伝説の剣士 5

 そして、一人の剣士が舞い降りた。

 その青年は頭には鉢巻を巻き黒い髪を一つに結びにしており羽織がひらりとゆれた。


「ったく、旅から帰ってきて光の柱が見えたと思ったらいきなりこれか」


 青年の姿を見ると赤鬼は驚きの表情を浮かべヨハネを握る手を緩める。


「き、貴様……」

「よう、赤鬼。久しぶりだな。やっぱあん時とどめを刺しておくべきだったぜ」

「桃太郎!!!!」


 青年の正体は桃太郎だった。かつて鬼ヶ島に雉、猿、犬と共に向かい少数でありながらも果敢に立ち向かった伝説の剣士。仲間も成長しており雉は翼を広げると人間を超えるほどの大きさで犬は狼のように鋭い牙に刀のごとく鋭利に尖った爪、猿はゴリラのような筋肉に体格も成人男性を超える。


「さぁ、鬼退治の再開だ」


 桃太郎の出現により状況は一気に変わった。桃太郎の剣は童話で見たような小さなものではなく大太刀を使っており一振り一振りが重い武器なのだが、そんなことを意に返さず舞うように華麗に飛び回りながら鬼らを圧倒した。

 その隙にミハルたちはヴィランプレイヤーにとどめを刺すためまずはセガルを狙った。


「だったらこれを使って一層してやる! エースストライク発動! 黄金支配のエルドラドフィスト!!!」


 強烈な光を放つセガルの拳。光はどんどん広がっていき周囲の物を黄金へと変化させてさらに分解し力へと変換する。近くにいた兵士たちは足が黄金となり動けなりジョーカーの分身は消滅していく。


「あれを止めなければ我々の敗北は確定してしまう」

「でも、近づけば拘束されてしまいます。どうすれば……」


 その時、猿が雄たけびを上げながら大きな岩を持ち上げセガルの方へと投げる。猿はミハルの目を見て何かを伝えようとしていた。

 

「そうか、アレに乗ればいいんだ!」


 飛んでいき岩に乗り一気にセガルの下へと接近すると岩から少し跳躍しつつも前方向へと飛ぶエネルギーを殺さずセガルの左腕を全力で切りつける。


「一閃!!」


 全力の一閃と共に体はセガルの後方へと飛んでいき着地をうまくできず転がるミハルだったが、即座に立ち上がりセガルの方をみると腕を抑えて悶えていた。ゲームのシステム上切断表現はないが手は赤く染まりピクリとも動かせない。


「よし、いまですヨハネさん!」


 とどめを刺す絶好のチャンスだったはずなのに一瞬にしてセガルの姿は消えて煙がその場に発生していた。その中からは姿を隠していたジョーカーの姿が。


「こんな無様にポイントを取られちゃあつまんないだろうに。ほんと正面から戦いたい奴らは馬鹿ばっかりだな」 


 ピエロのような姿をしたジョーカーはミハルたちを小馬鹿にするステップを踏んで満面の笑みを浮かべている。状況はジョーカーにとって不利だというのにも陽気なステップを踏む姿はまさしくピエロであり不気味でもあった。


「まずはこっちからだよなぁ」


 そう思っていたのもつかの間。ジョーカーは今までに見せたことのない速さでミハルとの間合いを詰めて強烈な蹴りを繰り出した。不意の攻撃にミハルは防御すらできず木へと体を叩きつけられる。


「な、なんで……。あなたはそんなに速くないはず」

「力を隠すことは何もおかしくないさ。むしろ相手が律儀になんでも見せてくれると思ったか?」


 再びステップを踏もうとしたジョーカーの隙を突きヨハネは攻撃を仕掛けた。その瞬間、ジョーカーの左腕が黄金に輝きだす。ミハルは即座に木に登ったがヨハネの足は黄金により拘束されてしまった。


「なんであなたがセガルのエースストライクを使えるの!?」

「そろそろ気づけよ。俺はずっとエースストライクを発動しているんだぞ」

「ミハルさん、ジョーカーの首飾りを見てください……」


 徐々に黄金が体を支配する中、ヨハネはジョーカーの首下を指さした。そこには小さな水晶がついておりその中にセガルの姿があった。


「もしかして、水晶に入れた能力をそのまま使用できる。それがあなたのエースストライク」

「ご名答。で、黄金がヨハネを侵食しているわけだが意味はわかるよな?」


 黄金は辺りを染めたのはセガルがエースストライクを発動したことによる影響。そして、ジョーカーはいま現在ジョーカーの回りから発生する黄金。それはジョーカーがセガルのエースストライクを発動しているということだった。


