第2章 対抗編

23 第1回ルーシー幸せ作戦会議

 最悪のお茶会が終わった後。

 私、ルーシーは想定通りお母様にしっかりと叱られた(当然キーランも)。


 そんでももって、私は例の4人とは一生口をきかないと決意。

 だって、いやいやながらもやったお茶会をハチャメチャにされたのよ? 

 読書の時間を使ってまでちゃんと準備したのに。

 誰だってそんな人たちとは関わりたくなくなるでしょ?


 そうして、私は二度と話すものか、と誓ったのだが。


 だが、それも1週間で終了。

 それはなぜか。

 それは……あの4人が。


 「ルーシー様、どうかお話してくださいませ。私にはルーシー様しか友人がいませんので、とっても寂しいです」とか。

 「姉さん、家族なのに無視するのはひどいよ。そんなに無視するのなら、姉さんのベッドにコッソリ潜り込むよ」……とか。


 「王子の俺を無視するとはな。後が楽しみだな、ルーシー」……とか。

 「せっかくお菓子作ったのになぁ~、僕1人では食べきれないなぁ」


 とかと毎日言ってきて、あまりにもしつこいので私は折れることにした。


 べ、別にお菓子につられたからじゃないわよ?

 決してカイルの手作りクッキーが輝いて見えたから、許してあげたわけじゃないからね。

 …………ええ、そんなのじゃないわよ。


 そうして、お茶会から2週間。

 ラザフォード家にはいつもの5人で集まっていた。

 今日はなぜかカイルたちに「ルーシーはあのシューニャもどきと遊んでいて」と言われた。


 珍しい。

 いつもならほぼしゃべらない私もおしゃべりに入れてくれるのに。


 いつもの私なら部屋に戻って本を読み始める。

 だけど……。

 「姉さん、部屋には戻らないでね。僕たちが目に入るところにいてね」

 となぜかそんなことを指示された。


 最近、本を読むばっかできっと運動不足がバレたなんだろうな。

 私の健康を思って忠告してくれたのだろう。

 

 そうして、私はカイルたちの指示を素直に聞き、庭で遊ぶことにした。

 私の目の前にはいるのは1匹のワンちゃん。

 その水色の犬は嬉しそうにしっぽをふりふりさせていた。


 ………………あー、かわいい。


 そう。

 このワンちゃんが例のシューニャもどき、ミュトス。 

 このミュトスという名前は私が勝手につけたもの。

 ずっとシューニャもどきって言うのもあれでしょう?


 私が何度か呼ぶうちに、ミュトスというのが自分の名前だと理解してくれて、今ではすっかりシューニャもどきはミュトスとなっている。

 そんなかわいいミュトスだが、今日はワンちゃんの姿をしていた。


 試しに私が「犬になって」と指示を出すと、ミュトスは指示通りワンちゃんに。

 変幻自在だがらなんでもなれるらしい。すごい。

 

 因みに私を放置しているカイルたちはというと。

 彼らは少し離れたところでお茶をしていた。

 というか、真剣な表情で話し込んでいる。

 全く何を話しているのやら。

 

 運動ついでにミュトスとフリスビーで遊ぶ。

 この世界にフリスビーがあるのは不思議。

 だが、それ以上に不思議なのが自分の体力。

 

 …………少しの間、運動をしていないだけで、こんなに体力って落ちるもの?

 よし。

 今度から定期的に運動しよ。


 そうして、一時動いた私は木陰に移動し、芝生の上に寝転がる。

 

 4人が仲良くなってくれたのは嬉しいけれど、それにしても随分と話し込んでいるわね。

 そっと耳を澄ますが、カイルたちの声はなぜか聞こえない。

 まぁ、でも、彼らの顔から察するに、真面目な話をしているのは間違い。


 「はっ」


 私は思わず息をのむ。

 まさかゲームのシナリオレールに乗ってしまった?

 私、カイルたちに距離を置かれ始める?


 突如不安が胸によぎる。

 

 でも、それが本来の世界。

 私は1人ぼっちなのがあるべき世界なのよね。

 隣に寝転がるミュトスをぎゅっとハグ。


 どうせ死ぬんだから、1人の方がいいわよ。

 誰も悲しまないんだから。




 ★★★★★★★★




 ルーシーから少し離れたところに用意された机。

 その机を囲むようにカイルたちは座っていた。

 彼らはいつになく真剣な顔。

 だが、怒っているというわけではない。


 カイルが3人に目くばせすると、彼らはコクリとうなづく。


 「じゃあ、これから第1回ルーシー幸せ作戦会議を始めるよ」 

 「はい」「ええ」「ああ」

 

