エドガー様、そのドレス意外と似合っておりますね」
………………うるさいな。さっきから。
「何、顔をしかめてるんですか。不快にならないでください。私は本心で言っているんですよ。本当に可愛いです。黙っていればマジかわ」
俺、エドガーは先陣を切ったカイルを見守っていると、
随分と呑気なやつだ。
「……………うるさい。カイルを見守ってやれ」
「えー。私たちが見守ったところで意味はないですよ」
「どうせ失敗するだけです」と小さく呟くリリー。
おい。俺には聞こえているぞ。
「……………それにしても、エドガー様は着たドレスもメイクアップした姿も可愛く美しいのに、しゃべれば男。テレビに出ていたオネェを思い出しますわね」
「……………黙れ」
同じ転生者とはいえ、俺が王子ってこと分かってんのか、コイツ。
「あー、怖いー、怖いー」
にらみつけると、リリーはふざけた声で言ってきた。
俺は思わずため息をついてしまう。
「……………とにかく、リリー。ちゃんとしてくれ。お前が出した案だろう?」
「そうですけど、賛同して、ここまで進めたのはエドガー様です。私はべつぅーにやろうとは思っていませんでしたもん」
「バカいえ。途中までノリノリだったじゃないか」
リリーはライアンと話しているカイルに目を向けているものの、興味なさげ。
最終的には大きなため息をついていた。
「なぁ、提案者としての責任は持てよ」
「エドガー様ったら、何を言っているんですか。私は確かに提案はしましたよ? でも、とてもじゃないですが、これが成功するとは思えません。もし、成功してどうするんです? あの女に化けたカイルにどうしてもらうんです?」
「それは————」
先日の会議を思い出す。
★★★★★★★★
「そうね。こういうのはどうかしら————ライアン王子に好きな人を作ってもらうとか!」
初めは、リリーの案に対して、ふざけてんのか、と思った。
ライアンは近くの俺が見る限り、仲のいい令嬢がいない様子。
まぁ、友人はいるようだが、男ばかり。
俺には、ライアンがとにかく、令嬢を、女の子を避けているように見えていた。
だから、
「————そんなライアンが好きなやつなんて作れるわけがないだろう?」
俺はライアンが女子に興味がないってことを、説明してやった。
だが、リリーは。
「いや、分かんないですよ、エドガー様」
と言って、ニマニマ。
分かんないですよって、何を根拠に言ってんだ?
「いやぁ、だって、考えてみてくださいよ。ゲームのライアン王子は主人公ステラちゃんに恋するんですよ。
今、私の世界に存在しているライアンは、ゲームの彼とは少々異なる点もあるとは思いますが、ルーシー様と婚約で来ているのに幸せそうにしないあのクソ王子でも、恋はするってわけですよ」
「でも、ライアン王子が恋することができる人間だとして、お相手はどうするの? ステラを探しに行く? この間のお茶会で見たし、見つけることはできると思うけど」
「カイルは頭がカチンコチンですねぇ。そんな面倒くさいことしませんよ。なんだかんだ時間がかかりますし」
「………………」
「それに、貴族の私たちが突然平民のステラちゃんの所に行けば、彼女、驚いちゃいますよ。きっと何が何だか分からないだろうし。それで、結局断られて、計画がおじゃんになりますね。まぁ、私の予測ですけど」
「断られない可能性もあるんだよな?」
「まぁ、そうですね。でも、それだとステラちゃんとクソライアンの出会い方はゲームとは異なるので、うまくいく保障はないですよ」
確かにな………。
「なら、お相手は誰にするんだ? 令嬢の中から、適当に見繕うのか?」
「そんな面倒くさいこともしません。私たちが……いえ、あなたたちがライアン王子の相手となるんです!」
「「はぁっ!?」」
声を上げ驚く、カイルとキーラン。
声は聞こえていないだろうが、間に挟まれているルーシーも連動するように、ビクッと驚いていた。
「え? えっ!? はぁ————?! 僕がライアン王子の相手? そんなことするわけないでしょ? 僕、そんな趣味ないし、だいたい僕には姉さんがいるし!」
「キーラン、ルーシーは君のものじゃない。だけど、リリー。僕もそんな趣味ないよ」
「ご安心ください。私は、別にBLをしろ、と言ってるわけではないですよ。ちゃんと着替えて、女の子になってもらいますよ!」
「いや、そうじゃなくてさ………………」
「僕、女装趣味はない! 姉さんが悲しむ! この案、却下!」
リリーの提案に対し、反対する2人。
でも、俺は————————別に悪くない案かもしれない、と思ってしまった。
ライアンは
その場合、ルーシーはゲームのように、ヒロインをいじめるといった悪いことをしたわけじゃないから、追放にも何にもならない。ルーシーは何も罪を犯すことはない。
だから、俺は彼女と婚約しやすくなる。
「……………別にいいんじゃないか。俺たちがやっても」
「「エドガー様っ!?」」
別にそんな驚くことないだろ………………お前ら。
カイルとキーランの2人は俺の賛同が意外だったのか、目を丸くしていた。
一方、リリーの顔にはニヤニヤの笑み。
「フフフ、転生者とはいえ、王族はやはり違いますわね」
あの時のリリーの笑みの意味を気づいていればと後で俺は思った。
だが、あの時の俺はあることを思い出していた。
俺はルーシーの幸せのためなら、なんだってやるって決めていたことを。
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