戦いは変化する

 休憩に入ったミハルは個人ルームで観戦していたツバキたちの下へとやってきた。ミハルが入室すると勢いよくツバキが走りミハルに抱き着いた。


「おつかれ~!」

「ツバキ重いって」

「ゲームの世界だから大丈夫でしょ~。ほら、こっちきて」


 ツバキに引っ張られ隣へと座り、ふとモニターを見るとそこには前半戦のハイライトが映し出されていた。ヤマトはその映像を真剣な眼差しで眺め考えていが、ミハルが席に着くと体を向ける。


「おつかれさまです。前半だというのに中々激しい戦いでしたね」

「一つ一つの戦いは激しいけど待ってる身としてはどうしても緊張感が抜けちゃって困っちゃうよ」

「平均10分くらいありますもんね」


 前半戦最長時間はミハルが経験した30分。それだけの時間が常にかかるわけではなく、ストーリーバトルという都合上合流などの時間に比例して変化していく。相手チームと出会ってからはお互いの技量と仲間との連携がカギになるため時間は目安に過ぎない。だが、前半戦でメインを務めた者は後半で、後半でメインを務めるものは前半の戦いに対して戦いへの緊張感を維持するのは難しい。

 長期戦になればなるほど得られる情報も多いが、それだけ集中力を維持するのも困難となる。


「ポイント差はまだ開いてますけど後半戦で巻き返し出来そうですか?」

「ノア次第かな」

「ノアって子すごかったね! 一人であれだけのポイントもっていっちゃうんだもん」


 ミハルたちはノアと一度対峙しているため、その強さは鮮明に覚えている。特に正面で戦ったミハルは、待機している時もノアに注目していた。ノアは落ち着き払っており、時折戦いに対して鼻で笑ったりまったく見向きをしないこともあった。それだけ戦いへの自信があるということだ。

 

「確かにノアは強いプレイヤーだけどほかの強豪プレイヤーとは決定的に違う」

「どんなとこがですか?」

「能力に頼り切っているところだよ。いや、能力があまりにも強すぎる」

「ゲームのステータスに依存するのは特別おかしいことではないと思いますけど」

「なんていえばいいかな。例えばヤマトくんが銃を扱って戦うとして、弾道や弾数とか威力って気にするでしょ。みんな武器や体がどこまでやれるか考えてる。でも、ノアは異常なまでに強力な能力にのみ頼ってて相手を知ろうとはしない」


 自分のステータスが常に相手より上だということはまずない。ミハルがウィークと戦ったなら、ヒット&アウェイされてしまえば攻撃のチャンスは恐ろしく減ることだろう。しかし、その中から付け入る隙を探し、渾身の一撃を与えられることができたなら状況は一気に変化する。観察するという戦いの基本をノアはやってないとミハルは言及した。


「確かに私とヤマトが離れて奇襲をかけた時も普通ならメンバーが減ったことに疑問を感じて動きを変えたりしてもおかしくないよね」

「卓越した能力による慢心か……」

「そこに勝利の鍵はあると思う。でも、だからと言ってノアを簡単に倒せるとは限らない。ゼンガーさんとの戦いも隙はあったけどさらに上を行かれた。生半可な策じゃ通用しない」

「対抗するにも下手をすれば仲間を犠牲にすることも視野に入れないといけませんね」


 幸いこれからノアはお助けプレイヤーでしか戦いに参加できない。ポイントを稼ぎができないおかげで仲間を犠牲にするのは策としては有効であるがミハルは難色を示した。


「ノアを倒さないって方法もあると思う」

「のばらしにするのは危険では?」

「仮に私の相手がクルセイダーならたぶん早めに倒せる」

「でも、僕たちはあの時戦闘すらしてないですよね」

「疲弊してたし情報もなかったからね。でも、敗者復活やあの時のことを考えれば私なら勝てると思う」


 クルセイダーは第二戦においてクリントのチームを追い込みミハルたちの前にも立ちふさがったが自身の能力というよりも、状況と仲間を利用した戦いに長けている節があるとミハルは見ていた。それならばエースストライクによる短期決戦の可能性も十分ある。


