22 転生者 後編

 「なんで知っているって……」


 カイルの質問に対し、そう呟くリリー。

 カイルが質問などしなくても、4人はすでに確信していた。


 自分以外の他の3人も転生者であると。

 同じ世界から来た者であると。


 「君たち……いや、僕らは4人とも転生者だったんだね。ステラのことを知っているみたいだったし、その様子からするに『Twin Flame』っていうの何か分かるんでしょ?」

 「……うん」

 「……ええ」

 「……ああ」


 なんとも言えない返事をする3人。

 しかし。


 「そんでもって、君たちルーシー推しでしょ?」


 カイルがこう尋ねると。


 「うん!」

 「ええ! もちろんよ!」

 「ああ! 当たり前だっ!」


 と別人のように元気よく返事。

 カイルは思わず「……君たち、強烈に分かりやすいね」と呟く。


 互いに同じ世界からの転生者であることに気づいた4人。

 彼らはひとまず席につき、落ち着くことにした。


 カイルは背もたれに体を預けると、大きな溜息をつく。

 前世では出会えなかったルーシー推しの者。

 そんな人たちが目の前にいる。気持ちを共有できる最高の人間がいる。


 だが、カイルは複雑な気持ちだった。

 彼らはルーシーに近づき、仲良くなろうとしていた。

 そして、ルーシーのパートナー、恋人になりたがっている。


 つまり、彼らはカイルの恋のライバル。

 カイルは再度溜息をついていると、リリーが「なるほどね」と小さく頷いていた。


 「なんだか納得いったわ」

 「納得?」

 「ええ。ほら、ゲームの中ではこのメンツでルーシーと仲良くなるやつなんていないじゃない。彼女とは普通対立するか、接触なしかでしょ?」

 「そうだね」


 「でも、この世界のカイルとキーランはルーシーと仲良くなっていた。エドガーもルーシーに好意的だった」

 「確かにリリーもルーシーと仲良くなっていた」

 「ええ。まさか自分以外に転生者いるとは思っていなかったわ……」


 カイルに続き、リリーも大きなため息。

 しかし、彼女は決してカイルと同じ考えではない。

 前世では推しは違うとはいえ、趣味を共有する友人がたくさんいた。

 論争をすることもあったが、彼女自身寂しくなどなかった。


 むしろ推しを独占できると思っていた。

 

 しかし、残念なことに彼らとは別れることになったリリー。

 神が味方をしたのか、彼女はルーシーが存在する世界に転生できた。

 そんなリリーは本当の意味でルーシーを独占できると考えていた。

 

 だが、この世界には敵がいた。

 前世では会うことのなかった推しが同じである者が。

 

 ルーシー独占計画が頓挫したリリー。

 イラついていた彼女は3人を鋭い目をやる。

 

 「ああ……いざあんたたちが転生者だと思うとムカつくわ」

 「ムカつく?」


 「ええ。特にキーラン! あんた、最高の転生してんじゃないわよっ!」

 「そうだ、そうだ!」

 

 同じ考えだったエドガーはリリーの言葉に大きくうなづき賛同。

 勢いに乗ったリリーはガッと立ち上がる。

 

 「もしかして、ルーシーの一番近くにいれるからムカつくっていうの?」

 「ええ! そうよ! それ以外に他に理由があるって言うのっ!」

 「僕も分かるけど……リリー、声が大きいよ。周りの人たちが……」

 

 カイルにそう言われたリリー。

 彼女は周囲を見渡すと、「ごめんなさい」と言って座り直す。


 「でも、いい? 私がルーシー様のパートナーになるのよ。だから、邪魔しないで」

 「何を言ってるんだ。この俺がルーシーの恋人になるんだ」

 「エドガー様こそ何言ってるんですか。弟である僕が姉さんを一生お守りするんです」

 「………………ルーシーの未来のパートナーは僕なんだけどなぁ」


 再び黙りこくる4人。

 同じことを考えていた彼らはさっと立ち上がる。


 彼らの間に流れる緊迫した空気。

 普段なら空気を読むことなく話しかけていく令嬢たちまでもが一触即発な雰囲気を察し、カイルたちに近寄ろうとしなかった。

 

 だぁ——れも近寄ろうとはしなかった。




 ★★★★★★★★



 

 カイルたち4人が張りつめた空気にいる頃、ルーシーとライアンはというと。

 

 「僕の世界から消えてよ、ルーシー」


 ライアンの手に炎と、ルーシーは危機的状況にあった。

 逃げてもルーシーの足だとすぐに捕まる。

 かといって、魔法で戦っても結果は見えている。


 ルーシーはどうしようもない状況にあった。

 

 「じゃあね、ルーシー」


 轟々と燃える炎。

 それが近づいてくる。

 ルーシーは死を覚悟した瞬間。

 

 「ライアン殿下、お話中失礼いたします」


 背後からそんな声が聞こえてきた。


 「君は……ルーシーの……」


 ルーシーはパッと振り向く。

 少し離れたところにいたのは使用人であるイザベラ。

 彼女は深くお辞儀をし、立っていた。


 「イ、イザベラ、どうしたの?」

 「お2人のお邪魔をするつもりはなかったのですが、庭の方でちょっと問題が……」

 「問題?」

 

