26 直感はたよりになりますよ

 私、リリーは現在、ビリーお兄様の隣を歩いています。

 来ている場所は街。

 一番広い大通りを通っています。

 道の中央は馬車が行き来し、端の歩道にはたくさんの人が通っています。

 

 今日の予定はラザフォード家に向かうつもりでしたが、ルーシー様がお部屋から出られないということで、急遽予定を変更。

 

 仕方なく、ビリーお兄様と2人で街へと来たってわけです。

 …………あーあ。

 本当はルーシー様と出かけたかったのに。

 できれば、兄様とルーシー様を会わせたかったのに。


 「なぁ、リリー」

 「なんですか」

 「今日は友人のラザフォードの令嬢とは会えないんだろう? なんで街に行くことにしたんだ? 家で過ごすのでもよかったんじゃないのか?」

 「そうなのですが、なんだかここにルーシー様がいらっしゃるような気がして……」

 「なんだ、その野性的直観は」

 

 なぜか呆れて、ため息をつくビリーお兄様。

 背後にいる従者までもがため息をついていた。

 まぁ、そんな呆れることないじゃない。

 

 「ラザフォード家のご令嬢もそうだが、お前の言っていたいつか家に連れてくる人にも会ってみたいもんだな」


 私が言っていた家に連れてくる人?

 はて、一体誰のことだろう?

 記憶を思い出してみる。

 

 『いつか会えると思いますよ。私が連れてくるので』


 あー。あの時、話した人のことかしら?


 「そいつって誰なんだ? 俺の知っている人か?」

 「ええ。だってそれ、ルーシー様ですもん」

 「はっ?」


 ビリーお兄様はとぼけた声を出した。


 「お、男じゃないのか?」

 「男なわけないじゃないですか。ありえませんよ」

 「ありえない、ありえないのか……」


 と呟き、立ち止まるビリーお兄様。


 「いや、いやいやいやいや!」

 「どうしたんですか、ビリーお兄様」

 「どうしたんですか、じゃないだろう!? お前の守りたい人っててっきり男かと思っていた! 恋している相手が男だと思ってたんだよ!」

 

 男って……私が愛しているのはルーシー様以外にいなんですけど。

 お兄様の言葉に、私は横に首を振る。


 「男なわけないじゃないですか、全くもう……いいですか、お兄様。私にとっての天使はルーシー様であり、神もルーシー様なんです。私の世界はルーシー様を中心に回っているんです!」

 「お前なぁ……」


 再度ため息をつくお兄様。


 「それで、どうするんだ。そのご令嬢もいなさそうだし、帰るか?」

 「いえ。今日、街に来た本当の目的はルーシー様に渡すプレゼントを探すためなんです」

 「プレゼント? ご令嬢の誕生日でも近いのか?」

 「いえ、そういうわけではなく、ただ単に私がルーシー様にプレゼントしたいだけなのです」


 ルーシー様には指輪をお渡ししたいと思っていたのよね。

 そうして、ビリーお兄様はなんだかんだ一緒にプレゼントを探してくれることになった。

 前から目星をつけていた噂のアクセサリーショップ。

 店内に入るなり、目的のものがないか、見て回る。


 こういうところに入ったことがないのか、ビリーお兄様はソワソワ。

 だが、真剣に見ているようだった。


 そして、ディスプレイのアクセサリーを見ている時。

 ふと外の様子が気になり、窓の外を見ると、1人の子どもが目に入った。

 私と同じくらいの身長で、来ているコートはボロボロなその子。

  

 街の子……ではなさそう。

 あんなにフードを深く被って、1人で歩いて。

 コートは確かにボロボロだけど、靴やその他のものは比較的綺麗なもの。

 

 その後も、私は商品を見ながら、その子にチラチラを目を向けていた。


 「あ」


 強い風が吹き、その子のフードが脱がされる。

 その瞬間、その子の髪があらわに。

 

 さっーと、流れるサラサラな髪。

 その髪は太陽の光に照らされ、輝いていた。

 その銀髪は誰よりも目立っていた。


 ――――あれはまさか?


 「リリー!?」


 ビリーお兄様が声を掛けるが、私はスルー。

 気づくと、店を出ていた。


 彼女に会いたくて、走り出していた。

 ここ数日間、会っていなかった。話していなかった。

 ちゃんとルーシー様とお話したい!


 その銀髪の子の近くまで着くと、足を止める。

 勝手に声を掛けていた。


 「そ、そこにいらっしゃるのはルーシー様では?」

 「………」


 ちらりと見えた横顔。

 それは愛しくてやまない彼女だった。


 ――――フフフ、お兄様。私の直観は頼りになりますよ。




 ★★★★★★★★




 「そこにいらっしゃるのはルーシー様では?」


 …………早く逃げないと。

 じゃないと、リリーにしゃべれないことがバレてしまう。

 

 私は首を横に振る。決して正面を見せないようにしていた。


 「そう……ですか。失礼いたしました」


 よ、よし。

 気づかれていないみたい……ね。

 今のうちにリリーから離れよう。

 そして、私は軽くお辞儀をすると、さっさとその場を去るため、歩き出した。

 が。


 「嘘ですね、ルーシー様」

 

 そんな声が聞こえ、少しだけ振り向く。

 

 「ルーシー様でしょう? なぜ否定なさったのですか?」

 「…………」

 「なぜ、黙ったままなのですか。まさか、誰かから口説かれて、駆け落ちを……って、あ! ちょっとお待ちを!」

 

 リリーの言葉を待つことなく、私はすぐさま走り出した。

 全力ダッシュで大通りを外れ、小さな路地へと向かう。

 そして、あるドアの前に来た。


 その赤茶色のドアは古びていたが、取っ手の方はキレイにされていた。

 確か、このドアからも例の地下に繋がっているはず。

 

 「ルーシー様! お待ちください!」


 と遠くからそんな声が聞こえ、ドアをすぐに開けた。

 今日はとりあえず撤収だ。地下から帰ろう。


 その地下通路は幸いなことにランプが灯っていた。

 おかげさまで走りやすい。

 その狭い地下通路を駆け、ラザフォード家に戻れる道へと向かう。


 初めての人からすれば、街の地下通路はまさに迷路。

 何にも知らない人が迷い込めば、帰れなくなることだってある。

 でも、私は何度か通ったことがあったから、迷う心配はない。

 

 コツコツという足をが響く。

 しかし、途中から私以外の足音も聞こえ始めた。

 後ろから、リリーがきてる。早く逃げないと、追いつかれるわ。


 そうして、後ろに注意しながら走っていると、前に人影が。

 その人は私に道を譲ろうとはせず、むしろ立ちはだかっていた。

 警戒した私は思わず立ち止まる。


 「初めまして、だな。ラザフォード家のご令嬢さん」


 通路に響くその声。

 声から判断するに、その人、いや、その子は男の子のよう。

 この子、私を知っているの? 


 その少年は私の方へゆっくりと近づいてくる。


 ねぇ、待って。

 雰囲気が変わっているせいで分からなかったけど、この人って――。

 

 「俺の妹があなたを探していたんだ。ちょっと時間をくれないか?」

 

 そこにいたのは1人の少年――リリーの兄、ビリー。

 …………え? なんでこんなところに彼が?

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