「そうか、ノアがお助けに出たなら短期決戦ですぐに終わらせてポイント回収のサポートをさせないってわけですね」

「でも、ノアは飛べるでしょ。上から監視されたらすぐに見つかっちゃうじゃん」

「フィールドが開けてたり建物が低い場所なら移動は難しいけど、都市や建物の中ならそうとも限らない」

 

 一試合目のハルミの戦いの舞台は宮殿であり戦闘の多くは内部で行われた。開けた場所もあったが、ヴィランサイドの目的は特定の対象の撃破だった場合には中に入らざるを得ない。そうなればノアの空から探索できる力はそこまで脅威ではなくなる。

 しかし、その話にヤマトは疑問を呈した。


「例えばですけど仮に城の中だったとしても外から圧倒的な攻撃を浴びせれば外からでも倒せると思います」

「できるかもしれないけどおそらく時間がかかるんじゃないかな?」

「能力は強力ですよ」

「でも、建物を一撃で壊したことは一度もない。ゼンガーさんとの戦いでも自分から瓦礫を作り出せばもっと効率よく戦えたのにそうはしなかった。たぶんだけど能力で壊すためには対象の強度によって時間も変化するんじゃないかな。おそらく浮かせる対象の重さとかも。まぁ、エースストライクを発動されたら手も足も出ないけど、効果範囲次第ではあの時のサクラみたいに無効化できるかもしれない」


 ヤマトはミハルの観察力に驚いた。戦いのプレッシャーもない状態で、しっかりと観察できる場所にいたのにも関わらず、ミハルのほうが常に細かく観察しており、疑問を解消していく姿は生まれ持ってか稽古のおかげかわからないが、卓越した戦闘センスの持ち主であると理解する。

 三人が今後について話していると個人ルームにメッセージが届く。


「ミハルさん、ハルミさんから入室の申請が来てますがどうします?」

「入れていいよ。同じヒーローサイドだし」


  ヤマトが入室を許可すると入り口のポータルが光りハルミが現れた。


「休憩中にごめんね。少し話しておこうと思って。――ってツバキもいたんだね」

「久しぶり~。といってもそんなに前じゃないか」

「合宿ぶりだね。で、そっちの男の子は?」

「こっちは私の自慢の弟ヤマトだよ!」


 ヤマトは軽く会釈するとハルミも手を軽く振りあいさつした。

 ハルミはヤマトの横に脱力した姿で座った。


「なんか疲れてない?」

「いやさ、さっきまでフヨウから追いかけまわされてて……」

「どうしてそんなことに」

「なんか私もついていく~とか言っててさ。でも、いきなりフヨウも連れてきていいものか悩んじゃって。ミハルはこれからメインでしょ。だから、あの子いると気が抜けるじゃん」

「確かに……」

「でも、フヨウって何か引っかかるんだよね。上手くは言えないけどさ」


 ハルミの感じていた違和感は同様にミハルも感じていた。誰かに似ているような既視感に似た何かを。


「フヨウちゃんって赤城ちゃんに似てるよね~。二人とも忍びだし結構仲良くなりそう」

「リアルで忍びだったら赤城も喜ぶかもね」


 他愛もない話をしているとモニターが切り替わり後半戦の情報が更新された。

 

「ミハルさん、これ後半戦のルールみたいですよ」


 そこには前半戦にはなかったアイテムの使用が記載されていた。前半戦で説明はなかったが、誰一人としてアイテムを使わなかったのはそもそもフィールドにアイテムが存在していなかったからである。後半戦はステータスを上げるバフアイテムと、ステータスを下げるデバフアイテム、さらにエースストライクを使用できるようになるアイテムなどがフィールドに配置される。

