伝説の剣士 1

 前半戦最後のバトル、ミハルはお助けプレイヤーとして参戦することになった。江戸時代のような雰囲気の建物が広がり奥には大きなお城もある。静まり返った町から察するにいまは夜で遅い時間であることをミハルは理解した。

 メニュー画面を開き基本情報の確認をするとミハルの役目は護衛対象を守る用心棒の役。


「目的は護衛対象の防衛かヴィランプレイヤーを倒すことか。至って単純だけど私が倒しちゃ意味ないよね。それにジョーカーって人の戦いは見たことないし油断はできない」


 今回、ヒーローサイドからはヨハネ、ヴィランサイドからはジョーカー。ヴィランサイドのお助けプレイヤーはセガルが選出された。ヨハネの強さを知っているがどちらかといえば素の戦闘力よりもチート級のエースストライクのほうが印象に残っているため、もしこの戦いでヨハネがエースストライクを別の物にしていた場合どのように立ち回るかは不明だ。

 ジョーカーは敗者復活から勝ち上がりセガルは現状ノアを除けば最大火力のエースストライクを放てるという話をフヨウから聞いていたミハルは一瞬の隙で形勢を逆転される可能性も考えどう動くかを考えていた。


 前半最後のバトルということもあり制限時間は30分。時間とバトル内容の因果関係はまだ明確に分析出来てはいないが比較的時間が短いバトルほど相手プレイヤーとの接触が起きやすい傾向にある。ハルミやフヨウは早々にヴィランと遭遇し戦いを制したがクロノやレナなどは終盤にヴィランプレイヤーと遭遇し自身のサイドのNPCも豊富に存在した。

 そこからミハルは今回もヒーローサイド、ヴィランサイドともに味方NPCは多く存在しており長期戦になることを察する。


 とりあえず目的がないため城へ向かいつつ橋を渡っていると突如川からは水しぶきが上がり目の前に影が降り立った。大柄な肉体に防具や武器のたくぎを身に着けていないがその容姿にミハルは驚いた。


「もしかして……鬼?」


 頭部からは一本の角が生えており口から漏れている鋭利な歯はまさしく鬼そのものだった。


「だめだろぉ。こんな夜に人間が歩いてちゃあ。鬼に殺されてしまうぞ」


 肌は灰色で上半身は服を着ておらず鍛え上げられた肉体が露出している。身長は約二メートルほどでミハルが見上げるほど。圧倒的な体格差でありパワーは確実にミハルのほうが劣っていた。


「おとなしく通してくれるわけはないよね……」


 緊張の面持ちで柄に手を置くミハル。鬼は両手を広げてゆく手を阻む。切るしかないと判断したミハルは力の差はあれどスピードで翻弄し攻める決断をする。刀を抜いて構えると鬼は表情を変えて言った。


「ちょっと待ってくれ! 俺は敵対する意思はないぞ。女がこんな夜中に外に出てくるから忠告してやってんだ」

「……え? でも、鬼に殺されるって。というかどうして服着てないの」

「それは二角にかくどものことだ。見ろよ、俺は一角いっかくだろ。人間と争わないって。服は窮屈で嫌いなんだよ。でも、下は履けって姫がうるさいんだ」

「私よく知らないんだけどその二角ってのもたぶん鬼でしょ。あなたたちとどう違うの?」


 一角鬼である乱鬼らんきは説明した。この町は少し先にある妖怪山に住む鬼と友好関係であったが、突如別の山からやってきた二本の角をもった鬼の二角たちから襲われてしまい一角たちを全員差し出さなければ町を破壊すると言われてしまった。

 町の城には一角鬼の女王を匿っており現在町のために差し出すか一角と協力して対抗するかの協議が一日中続いたとのこと。


「いまもあそこで協議中?」

「いや、さすがに休憩してんじゃないのか。俺は町の人たちがうかつに外へ出ないようにと二角たちが来たら知らせるために警備してたんだ」

「そうとは知らず見た目で判断してしまってごめんなさい。」

「いいさいいさ。こんな見た目だから一角があまり目立たなくて侍に斬られかけることも珍しくないからな」


 時間もまだあったため乱鬼と共に町の巡回をしていると竹傘を深くかぶった五人侍のたちがミハルたちを取り囲んだ


「貴様、鬼と行動を共にしているとは何者だ!」

「一緒に町を巡回しているだけです。あなたたちこそいきなり刀を出して何者ですか」


 周りにいる侍の雰囲気を察し乱鬼はミハルの前へ出て小さく首を振った。


「こいつらは二角派だ」

「二角派? でも、二角が町に来たら町は壊されるんじゃ」

「人間同士の争いに上手く鬼を利用する連中だ。二角がこの町のトップを殺せばそのまま自分たちが権利を握り支配する。裏で焼き討ちはしないようにとかそんな感じの契約を結んで俺ら一角を捉えてようとしているんだ」

