11 2人は仲良し?

 先日。

 キーランがラザフォード家にやってきたわけだが、私以外にもラザフォード家の全員が彼を歓迎していた。

 お母様やお父様はもちろん、執事や侍女たちもみんな。


 もっとも、キーランは侍女たちから非常に人気があった。侍女たちから「かわいい」とひっきりなしに言われていたが、キーランは慣れた様子だった。

 さすが攻略対象者、心持ちが違う。


 また、家族だけではあるが、歓迎パーティーもした。

 小さなパーティーではあったが、キーランは終始楽しそうだった。

 そのパーティー以降は特に変化もなく、問題は起きることなかった。

 平和万歳。


 まぁ、強いて言うのならば、変わったことは3人で勉強するようになったことだろうか?


 そう。

 いつもなら私はカイルと2人で勉強をしていた。

 あの本だらけのあの部屋で。


 だが、キーランが加わり3人で勉強するようになっていた。

 キーランも勉強熱心で、分からないところがあれば、尋ねてきた。


 ――――――――――そして、その日も勉強をしていたのだが。

 

 「カイル様、こんなところにいていいのですか? 当主としての勉強はなさらなくてはならないのでは?」 

 「ご心配どうもありがとう、キーラン。僕は帰ってからしっかり勉強しているからね、大丈夫だよ。君こそいいのかい? お父様の当主についていかなくて」

 「父上は今日はでかけません。ご心配どうも」


 そこには居心地の悪い雰囲気があった。

 前に座るカイルとキーラン。

 彼らはなーぜか、仲が悪い。


 ゲームでは普通の関係だったのに。いや、むしろ仲がよかった方だった。


 しかし、目の前の2人は現在進行形で論争。

 ずっと耳を澄ませていたが、その論争の意味が私にはさっぱり分からなかった。

 静かなところで勉強したいし、自分の部屋にでも戻るかぁ。

 

 と考え、席を立ち、部屋に戻ろうしたのだが。


 「ルーシー?」

 「姉さん、どこ行くの?」


 さっきまでこちらに注意を向けなかった、2人が私を呼び止めていた。

 なんなの…………あなたたちは。


 「どこに行くって、自分の部屋に戻るだけよ」

 「何か取りに行くの?」

 「いえ」

 「なら、なんで?」

 「…………ケンカとか争い事とか嫌いなの。でも、あなたたちがケンカばかりするし仲悪いみたいだし、うるさいから、自室で勉強しようと思って」


 すると、さっきとはうって変わって、カイルとキーランは笑みを浮かべていた。


 「ルーシー」「姉さん」

 「「僕らは仲よしですよ」」

 「そう。それはよかったわ」


 そして、私が立ち去ろうとすると。


 「待って! ルーシー! 僕らは静かにするから!」 

 「そうだよ! 姉さん! だから、ここで一緒に勉強しよう!」


 と、2人はなぜか必死になって引き留めてきた。

 仲良しなら、2人で一緒に勉強すればいいのに。

 別に私がここにいなくてもいいでしょ?


 しかし、2人があまりにも必死になって引き留めるもんだから、最終的には私が折れて。


 「…………分かったわ。ここで勉強するわ」


 結局、その部屋で勉強を続けることにした。


 「その代わりもうケンカはしないでよ。仲良くしてよ」

 「「はい」」


 2人は真剣な表情で返事。

 面倒事もケンカも嫌なんでね。

 散々前世でケンカはしたから。




 ★★★★★★★★




 そして、ルーシーが集中して勉強する中で、彼らは。


 「…………」「…………」


 カイル、キーランは睨みあっていた。

 この2人だが、今同じことを考えている。

 なぜ、コイツがルーシーの近くにいるのか、と。

 

 ゲームのシナリオ通りであれば、カイル、キーランの2人ともルーシーとは仲良くない。キーランに至っては姉弟にも関わらず、仲が悪かった。

 

 しかし、今のキーランはルーシーに引っ付いている。

 ゲームのシナリオを知っているカイルからすれば、違和感しかない。


 だが、当然、それはカイルにも言えること。

 

 入学前にカイルとルーシーとの接触があるとすれば、お茶会やデビュタント後のパーティーぐらい。

 こうして、毎日ラザフォード家に来ることなんてまずない。


 ゲームを知っているキーランの方も今のカイルは違和感しかなく、邪魔でしかなかった。

 キーランは手元にあった紙を取り、文字を書き始める。

 そして、その紙をカイルへ渡す。


 『なんであんた、毎日ラザフォード家に来てるわけ? 姉さんの婚約者でもないくせに』


 そう書かれてあった紙を見るなり、カイルは目を細め、キーランを見た。 

 また、彼も紙に書き始め、それをキーランに渡す。

 

 キーランも目を細めつつ、その紙を受け取り、目を通す。

 そこには。


 『なぜか? それは僕はルーシーの友人だからだよ。君こそ、ルーシーにつきまとって、何してるわけ? ルーシーの勉強の邪魔をしているんだ?』

 

 と書かれてあった。

 思わずキーランの口角が引きつく。

 そこから、静かな戦いが始まった。

 

 書いては渡し、書いては渡し。それの繰り返し。

 傍からすれば、ケンカしているとは思えない。

 学校でよくあるメモで会話しているように見え、仲良しに見える。


 すると、突然ルーシーが立ち上がった。


 「「ルーシー! 僕らは仲がいいよ!」」

 「…………と、突然どうしたのよ」


 ルーシーの反応に首を傾げる2人。

 また、彼女もその2人のマネをするかのように、首を傾げた。


 「え、ルーシー。僕らがケンカしていると思って、自分の部屋に戻ろうと思ったんじゃないの?」

 「え、違うわよ」

 「じゃあ、なんで姉さんは本を持って立ち上がったの?」

 「天気もいいし、休憩がてら木の下で本を読んでもいいかなって思ったのよ。2人こそ、声揃えてどうしたの?」

 「いやぁ……」「その……」

 

