31 結婚してください! 前編
誘拐事件があって1週間後。
私たちはまたみんなで集まっていた。
場所はいつも通り自宅であるラザフォード邸。
今日は天気もよく、丸テーブルを囲んで、お茶を飲んで…………と前みたいにしていたのだが。
「ねぇ——!! みんな、何話してるの!!」
私は1人大声で4人に話しかけていた。
だが、返事はなし。ひたすらに無視されているようだった。
ねぇ。
さっきから、ちらちらこっちを見ているのは分かっているのよ。
「ね゛ぇ————!? ね゛ぇってっばぁ————!!」
ちっとは反応しなさいよォ!?
いら立ちのあまり立ち去りたくなるが、そういうわけにもいかず。
私は移動するどころか、立ち上がることもできない状態。
私の右手はキーランに、左腕はカイルに掴まれていた。
…………これって新手のいじめかなんかですか?
★★★★★★★★
さっきから気になってしょうがない。
たぶん、僕と同じ状況になれば、みんなそう思う。
僕の隣にいるのはずっと口をパクパクさせる姉さん。
返事をしない僕らに苛立っているのか、眉間にしわが寄っている。
いや————気になって仕方ない。
気になって、可愛くて、仕方がない。
姉さんは必死なって、僕らに話しかけていた。
だが、姉さんの声は全然聞こえない。僕らの声も姉さんに届いていないだろう。
姉さんからしたらこの状況は訳が分からないだろうね。
ごめんね、姉さん。これも姉さんのためなんだ。
以前の事件によってぐっと警戒心が上がってしまった僕は、一時も姉さんから離れないようにしていた。
起きてから寝るまでずっと僕は一緒。
たまに一緒に寝ようとしたけど、さすがにそれは追い出された。
まだ、子どもだから許されると思ったんだけどなぁ。
そして、今日は姉さん幸せ作戦会議を開いているわけだが、前回とは異なる。
この前は姉さんに勝手にしてもらって、僕らはそれを見守る、という形だったけど、今回は姉さんには隣にいてもらうことにした。
遠くに行かれると、どうも姉さんがどっかに行くんじゃないかって心配で。
それはカイルたちも同じだったみたいで、カイルと僕で姉さんの手を握っていた。
逃げないとは思うけど、一応ね。一応。
もちろん、リリーとエドガーも姉さんの隣にいたかったみたいだけど、これはじゃんけんで決まったこと。
だから、僕らを睨まないでほしいんだけど。
「キーラン」
「なに、リリー」
「ルーシー様の腕に触れていて浮かれているのは分かりますが、集中してください」
「いや、集中してたけど」
「していないです。ずっとルーシー様のことを見ているじゃないですか。全くあなたはそんな風だから、ルーシー様が外に出かけていることに気づかないんですよ」
リリーこそ、ずっと僕らを睨んでいたじゃないか。
とは反論できず。リリーの言うことはムカつくけど、事実だった。
確かに僕は姉さんが何をしていたか、全く気づかなかった。
思い込んで、誤解して、勝手に疑って————。
あの日もそうだった。
★★★★★★★★
赤い髪を見つけた後のこと。
僕は騎士団に報告し帰ってきたイザベラに詰め寄っていた。
「なんでイザベラは僕を姉さんに会わせないようにしていたの? 本当のことを教えてよ」
目を逸らすイザベラ。
これは怪しい。
他の話題に変えようとするイザベラに、僕はさらに問い詰める。
すると、諦めた表情を浮かべ、答えてくれた。
「………………ルーシー様のご命令により、やっておりました。申し訳ございません」
「え? 姉さんの命令?」
なんで? なんで?
姉さんがそんな命令を出していたっていうの?
「それと………先ほどの赤い髪ですが、あれはルーシー様のものです」
「は!?」
「ルーシー様は数日前にご自分の髪を赤色にお染になったんです」
「は? えっ!? あれって、姉さんの髪なの!?」
「はい。それに侵入者など、この私がルーシーの部屋に入れることは致しません。絶対に」
「なんだよ……………それ、早く言ってほしかったよ」
僕がそういうと、イザベラは目を細めた。
「……………私は言おうとしてましたよ。なのに奥様ったら……………お2人とも心配なのは分かりますが、少しは私の話を聞いていただきたかったです」
くっ………そうだったんだ。
赤髪の主は姉さんということは……………ってことは。
「イザベラ、つまり姉さんは誘拐になんか会っていないってこと?」
「はい……………そういうことになりますね」
これはまずい。騎士団を早く止めないと、大騒ぎになってしまう。
そうして、僕はお母様にイザベラから聞いた話を報告。姉さんの捜索は中止となった。
しかし、夜になっても姉さんは帰ってこなかった。
イザベラ曰く、いつもなら姉さんは日が暮れる前には絶対に帰ってきていたのこと。
姉さん、なんで帰ってこないの?
