伝説の剣士 2

 周囲を巡回していると一人の侍がミハルの下へとやってきた。竹傘深く被っており先ほど見た侍たちと酷似していたため警戒し柄に手を置くが侍は両手を挙げて攻撃の意志がないことを伝える。


「おっとと、いきなり斬りかかるなよ。味方に殺されちゃあの世で悔いが残っちまう」


 それでも警戒を解かないミハルに対しさらに刀をその場に落として自分が何ももっていないことをアピールする。


「敵じゃないようですね。すみません、さっき同じような姿の方々に襲われたもので」

「それじゃあ無理もないさ。でも、巡回している兵士や侍が少なくなってるが何があったのか?」


 最初は警戒していたミハルだったが案外人当たりのいい雰囲気で隙だらけな立ち振る舞いから徐々に警戒心が解けていき事の経緯を話した。


「ということは俺も姫に伝えた方が良いかもな。一緒についてきてくれるか?」

「いいですよ。でも、案内したら私はすぐに戻らないといけないのでお部屋の前までで」


 再び門を開けてもらい優鬼のいる部屋まで案内してミハルが階段まで向かっていると優鬼のいる部屋から物音が聞こえた。何かを倒すような音に言い知れぬ不安を感じすぐに戻り部屋に入るとそこには優鬼に襲い掛かろうとする先ほどの侍の姿があった。

 ミハルはすぐに刀を抜いて斬りかかるがギリギリのところで避けられてしまい背後へを取られる。


「あともうちょっとで楽に終わらせられたのになぁ~」

「あなた、いったいなんなの!」

「お人よしもここまで来ると呆れるね」


 深くかぶった竹傘を取った侍の顔はピエロのようなメイクが施されていた。それはヴィランのメインプレイヤージョーカー。ミハルが倒した侍たちの服を奪い身に纏って近づいてきていたのだ。


「こんな簡単に騙せるなんてなぁ」

「やっぱり同じ服装だったんだ。なんで私はこんなやつを……」

「自分を戒めるのはあとにしてくれよ。せめてポイントくらいはもらっていかないとここまで来た意味がないんでね」


 ジョーカーが手を叩くと何人もの分身が現れミハルたちを取り囲んだ。全員が刀をもっておりその構えはそれなりに心得があるものがとる構えだ。


「あなたも剣術を?」

「剣術なんて興味ないね。俺はなんでも利用するだけだ」

 

 ジョーカーたちは一斉に襲い掛かる。一番近いジョーカーの攻撃を防ごうと構えるがその攻撃はミハルの刀をすり抜け優鬼へと襲い掛かる。咄嗟に優鬼を押し攻撃を回避させるとミハルの背中へと衝撃が走る。


「ッ……!」

「見えてるものがすべて現実とは限らないんだよなぁ~」


 優鬼に斬りかかったジョーカーは消えミハルの後ろには本物のジョーカーが斬りかかっていた。


「道化師……ね」

「さぁ、まだまだはじまったばかりだ」


 ジョーカーは分身たちの後ろへと隠れ姿を消した。どれが本物のジョーカーかわからずすべての攻撃を回避しようとするが分身に隠れながらも本物の攻撃が襲い掛かる。集中力を切らせば一気にやられてしまう状態でミハルのスタミナは徐々に削られていった。

 一対一ならば決して後れを取らない相手だが護衛対象がいるために動きは制限されその場から離れることはできない。優鬼は戦闘能力はなくただそれを見守るだけ。場を荒らしてでも守らなければいけない。


「これでっ。桜旋風!!」


 刀から桜の花びらを舞い散らせ放つ中距離の斬撃は一気にジョーカーの分身を切るが実態を持たないためフヨウの分身のように消えることはない。何度も技を発動し果敢に挑むが技ゆえに生じる隙を突かれミハルのダメージは蓄積していく。

 まだそれほど体力は削られてないがこのままでは埒があかないという焦りが冷静さを失わせていた。


「そろそろ飽きてきたな~。終わらせようかな~」


 その時、聞き覚えのある声と共に雷が天井をぶち破って落ちてきた。


「轟雷落とし!!!」

「ヨハネさん!?」

「遅れすみません。敵地の偵察に少々時間がかかってしまいました」


 雷と共に降り立ったのはヒーローサイドのメインプレイヤーであるヨハネだった。

 ヨハネとミハルが構えると状況を不利と判断しジョーカーは即座に撤退していく。自分が有利に立ち回れる戦い以外は絶対に行わない狡猾なプレイヤーである。


「姫、申し訳ございません。私の油断で怖い思いをさせてしまって……」

「ちょ、ちょっととちびったけど問題ない。あのような者相手では臆しても仕方ないがお前は命がけで守ってくれた。敬意を表するぞ」


 その後、優鬼をヨハネと共に偵察に行っていた一角たちが部屋の周りで護衛し室内にもミハルが最初に出会った一角が待機するという盤石な布陣で守りを固め一旦の脅威は去った。

 残り時間は15分を切りヴィランサイドも動きが活発になる可能性がある中、ヨハネはあまり芳しくない表情を浮かべつつ言った。


「姫にはまだ内緒にしていますがこちらの仲間の大半はやられていました」

「戦いをしているような音はなかったのにどうして?」

「偵察に行った際に数人の一角が犠牲に。町ではジョーカーとおそらくそのお助けプレイヤーが侍たちを倒したんだと思われます」

「今回のお助けプレイヤーはセガルです」

「黄金の左腕といわれるプレイヤーですね。強力なエースストライクだけでなく潜むこともできるとは……」


 まだ両サイドのポイントは大きく開いていないがヒーローサイドのNPCは残り城内の者だけ。先ほどのようなジョーカーの奇襲を考えればあまり動かすことはできない。状況はヒーローサイドにとって不利であった。


「でも、悪い情報だけではありません。あちらのお助けNPCが判明しました。向こうは二角のリーダー赤鬼がお助けとしてついているようです」


 赤鬼は二角リーダーで最強の鬼。NPCが束になったところで敵わずヨハネの連れていた一角たちが挑んだがほぼ瞬殺であったという。


「今までのお助けより強すぎませんか?」

「えぇ、ですがプレイヤーならばおそらく倒せるはずです。無傷とは言えなくても相手のお助けNPCが判明したならポイントを稼ぐ手段にはなる。最悪我々は姫を守りながら籠城戦で時間を稼げばいいのですから」


 ヒーローサイドの目的はジョーカーを倒すか姫を時間制限まで守り切ること。下手にせめてダメージをもらうよりも相手が攻める寸断を立てている間に防御を固め時間稼ぎをして勝利という策は現状正しい行為だ。

 しかし、ミハルは籠城戦にあまり良い表情をしなかった。それは自分の犯した行動が許せなかったからである。


「私はジョーカーに騙されてまんまと城内まで連れて行ってしまいました」

「ですが損害はありません。気にするようなことではないですよ」

「姫を危険な目に合わせてあとはのうのう護衛するだけなんて私にはできません。ジョーカーを倒してしっかりけじめをつけたいんです」


 ミハルのミスは下手をすればあの段階で勝負が決まってもおかしくなかった。結果的に損害はなかったものの自分の犯した行為の重大さを気づいているからこそ、せめて倒すことで清算したかった。しかし、攻めるということはそれだけ城を手薄にする行為にもつながる。勝利を確実なものにするならば守ることが先決なのだが、ミハルの純粋な気持ちを理解したヨハネは攻めに転じることに同意した。


「城は盤石です。戦闘が始まればすぐに知らせてもらいましょう。我々は赤鬼のほうへ向かいます」

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