 ルーシーは2人が何を言いたいのか分からず、首を傾げる。

 しかし、2人ははっきりと答えてくれない。


 「あ、私が部屋に帰るとでも思ったの?」


 2人は無言でその質問に答えなかった。

 が、ルーシーは彼らの表情から察し、小さく笑った。


 「…………あなたたちも一緒に外に行く?」

 「「うん!」」


 その質問には即答だった。



  

 ★★★★★★★★



 

 結局3人で庭に出ることになったわけだが。


 「……………なんでこんなことになってるの」


 なぜか戦いが始まっていたのだ。

 白けた目で見ていたルーシー。

 彼女の少し離れたところでその戦いが繰り広げられていた。

 

 カイルは氷魔法を、キーランは風魔法を使い、攻撃。

 カイルが氷の刃を飛ばすと、キーランは風を操り、それを飛ばす。しかし、一部はキーランに当たりそうになっていた。


 「そんなのじゃあ、ルーシーに怪我をさせてしまうよ。僕は絶対ルーシーに怪我一つもさせないけどね」


 逆にキーランは風魔法を使って、石や折れた木をカイルへと勢いよく飛ばす。

 カイルは自分の前に氷の壁を作る。


 「ハッ、そんなので姉さんを守れると思ってるの?」


 カイルも横から飛んできた石を防げず、小さな石が腕に当たる。

 2人はずっとこんなを繰り返していた。

 彼女は木の下で静かに本を読んでいたのだが、いつの間にかこんな状態になっていた。


 2人がにらみ合っているのには気づいていた。

 だが、静かだったので、ルーシーは放っておいたのだ。

 しかし、放っている間にこんなことに。


 広い場所であり、使用人たちもいなさそうなので、怪我をするのはきっとあの2人だけ。

 自業自得だから、怪我は別にいい、とルーシーは考えていた。

 だが、心地よく読書をしている目の前で、戦いを繰り広げられるのは気に食わなかった。

 

 先ほどもケンカをするな、と注意したばかりだったので、ルーシーの限界はきていた。

 彼女は地面に本を置くと立ち上がり、2人に近寄っていく。


 すると、徐々に空が暗くなり始めていた。

 しかし、曇ったという意味ではない。


 突然青かった空が暗い夜空に変わっていたのだ。

 全ての空というわけではないが、少なくともルーシーの頭上の空は一部夜空に変わっていた。

 そこには星々が見え、月まで現れている。


 「キ、キーラン、あの夜空はなに?」

 「ぼ、僕にも分かりません。カ、カイル様は知らないんですか?」

 「知らないな。ただ、あれがヤバいものっていうのは分かるよ」

 「同じくです……………………」


 徐々に近づいてくるルーシー。

 彼女はただならぬ気配を醸し出していた。

 空の一部を覆った夜空。


 そこには鮮やかに煌めく星が見える。


 「ねぇ、あなたたち……私はケンカが嫌いって言ったわよね? 」

 「ル、ルーシー?」「姉さん?」


 星々の光がさらに明るくなっていく。

 危機を察知し、カイルとキーランは肩を組んだ。


 「僕らは仲よしさ? そうでしょ、キーラン」

 「そうだよ、カイル」

 「……………………さっきもそんなこと言ってたわ」


 さらに近寄ってくるルーシー。

 彼女の瞳は何よりも鋭くなっていた。

 

 「ルーシー、キーランとケンカはもうしない!」

 「僕もだよ、姉さん! 誓うから! カイルとケンカはしないって誓うから!」

 「僕も誓う! だから、その魔法を放たないで!」


 すると、ルーシーは進めていた足を止める。

 

 「魔法……………………?」


 そう呟いたルーシーは冷静になり、徐々に夜空も消えていった。

 そして、いつも通りの空に戻っていく。

 彼女は魔法と言われ、周囲を見渡したが、何も異常はなく。魔法の気配もなかった。


 「魔法ってなんのこと? 魔法なんて私使っていないのだけれど」

 「そ、そうなの? 姉さんでも魔法を使っているようだったよ。もしかしたら、無意識に魔法の暴走が起きていたのかもね」


 キーランの言葉にルーシーは首を傾げる。


 「魔法の暴走? 私、暴走するほどの魔力はな――」

 「よかった、よかった! 魔法の暴走が収まってよかったよ! ……さぁ、本の続きを読もう? 僕ら、静かにお昼寝でもしているからさ」


 カイルは食い気味に話し、ルーシーを読書に誘導。

 彼は先ほどの魔法をルーシーに使わしてはならないと考えていた。


 「…………そうね。丁度面白いところだったし、続きを読みましょ」


 と言って、怒りがすっかりおさまったルーシーは木の下に戻っていく。

 一方、カイルとキーランは顔を見合わせ、肩をすくめていた。


 「ルーシーって、魔法はそんなに使えないんじゃなかった?」

 「そのはずなんですけどね…………」

 「あの夜空から並々ならぬ魔力を感じたのだけど」

 「僕もです。まぁ、姉さんが落ちついたので、いいんじゃないですか。あの魔法、放たれていたら、僕らきっとただではすまなかったですよ」

 「そうだね」


 2人はルーシーを怒らせてはいけないと誓った。そして、ケンカはルーシーに気づかれないようにすると決めた。

 落ち着きを取り戻した2人もルーシーのところに戻っていく。


 その最中、カイルはある疑問を抱いていた。


 「ルーシーが放ったあの魔法はなんだったのだろう?」


 と誰にも聞こえないように呟き、1人疑問を抱いていた。

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