21時を過ぎると、さすがに不審に思った僕らは姉さんを捜索することにした。
僕はお母様に止められそうになったけど、意地でも行くって言ったら、騎士団の人に付き添ってもらうという条件付きで許してくれた。
そうして、騎士団とともに夜の街へ行こうとした時。
家を出ると、門前には1人の少女が立っていた。
「リリー、君なんでこんなところにいるの?」
「ルーシー様以外に理由はないでしょう?」
暗くて見えなかったが、彼女の背後には多くの人たちがいた。彼らがスカイラー家の騎士団であることは制服を見てすぐに分かった。
そして、その大勢の人の中に彼も交じっていた。
「……………エドガー様まで」
あんた、一番1人で出歩いちゃあダメな人でしょ。
「エドガー様、なんでこんなところに1人でいるんですか。従者の方は?」
「……………いない。1人で来た。ルーシーが誘拐されたんだろう?」
「一体誰からそれを————」
「ライアンだ」
ライアン王子?
なぜあの人が知っている?
首を傾げていると、イザベラが「旦那様が確認がてら王城に報告したようでして……」と話してくれた。
なるほど、それでライアン王子が知って、エドガーは聞いて、1人飛び出してきたと。
だからと言って、1人で来ないでほしい。
エドガー様の姿を見る。彼はローブを羽織っていたが、その下は部屋着のようだった。着替えることもせず、急いでやってきたんだろう。
まぁ、僕も赤い髪を見つけた時かなり動揺したから、責めることなんてできないけど。
てか、よく1人で抜け出せたなぁ。
王子様って王城から勝手に抜け出せないイメージがある。夜なら尚更。
エドガー様なら魔法を使えば、抜け出すことも容易か。
なんて考えていると、「エドガー様!」という声が遠くから聞こえてきた。従者がやってきていた。
一方、何も話を耳にしていないであろうリリーがなぜここにいるのか、と聞くと。
「ルーシー様が危ない状況にあると思いまして、即刻来ました」
と答えた。
なに……その野生の勘で察知しました、みたいな理由。
「やはり………ルーシーは家に戻られていないのですね」
「うん。戻っていない」
「そうですか。なら、早く探さないとまずいですね。誘拐犯が金目当てならまだいいですが……………」
もし、
ふつっと怒りが沸く。
「急がないと」
★★★★★★★★
そうして、姉さんを探しに行ったけど。
突然リリーが「ルーシー様は街から離れた場所にいる」って言い出して。
彼女に案内されるままに進んでいると、草原のような場所を歩かされて。
僕らの進む方向に、とてつもない魔力を感じる光柱が現れて。
で、リリーの言うとおり、ルーシーがいた。ついでにカイルも見つけた。
あの時、何にも言わなかったけど、正直リリーの直観には驚いた。
あの直感、ちょっと欲しいかも。
意識を現実に戻すと、リリーがカイルに文句を言っていた。
「この前の誘拐事件、カイルもうちょっとカイルがしっかりしていれば、あんな大事にならなかったんじゃないんですか」
「……………そうだね。僕が悪かったよ。ごめん」
「全くキーランもカイルもダメですね。そんなんじゃあ、ルーシー様のパートナーになれませんよ」
「……………え? 俺は?」
「さぁ、こんな事件も起きたことだし、ろくなことがなさそうだから、口説き勝負はもうやめましょ」
「……………おい。リリー、俺は?」
「エドガー様は論外です」
「……………は? 論外ってどういう——」
「エドガー様はルーシー様のパートナーなんて論外ってことです。さぁ、みなさん。次の作戦について何か考えがあります?」
リリーはエドガーを軽く流し、話をガンガン進めていく。
きっとリリーはこの前のことを全力でなしにしたいんだろうな。
……………まぁ、それは僕も同じだけど。
この前の事件で、カイルは姉さんと駆け落ちしようとしていた。
カイルがなぜ姉さんと一緒にいたのか、問い詰めたら彼は全部話してくれた。
駆け落ちの計画を立てていたこととか、街で姉さんに会って告白したこととか。
でも、まさか駆け落ちするために家まで購入しているとは思わなかった。
それに、姉さんはカイルの手を取ったというし。
誘拐されなかったら、姉さんとカイルは本当に駆け落ちしていたのかもしれない。
「……………俺たちはやっぱり協力するべきだと思う」
「そうね、エドガー様。私も賛成です」
「でも、協力するといってもどうするの?」
そう尋ねると、リリーは「うーん」と唸り、こう答えた。
「そうね。こういうのはどうかしら————」
★★★★★★★★
会議の数日後。
僕らはまた集まっていた。
ラザフォード家?
いや、今回は
そして、僕らは身を潜め、そっと窺っていた。
僕らから少し離れたところにはライアンと1人の女の子が。
中庭にいるその2人は楽しそうに談笑している。
……………あの王子相手によくあんな風にしゃべれるなぁ。
僕は思わず関心してしまう。
そうして、観察すること30分後。
女の子は照れながら、こう言った。
「私と結婚してください!」
「え?」
キョトンとするライアン王子。
そして、僕はというと————。
「なんで僕がこんな服を着なきゃいけないんだよ」
「カイルとエドガー様も着たんだから、キーランも着るに決まっているでしょ?」
「…………下がスース―するな」
僕とエドガー、そして、現在ライアンに求婚しているカイルは女装をしていたのだった。
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