 ハルミは小さくため息を漏らし言った。


「このゲームって情報の公開雑じゃない? 普通こういうのって事前に知らせておくもんでしょ」

「まぁ、大会を開いてるとは言っても現状試作だからそこは仕方ないよ」

「ミハルは柔軟だね」


 もうすぐ後半戦が始まるというところでミハルはずっと気になっており、これから激化するであろうことに言及した。


「後半戦はもしかしたらさっきまでとはうまくいかないかもしれない」

「どうして? 自分のサイドが勝つなら今まで通りにやるのが一番でしょ」

「たぶん、場合によってはポイントをほとんど稼げなくなる」

「だからそれだと不利になるじゃん」

「不利になってもいいんだよ。最初に言ってたでしょ。この戦いはチームとして分けられてるけど個人が保有するポイントの上位25名が次の戦いに上がれる。でも、お助けはバトル中にポイントを稼げない。公開されてる情報がすべてならアクアみたいなプレイヤーはすでに個人としては第4戦に上がれないし、ノアみたいにたくさんポイントを稼いだならばチームが勝つ必要はない」


 プレイヤーたちの中で薄れていたことだった。両サイド共に自身のサイドのプレイヤーと協力し合わなければ、戦いを円滑に進めることはできない中、それを思い出させたのはノアの一人勝ちがきっかけだ。


「私はクロノさんがどこか焦っていたように見えた。クリントさんも同じ。おそらく、二人の中であったポイントの考え方がノアの戦いで強く表面に現れたんだともう」

「今のポイントで一番高いのはノアの5300。ヒーローサイドだと私の2450か。ノアを例外として捉えるなら2000ポイント前後が上位に食い込むための最低限ってところかな」

「オータムさんが2500でヨハネさんが2370。サクラが1920だからその考えはだいたいあってるはず。おそらくサイドの勝利ボーナスはきっと1000ポイントくらいかな」

「どうして?」

「ここまでの戦いで上位に入るためには2000ポイントがアベレージでしょ。そこで2000ポイントも追加されたら結局片方のチームしか勝てない。それだとこれだけポイントに差が出るルールの意味がなくなる」


 仮に2000ポイントのボーナスが発生した場合二試合目で100ポイントしか稼げなかったアクアでさえも2100ポイントになる。実質ほとんどポイントを稼げなくても上位に食い込めてしまう。


「だとしたらやっぱり自分のサイドを勝たせた方が有利じゃない?」

「見限る人がいるかもしれない。特に高いポイントを稼いだ人はね」

「2000ポイント以上稼いだなら下手に戦いが長引くよりも早急にメインプレイヤー狙って確実にするってわけか」


 ポイントの稼ぐにはメインプレイヤーの存在が必要不可欠。長期戦になればそれだけ相手にもポイントを稼ぐ猶予を与えてしまうことになる。それだけ相手サイドの勝利を誘いポイントを超えられる可能性も高くなる。


「あと、さっきハルミが情報公開が雑っていってたけど、もしかしたらほかにもまだ非公開情報があるかも」

「例えば?」

「戦った時間や被害、お助けプレイヤーとかが残ったかの有無で後から加算したりされるかもしれないと思って」

「うわぁ、ありそう……。確か、敗者復活で最終的に第三戦に上がれる人数って明確じゃなかったってレイラン言ってたし」


 公表されている情報だけならシンプルな試合形式であるが、全試合終了時にポイントがどう変動するかわからないために結局自身がメインの時に多くポイントを稼ぎ、相手プレイヤーにポイントを稼がせないために早く終わらせることが現状もっとも安定する。

 ノアという気まぐれなプレイヤーがどう動くかがヒーローサイドの勝利を揺れ動かす。


「五分後に後半戦を開始します。参加プレイヤーのみなさんはバトルロビーへとお集まりください」


 淡々としたアナウンスが流れミハルとハルミはスッと立ち上がる。


「二人ともかんばってね!」

「後半戦はメインだし気合い入れていかなきゃ」

「お助けになったら全力でサポートしてあげるよ」

 

 予想できない第三戦後半が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る