混沌と開闢の剣 4

 クロノは正面からボスのいる場所へと向かった。

 残ったNPCたちを次々と倒していきながら進むと扉が見えたが同時にクリントも現れる。


「お前もミハルと戦いたいんだろう」

「それはお互い同じ気持ちのはずさ。確かにノアやサクラ、それに君のような強いプレイヤーもいるけどあの子は特別だ」

「どうやら同じようだな」

『あの子には無限の可能性を感じる!』

 

 二人が勝利したい思いは奇しくも同様の理由だった。

 お互いにお助けプレイヤーもNPCも倒され残すは二人の対決のみ。


「時間はまだ3分ある。正面からやりあって僕に勝てるかな」

「攻撃は正面からだけじゃないぜ」


 クロノが接近するとワイヤートラップが起動し左右から矢が放たれた。


「矢で僕の動きが止められたと思った?」


 二本の矢を簡単にはじくがクロノの左足に衝撃が走る。腿を見てみるとそこには三本目の矢が刺さっていた。二本の矢はほぼ同時に射出されたが三本目は相手の意表をつくためにワンテンポずらして射出されるよう仕込まれていた。


「それは毒矢だ。しかも、使おうと思っていた毒を全部調合して超猛毒に仕上げた。正面から放っても当たらないだろうから横からやらせてもらったぜ」


 超猛毒状態は凄まじい早さでクロノの体力を減らしていく。残り時間は三分を切ったがこのままでは二分立たずにクロノの体力はゼロになる。そのうえ毒は体に巡るたびダメージにより体はうまく動かせない。俊敏さを奪われしまった。


「このゲームで銃ってのはそれほど強くはない。大量の銃を使うウォーカーでさえもやられてしまうんだ。だがな、銃弾を避けて弾くほどのプレイヤーでも毒には敵わない。小癪だろうと勝つことに執着するのが正しい判断さ」


 クロノの油断は一対一の戦闘を得意とする者たち共通の弱点。サクラやミハル、ハルミやロイドも例外ではない。接近するタイプのプレイヤーは共通して俊敏な動きを得意とし相手を翻弄してリードする。逆に言えば動きさえ封じてしまえば防御力はさほど高くない。 


「最終局面で罠に引っかかるとはちょっと勝負を急ぎすぎたみたいだね……」


 ヒーローサイドの勝利条件はヴィランサイドのボスNPCを倒すか護衛対象を全員倒すこと。その中にはお助けNPCやお助けプレイヤー、それにクリントも含まれており、ポイントを稼ぐなら必然的に護衛を倒すほうを選択することになる。

 クリントはこの場面までほとんど姿を現さずヒーローサイドを倒していき、罠や策を利用し最後まで生き残ろうとしていた。例えクロノがまっすぐボスを狙っても大量の罠を用意し時間稼ぎで勝利を狙っていたのだ。しかし、罠を仕掛けるためには時間が必要となる。今回のタイムは15分であり今までの戦いに比べれば多い方であったが ボスの完璧な護衛をするにはあまりにも短い。次々と倒されていくヴィランNPCの報告を聞きながらも冷静にボスだけを守るために罠の設置を急ぎその完成ともにクロノは現れた。

 三分という時間はむしろクロノにとって分がありエースストライクを発動すれば秒単位でクリントを倒すことだって可能なポテンシャルを持っている。発動条件もほかの強化型に比べ任意のタイミングで発動することができる。その代わり発動後アイテムを使用しても二度目の発動ができない。


(さぁ、エースストライクを使ってこい……。それさえ突破できればあとは罠の海に沈めるだけだ)


 クロノが勝つ方法はエースストライクを使用することだがそれはクリントの望んでいることでもある。すぐ近くにはヴィランのボスがいる。ということは設置した数多の罠があるということ。エースストライクを凌いだ後は罠がある場所へと移動し持久戦も倒すこともできてしまう。


「君、何かを待っている顔だね。僕に残されたのはエースストライク、それを狙ってるのかな?」

「別に発動しなくてもいいさ。そんときは撃って倒すだけ」

「無慈悲だねぇ。でも、負けてあげられない。ここで負けてしまったら僕は僕自身を認められなくなるから」


 ゲームの世界は自由だった。

 夢や妄想の中でしか叶えられなかったファンタジーがすべて現実のように再現することができる。小さいころ夢見たヒーローにもヴィランにもなれる。人々を守ることも街を破壊することもすべてはプレイヤーの判断に任された世界で現実とは違う望む姿を手に入れ活躍することができる。