「さぁ、どうするよ。木はいずれ黄金で埋め尽くされる。お前も俺の支配下に落ちるぞ」


 後方の気に飛び移ろとしたがその下は徐々に黄金が広がりつつあった。次の木までの距離はさほど遠くはないが退けばヨハネを倒され負けてしまう。いまここで退くというのは負けに直結してしまうため攻撃以外の選択はなかった。しかし、攻めるにしても黄金を回避する必要がある。こうしている間にもジョーカーの左腕の光は増幅していき最大火力の攻撃を放つ準備が進む。

 

「おそらく水晶を壊せばセガルの力は消えるはず。確定ではないけど封じ込める理由はそこにしかない。でも、いま地上に降りて切りつけても当てられるかどうか……」


 奥では赤鬼を倒さない程度に翻弄する桃太郎。桃太郎の仲間たちは鬼の足止めをしているため助けに来ることはできない。ヨハネは下半身の自由を奪われ黄金は徐々に上半身へと昇っていく。いま戦えるのはミハルだけ。

 焦りと不安が入り混じる中、ミハルの戦いへの精神が新たな技を目覚めさせた。

 木から降りるミハルの姿を見てジョーカーは小さく驚くが攻撃を受ける前に咄嗟に後ろへと飛び距離をおいた。


「降りてきたのは感心するがそれじゃあ動きが止まってしまうだろう。これからどうするつもりなんだ? 刀を投げて俺を倒すか? ほら、早く見せてくれよ」

「――だますのは道化師だけじゃないよ」


 ジョーカーの背後からミハルの声が聞こえた。瞬時に後ろを振り向くがそれが仇となり水晶を露出させてしまう。その隙をミハルは見逃さなかった。素早い突きで水晶にダメージを入れて中にいるセガルを解放。それと同時に黄金はなくなり動けるようになったヨハネはジョーカーには目もくれずセガルを切りつける。


「くそっ……。ジョーカーの策に乗るんじゃなかった……」


 セガルは体力がゼロになったことでリタイア。ジョーカーは予想すらしていなかった出来事に動揺を隠せない。


「この窮地で新しい技だと……」

「あなたはなんでも隠すから私はあえて言わせてもらう。技の名は神威。バトル中に一度だけ窮地を脱する技を発動することができる。でも、エースストライク並みの技を放ったりできない。あくまで相手の動揺を誘うもの。今度は私があなたをだましたってわけ」


 怒りの表情を浮かべるジョーカーをミハルは容赦なく切った。それと同時にこのタイミングを待っていたといわんばかりに桃太郎は雉に指示を出し突風をふかせ鬼たちをヨハネのほうへと飛ばした。


「ヨハネさん、やっちゃってください!!」


 残り体力わずかのところでヨハネはジョーカー含めすべてのヴィランを一斉に切りつける。


「バトル終了。勝者、ヒーローサイド!」


 ぎりぎりの戦いの中で二人はついに勝利を手にした。

 

「やりましたね。ヨハネさん」

「最後まで油断ができない戦いでした。ミハルさんがお助けプレイヤーで本当によかった」

「いえ、ヨハネさんがエースストライクを変更してきてなければこの勝利はなかったです」


 この戦いでヒーローサイドは2370ポイントを手にしヴィランサイドを100ポイントで抑えることに成功した。ヒーロサイドとヴィランサイドの差は現在2090ポイント。ノアのお助けが残っている状況であるため油断はできないが確実にポイント差は近づきヒーローサイドにも光明が見え始めていた。

 二人は戦いを共にした桃太郎たちを下へ行き握手を交わすとロビーへと戻った。

 ヒーローサイドとヴィランサイドのプレイヤーが戻るとアナウンスが流れる。


「ストーリーバトル前半戦を終了します。30分後に後半戦を開始するのでそれまでにロビーへと戻ってきてください」


 プレイヤーたちにつかの間の休息が訪れた。

 

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