 以前のお茶会で散々争った彼らだが、現在は意見が一致していた。

 その意見というのは。


 『ルーシーを幸せにしたい』


 というもの。

 カイルたちは転生者であり、ゲームとは全く異なった状況にある現在。

 しかし、ライアンとルーシーの婚約が破棄されていない今のままでは、カイルたちはルーシーと結ばれることなどできない。


 自分とともに・・・・・・ルーシーが幸せになる未来など到底見えなかった。

 かといって、1人で今の状況をどうにかできるとはとても思えず……一旦4人は停戦。

 邪魔なライアンをどうにかするために協力関係となったのだ。

 そして、今日はその作戦会議を行うことに。


 「ライアンとルーシーの婚約を破棄させることだけど、何か案はある?」

 「「「…………」」」

 「君たち、気持ちは分かるけどルーシーの方チラチラ見ない」

 「「「すみません、議長」」」

 

 無邪気に遊ぶルーシーに目を奪われていた3人。

 カイル議長に注意され、やっと真剣に考え始める。

 なんだかんだ用心深いカイル。


 彼はルーシーに声が聞こえないよう、魔法を張っていた。

 そのため、幸いルーシーはこちらの声が聞こえていない。

 まぁ、彼女はカイルたちの様子が気になって仕方がないようだったが。


 考えこんでいた4人。

 すると、ふと思いついたキーランが呟いた。


 「ゲーム通り行けば、ルーシーは婚約破棄されるんじゃない?」

 「そうだけど、そこまで待つのはちょっとね……ルーシーが辛い思いする時間が長くなってしまうんだよ」

 「そっか。姉さんを辛くさせるのは嫌だなぁ」


 うつむいていたリリーがパッと顔を上げる。


 「うふふ、手っ取り早い方法を思いついたわ。それはね、エドガーにしかできなさそうなことなの」

 「……ライアンにルーシーをくれって頼むことか?」

 「ええ、そうよ。それが一番時間がかからな――」


 途中までノリノリで話していたリリー。

 彼女はさっとエドガーに目を向ける。

 しかし、彼はリリーと目を合わすも、すぐに逸らした。


 「…………アハハ、エドガー様。まさかもうやったんですか? てか、くれって言ったの?」

 「あ、ああ。ライアンに勝負を申し込んで、俺が勝ったから頼んだ」

 「うそ」

 「だが、断られた」

 「「「え?」」」


 目をまん丸にするカイルたち。意外だったのか、「ありえない」とまで呟いている。


 「……………あの王子が断ったっていうんですか?」


 キーランの呟きにエドガーはコクリとうなづく。


 「でも、あの王子、ルーシーのことが嫌いだったよね。なんで? なんで承諾しなかったの?」

 「ライアンに陛下や母上が許可することはないし、許可が下りてもお前の頼みはきけないって言われた」

 「はぁ? 許可が下りてもきけない?」


 リリーは全くもって意味が分からないとでも言いたそうに首を傾げる。

 キーランも首を傾げていたが、彼はある考えが浮かんでいた。


 「……それってつまりあのクソ王子はルーシーが好きってことじゃないの?」

 「それはないじゃないかな。ライアン王子、ルーシーに対してだいぶそっけないよ」

 「ツンデレとかじゃないかしら」

 「あの王子、ツンデレだったんだ。初耳」


 「……ともかくライアンに婚約解消の交渉を持ちかけてもダメだ」

 「他の方法を考えないとね」

 「あのクソ王子を私たちの手で殺すとかはどうよ? 私なら余裕でやれるわ」

 

 そう言って、リリーは「フハハハハハ」と不気味な笑い声を上げる。

 彼女の姿は悪役令嬢のルーシーよりもだいぶ悪役感があった。

 そんな彼女を見て、カイルは思わず苦笑い。


 「それは一番簡単・・にルーシーとライアンを離すことができる方法だけれど、ライアンが好きなルーシーがその方法で幸せになるなんて、僕には思えないよ」

 「…………むー。まぁ、そうね」

 「じゃあ、どうする?」


 黙る4人。

 1人がニコリを笑みを浮かべた。

 キーランが前かがみになると、他の3人も顔を近づける。


 「この4人のうち、誰かがルーシーとかけおちするのは……どう?」

 

 他の3人はコクリとうなづいた。


 

 

 ★★★★★★★★




 ルーシーの侍女、イザベラ。

 彼女はいつも日の出前に起き、すぐに支度を始める。

 そして、日の出とともにルーシーの部屋に向かい、彼女の支度を準備する。

 それが彼女の日課。特別なことなんてない。


 そして、その日もいつも通り動いていた。


 朝、ルーシーの部屋に向かうと、彼女はすでに目を覚ましていた。

 だが、彼女はベッドに座ったまま。

 服はパジャマのままで、他のことをしている様子もない。


 ルーシーはただただ自分の首に手を当てていた。

 彼女が困っているのはすぐに分かったイザベラ。

 彼女はすぐにルーシーの元へ駆け寄った。 


 「ルーシー様、首を押さえてどうなさったのですか?」

 「…………」


 問いかけても、答えないルーシー。

 だが、彼女は目でイザベラに何かを訴えていた。


 「喉が痛むのですか?」 

 「…………」

 「ルーシー様?」






 「あ゛あ………………」

 

 いくら声を出そうとしても、叫ぼうとしても、ルーシーはまともに声が出せなかった。

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