「町の一大事なのにそんな小さなことで裏切るなんて」


 小さなことというミハルの発言に侍たちは憤りを感じ勢いのままに切りかかってきた。乱鬼は爪を伸ばし戦おうとするが一瞬のうちに侍たちの動きは止まりその場に倒れた。鬼の乱鬼さえ驚きを隠せずミハルのほうを見るといつのまにか抜いた刀を鞘に納める最中だった。


「お前、強いな」

「抜刀術、得意なんです。それに相手の位置も後ろ側に偏っていたので」


 納刀状態から瞬時に刀を抜き目にもとまらぬ速さで切りつける抜刀術。ミハルは瞬時に後ろの三人へと切りかかりその後乱鬼の腕の下へと姿勢を低くしながら潜り刀を伸ばし一瞬にして五人の侍を倒した。

 これを見ていた両サイドのプレイヤーたちは第一戦や第二戦よりも格段に技術の上がったミハルを警戒し始める。


「このまま巡回していてもまた襲われそうですね」

「城へ行って状況を伝えた方が良いかもな」


  城の門はしっかり閉められており門番が二人槍を持って警備している。一瞬乱鬼を見て兵士たちは警戒するが城と一角は繋がっているため頭部の角の数を確認し事情を話すと、確認をとったのち城へと入ることができた。

 そのまま上の階へと上がると広い畳の部屋で豪勢な食事をとる一角の姫の姿が見えた。


「姫とは聞いていましたがまさかこんなに幼いとは……」


 たくさんのごちそうを食べているのは確かに一本の角を生やしており人間ではないことは明らかであったがその容姿は低学年の小学生のようで食べ方も姫というのには荒く、箸を食べ物に刺して雑に食べている。


「俺らは森で生きてきたからこういった道具を使い慣れてないんだ」


 察した乱鬼は弁明も込めて言うがミハルの耳には入っていない。

 着物を着ているがこれは城が姫に上げたもので本来は上半身は胸だけを隠し下半身はロングスカートのようなものだったと乱鬼はミハルへ伝えた。


「なんだ、帰ってきてのか乱鬼。お前も食べるか?」

「今は遠慮しておきますよ。一応警戒態勢中なんでね」

「そうか。で、そっちの女はなんだ? 見たところ侍のようだが」

「挨拶が遅れました。私はミハルと申します。共に町を守るために乱鬼さんと巡回をしていたのですが、先ほど二角派と思われる侍たちの襲撃を受けその報告もかねて今後の動きをどうするか尋ねにやってまいりました」

「ほぉ、二角派の動きが活発化しているか。ではあまりうかうかとしてられんな」


 状況はあまり芳しくなくほかにも二角派の侍が動き出しているという報告は上がっていた。現状、沈黙を保っている一角派であったが二角派が攻めの姿勢をとっていることからも、攻めに転じるか守りを固めるかの選択をする必要がある。


「ミハルといったか。お前はどうすればいいと思う?」

「相手との戦力差がどれほどかわかりませんが、侍に関しては私単独でもそれなりの数がいても対応できます。ですが、鬼が攻めてくるのならタイミングさえわかれば奇襲を仕掛けるというのも手かと」

「情報次第で動きを変えるか。戦いにおいてお前は頭が回るようだな。ならば周辺の巡回を命じる。それならばこちらが得た情報とお前が得た情報を素早く交換ができるだろう」

「では、私は近くへ。あっ、ヨハネさんって人はここに来ませんでした?」

「ヨハネなら山の様子を部下たちと共に見に行っているはずだ。何事もなければもうすぐ帰ってくる」


 話しているとメニュー画面が更新されており確認をしてみると護衛対象が優鬼と記載されていた。ヨハネの位置は現在ミハルのいる城からは離れている。持ち場を離れての合流は優鬼がやられてしまう危険があるためうかつに遠くへとはいけない状況。とりあえずはヨハネが戻ってくるまで城の近隣で待機することにした。

 

 

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