9 キーラン視点:推しは姉さん
僕、キーランは9歳の時、自分に前世があることに気づいた。
フッと前世の記憶を思い出したのだ。
葬式中という最悪のタイミングに。
そんな僕の前世だが、高校生になる前に終わった。
あーあ。
夢の高校生活を送りたかったんだけどな。
中学生で終わった僕の前世はこういうものだった。
★★★★★★★★
前世の僕には年の離れた2人の姉がいた。
上の姉の名前が
2人とも大学生であったが、実家が大学の近くなので、ずっと実家暮らし。
家に帰ると、姉たちがいつもいた。
大学生って夜中まで遊んだり、飲んだりするイメージだったけど、姉たちは違った。
授業が終わり、課題を終わらすとゲームしたり、マンガを読み始めたりする――――――――――――生粋のオタクだった。
しかも、ジャンルはなんでもいい、BLも百合もなんだっていけるクチだった。
上の姉があるゲームにハマると、下の姉も影響を受け、ハマる。それの繰り返し。
そして、姉たちはそのうち僕にもゲームを紹介し始めた。
「ねぇ、これやってみない?」
と言って黒華姉さんが渡してきたのは「Twin Flame」という乙女ゲーム。
え?
これを僕にやれっているの?
「これ、乙女ゲームだよ。僕にやれって黒華姉さん、本気で言ってるの」
「いやぁ、それがね。このゲーム、男子人口も多くてさ。我が弟もやってほしいなと思いましてね」
「…………なるほど」
姉さんたちのお願いを断っても、他の乙女ゲームを厄介なこと。
ちょっとやってハマったふりをしておけば、何も言ってこないだろう。
そう考えていたのだが。
僕はまんまとハマった。
そして、平日のある日。
部活を終え、家に帰るなり、僕はさっそく乙ゲーをプレイ。
ルーシー登場が多い、ライアンルートを何度もプレイしていた。
すると、姉さんたちが僕の部屋に入ってきて、隣でプレイを見始めた。
「我が弟よ。ライアンルートを何度もやっているようだが、お前は誰推しだい?」
「未黒姉さん、その口調何?」
「いいから、あんたの推しは誰よ」
「ルーシーだよ」
「へぇ、あの悪役令嬢が好きなの…………」
すると、姉さんたちは互いに顔を見合わせ、横に首を振った。
「我が弟は狂ってしまったようね、黒華姉」
「そうね、未黒。あの悪役令嬢が好きっていう人なんてほんの少ししかいないわ。きっと」
「聞いておいてそれはないでしょ…………」
姉さんたちはそこから勝手に話し始める。
あーあ。
こんなことなら、言うんじゃなかった。
「でも、あれね。あんた、あのキャラになれれば最高じゃない」
「いつだってあの悪役令嬢と一緒。幼少期なんて実質独り占めじゃない」
「え? あのキャラって?」
はて?
僕の推しを独り占めできるキャラなんていただろうか?
僕が首を傾げると、姉さんたちははぁとため息。
「ほら、アイツよ」
「あんたの推し、悪役令嬢の弟の――――――――――――」
★★★★★★★★
「キーラン…………」
僕はキーラン。
そのキーランの姉は悪役令嬢ルーシー・ラザフォード。
「ルーシーが姉さん…………自分の推しが姉さん…………」
これって、めちゃくちゃいいんじゃないか?
推しが姉さんって最高じゃないか。
姉弟だから、いつでも一緒にいられるし。同じ家に住めるし。
ほら、最高じゃん。
キーラン最高!
キーランのことを特にどうとか思ったことがないけれど、彼に転生した今はとっても好きになっていた。
しかし、今はラザフォード家にいるわけではない。
そう。まだ僕はラザフォード家の養子にはなっていなかった。
ゲーム上のキーランは事故で両親をなくし、身寄りのなくなったキーランは遠縁であるラザフォード家に養子と引き取られる。
そして、今。
僕は両親の遺体が入った棺を目の前にしている。
そう。
両親の葬式中なのだ。
あーあ。
なんでこんな時に前世の記憶を思い出したのだろう。
複雑な感情が浮かび上がる。
ゲーム通りだし、どのみちこうなることは分かっていた。
こうならないと、僕はルーシーの所に行けない。
でも、自分の両親を失うのは辛かった。
涙は止まらない。
とにかく悲しかった。
これは僕の感情? それとも記憶を思い出すまでの
そうして、両親の棺は墓場に埋められ、土の中へ。
「ありがとう。僕を産んでくれて、育ててくれてありがとう」
僕は両親の墓場を見つめた。
前世では先に僕が死んじゃったけど、お母さん、父さん、姉さんたちもこんな気持ちなのだろうか。
冷たい風が吹き、僕の前髪を揺らす。
「キーラン、行こうか」
背後で待ってくれていていた、ラザフォード家の当主、ルーシーの父。
彼は僕の肩に優しく手を乗せる。
その手は温かみがあった。
「はい」
これから僕はラザフォード家に行く。
ゲームでのキーランは精神不安定で遠縁の家出身ってこともあって、ルーシーに避けられていた。
だから、キーランは彼女との仲はよくなかったけど、今の僕は精神不安定なんかじゃない。
ルーシーにいくら蹴られたって嫌われたって、僕は話しかける度胸がある。
――――――――――いや、ルーシーに蹴られるのは最高だな。
嫌われるのはいやだけど。
だから、まぁルーシーと仲良くできるし、きっと彼女を幸せにできる。
母さん、父さん、僕はルーシーを幸せにしてくるね。
絶対に。
そして、僕は両親に向かって一礼すると、その場を去った。
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