 そんなゲームの世界はクロノにとって数少ない本当の自分を表現できる場所だった。


「エースストライク発動。僕のはバーストモード。一定時間すべてのステータスが強化され一度だけ強力な技が打てるのが特徴だよ」

「そんなべらべら喋っていいのかい?」

「どうせ知っているんだろう。それにここからは、僕の時間だ」

 

 バーストモードはミハルなどと違い任意のタイミングで発動できる。そして、その真骨頂は自身の体力の減少に応じて強化時間が長くなることだ。毒ダメージの進行を止め衝撃を受けないスーパーアーマーが付与される。

 クロノは強烈な斬撃によりクリントを突き飛ばし一気にボスのほうへと向かった。


「体力をごっそりもってかれた……。だが、あいつ何をする気だ? 罠が仕掛けてあることは知ってるはず。それに無敵じゃないんだぞ」


 数多の罠を設置した場所へ向かうクロノを妨害する理由がなかった。しかし、スーパーアーマーがついてるとは言えノーダメージではない。クロノにすべての罠を受けられるほどの体力は残っていない。有利な状態なはずなのになぜか疑念ばかりが頭を渦巻くクリントであったが、銃で仕留めることもできずその様子を眺めているほかなかった。


 次々と起動する罠を回避し、壊し、避けきれないものは体で受けて進んでいった。狂気じみた姿はクロノがこれまでの戦いで見せていた余裕なものとは真逆で必死に抵抗しているようにも見える。

 クリントは罠に抵抗するクロノが自身へ意識が向いていないことを確認すると、ボスのほうまで直通でいける地下通路へ入っていった。これは本来ボスを逃がすための通路として使用する予定だったがこのままでは体力が尽きる前にクロノがボスを討伐しかねないと判断した結果の行動である。ヴィランサイドはボスを倒されても敗北してしまうため苦肉の策だったが負けてしまう危険を少しでも回避するためだ。

 無事にボスの下へとたどり着いたクリントは正面から来るであろうクロノを軽快する。


「ボス、下がってろ。もうすぐやつがくる」


 ボスを後方へと下がらせると門をぶち破りクロノがやってきた。


「ここまでご苦労だったな。だが、もう時間切れだ」


 バーストモードは残り2秒。万全な状態ならクロノにも十分勝機はあるがバーストモードが切れた瞬間、超猛毒が再び猛威を振るう。それでなくても罠のダメージが入っているクロノでは純粋な戦いでもクリントかボスを倒しきるのは難しい状態である。


「言っただろう! 僕のエースストライクは身体強化と一度だけ強力な技が打てるって!」

「直撃でもしない限り俺の体力は削り切れないぞ!」

「守るものがあるってのは足枷なんだよ!」


 混沌の剣は怪しげな紫色の光を放ち、開闢の剣は黒と白の交わった異様な光を放つ。


「0.1秒でも時間が残ってれば技を打てる!」


 残された2秒のうち1.5秒でクリントとボスの真横へと移動し残りの0.5秒で技を発動した。


「お前、俺がボスの下へと行くのを読んでいたな!!」

「始まりとカオスが混じる時、永遠の終わりが開始される! 解き放てっ! ラストオーダーピリオド!!!」


 二つの剣の光が重なり一つの剣を作り出し切りかかる。

 一閃。

 フィールドに静寂が戻り、最後に立っていたのはクロノだった。


「その通りさ。君がボスの元へと向かうのはわかっていた。賢い君ならボスを守るための完璧な要塞を作るだけでなく、さらなる策を講じるだろうって。僕の勝因は君の強さを信頼したことだ」


 ボスの元への隠し通路があることをクロノは知らなかった。しかし、ここまで罠と策と実力でNPCやお助けプレイヤーを倒してきたクリントがボスの時だけ単純な罠で守り切れると容易に考えないと踏んだのだ。実力者だからこその二の策。クリントの戦い方は窮地にならないための戦い方ではなく、窮地に陥っても回避する戦い方だと理解していたのだ。


「ヒーローサイド、クロノの勝利」


 この戦いによりヒーローサイドは2800ポイント獲得した。しかし、ヴィランサイドも同時に1500ポイントを獲得している。差は1300ポイント。現在、ヒーローサイドのトータルポイントは12840。対して、ヴィランサイドは17130。

 その差は4290ポイント。12組の戦いが終わりノアのお助け残した状態で後半戦が近づいてきた。

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