 ルーシーははて? と言わんばかりに首を傾げる。

 大した問題でなければ、イザベラが指示を出し解決しているはず。

 しかし、彼女が動揺している様子から、ヤバい問題が起こっているのは間違いない。


 「何が起こったの?」

 「それがカイル様、キーラン様……」

 「まさかその2人がケンカを?」


 なんてこった、とルーシーは心の中で呟く。

 最近の2人はこの前のケンカで、怒ったこともあり、落ち着いていた。

 ルーシーはてっきり2人が本当に仲良くなったと思っていた。


 だが、今回のお茶会で2人が再びケンカ。

 しかも大事なお茶会で、だ。

 ルーシーは思わず頭を抱える。


 「えーと、確かにカイル様とキーラン様も勝負なされているのですが……」

 「止めなきゃ」

 

 ルーシーは急ぎながらもライアンに一礼。

 そして、会場の方へ走っていった。


 中庭に残された2人。

 イザベラは主人の代わりに謝罪をした。 


 「殿下、大変申し訳ございません」

 「…………」


 ライアンは返事をすることもなく、彼女に顔を向けることもしない。

 前にある花々を見つめているだけ。

 だが、先ほどまで手に宿っていた炎はすでに消え。

 ライアンも落ち着きを取り戻しているようだった。


 「お前、イザベラといったか?」

 「はい」

 「……お前、さっきのを見ていたか?」

 「はて、一体なんのことでしょう?」

 

 そう言って、イザベラはニコリと笑みを見せる。

 だが、彼女の目は決して笑ってはいなかった。




 ★★★★★★★★




 「な、なによ。これ」


 会場に戻ったルーシー。

 彼女が目にしたものはハチャメチャになった会場の姿。

 幸い、ゲストの多くは室内へと誘導されていた。きっとイザベラのおかげだろう。

 

 しかし、4人だけは移動していなかった。

 その4人はカイル、キーラン、リリー、エドガー。

 彼らはお得意の魔法を使い、攻撃し合っていた。


 「リリー、よくその状態で動けるね」

 「カイル様こそよく動いていますわね。まぁ、私の方が動けていますけど。そんな動きではルーシー様をお守りすることはできませんよ」

 「ハッ」


 カイルとリリーはエドガーの魔法を食らったのか、目が全く見えていない様子。

 だが、2人は難なく動いていた。視界を奪われている時と変わらない動き。


 誰が見ても、2人は化け物だった。

 間に入れるものなんて、国に数えるくらいしかいないだろう。

 一方、キーランとエドガーはというと。


 「僕、エドガー様の魔法は使いものにならないと考えていんだけどな。やりにくいなぁ」

 「……手加減はしないぞ、キーラン」

 

 どこから持ってきたのか知らないが、エドガーは剣を構えていた。そして、彼の正面に立つのはキーラン。

 キーランもエドガーに視界を奪われていた。


 彼はカイルたちほど動けていたわけではないが、エドガーの攻撃を何とか避けている。手探りで魔法攻撃もしかけていた。


 「これはさすがにイザベラでも解決は無理ね……私にも無理なような気がするけど」


 華やかだった会場が一変戦場に。


 これはもうルーシー母からのお叱り確定事項だった。

 ルーシーの状況は\(^o^)/オワタ状態。

 逃げ出せるのなら、とっととラザフォード家を出て行きたかった。


 だが、シナリオ通りになると考えれば、逃げたところで意味はない。

 それにあの母親のことだ。

 地球の反対側に逃げても追っかけてくることだろう。

 覚悟を決めたルーシーは深呼吸。そして、叫んだ。


 「あんたたち! な、何てことしてくれるのよ!」


 会場を離れたから、こうなった。ルーシーが4人の子守をしておけばこうならなかった。

 だが、ライアン王子の頼みなど断れるやつはどこにいるのだろうか。

 少なくとも婚約者のルーシーには無理だった。


 ルーシーの声が届いたのか、4人は手を止める。 


 「あ、ルーシー」

 「ルーシー様っ!」

 「姉さんっ!」

 「ルーシー!」


 そして、何事もなかったようにこちらにかけてくる。


 「ルーシー、殿下とのお話は終わっ――」

 「あんたたち、そこに座りなさい! 正座でね!」

 

 4人はうんうんとうなづきながら、素直に並んで正座。

 エドガー王子までもが正座をしていた。

 傍から見れば王子が正座など滑稽な状況だろう。


 そうして、ルーシーの説教が始まったのだが。

 いくらルーシーが怒っても、彼らは笑みを浮かべるだけ。カイルたちは推しに怒られて幸せだった。


 そんな彼らの態度がさらにルーシーの怒りを増大。

 ルーシーに説教される中、カイルたちは同じことを考えていた。

 『もっと怒って。なんなら罵って』と。


 ―――――――全く、変態にもほどがある。

 4人の心の声が駄々洩れだったら、ほとんどの人が呆れることだろう。

 そんな最悪な形で終わったお茶会。

 

 ルーシーは婚約者に殺されかけたり、お茶会をハチャメチャにされたりともうクタクタ。

 二度とお茶会なんてするものかと誓ったほどだった。

 一方、ルーシーに説教された4人はというと。

 1週間ずっと腹立つぐらいに幸せそうな顔を浮かべていたのだった。

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