止めどない成長 2

 守りながらの戦いは熟練の戦士でさえも難しいもの。相手が自分より上の剣士とトリッキーな技を使う相手ならなおのこと。レナはレベッカの遠距離攻撃を刀でいなしつつも後ろで戦っている土方と河上を意識しつつ庭の方へと飛び出た。佐久間象山を木の近くで待機させ視界にレベッカとサクラを入れた状態で活路を考えた。


「二人を倒して守り切るか、それともさっきの橋まで逃げ切るか……。いや、逃げるのはだめだ。土方さんと言えど三対一ではむずかしい。それにレベッカなら炎で屋敷を燃やして二人を同時に始末してしまいかねない。――ここは攻めるが勝ち!」


 レベッカが放つ攻撃を刀でいなし瞬時に二人へと走りまずはレベッカへ仕掛ける。


「……」


 サクラは刀を抜いていたが切りかからなかった。


(釣れると思ったけどだめか)


 この時、サクラとレベッカの間には距離が開いていた。庭へ出たレベッカが前進したことで瞬時にカウンターを当てられる距離ではなかった。それに加えレナはレベッカを盾にするようにしサクラとの位置関係を一直線にして攻撃。加勢もしづらい状況を作り出しサクラが前に出たところを逆にカウンターで攻撃しようと考えていたが、直観か偶然か、それとも読まれていたのか、サクラは一気に攻めることはなくじわじわと近くへとやってくる。


「目を反らしてる場合かよ!」


 攻撃に対し腕を硬質化させることで防御したレベッカは手に溜めた電撃を放出。器用に避け縁側の端に足が到達するよりも先に宙に浮いている状態をサクラが襲う。

 想像していたよりもすばやくアグレッシブに攻めてきたサクラの突きをなんとか受け止め庭に着地。刀越しに伝わるプレッシャーに心が揺らぐが軽く頭を振って再び二人を視界に収める。


「サクラさんってミハルさんとつながりがあるんですよね。どうして二人は一緒に戦ってないんですか」

「ゲームには関係ない」

「それが大ありですよ。二人とも常人離れした剣術と戦いなれした思考。部活で共にしたとかそんなレベルじゃないです。――もしかしてミハルさんのことが怖いんですか?」


 その言葉に反応しレベッカも驚く速さで縁側から一気に距離を詰めレナへと刀を振るう。


「なんだか冷酷な侍に見えてましたがようやく人間らしい表情しましたね」

「……怖いんじゃない。申し訳ないから。でも、どうすればいいかわからないからこうしてるの」

「剣術が二人の共通点。だったら、剣術が二人を引き合わせるのは必然ってことでしょう。何があったかも知りませんし詮索するつもりもありません。でも、ここはゲームの世界。二人は主役じゃない。現実では憧れるだけの木刀も握ったことのないこんなひよっこ侍にやられたらミハルさんはどう思います?」


 意外にもレナがとった行動は精神攻撃。サクラの戦いは閲覧していたが全力を出すことなく戦っていたために能力を把握するまでに至らなかった。どこかに勝てるかもしれないという期待もあった。だが、先までの二回の攻撃で現状の実力差を把握したレナは自らの剣術が相手より劣ることをしっかりと理解したうえで戦法をがらりと変えたのだ。

 小声で語り掛けじわじわと攻め続ける最中も周囲の索敵はしっかり続けている。その証拠にさっきとは逆の位置に相手を配置した。レベッカを盾にサクラを動かそうとし直前とは違い、サクラを盾にすることでレベッカの援護を遅らせていた。


「ミハルは私にとって大事な人。あなたに介入する余地はない」

「だったら私を倒してくださいよ。じゃないと第四戦には行けません」

「――あーもうめんどくさい! 侍なら背中にも目がついてるでしょ!」


 予想に反しレベッカは人一人包み込めるほどの火球をサクラと対峙しているレナへ放った。すぐにでも避けたいがサクラは押し込む力を緩めない。


「このままだとサクラさんがダメージ食らいますよ」

「それはどうかしら?」


 真後ろに火球が迫ったところで跳躍した。サクラの押し込める力に対しレナは押し上げる力。その力を利用し最初からギリギリで避ける手はずだった。サクラが視界から消えると火球は目の前。押し上げた反動がまだ手に残りすぐに振り下ろせない。ダメージ覚悟で後方へ移動しつつ何とか切り伏せようとしたとき、目の前に何かが降り立ち火球を切断した。


「あっちぃ!!! あんたは妖怪か天狗か?! かっこよく駆け付けようとしたのにこのザマかよ」


 新選組の羽織を着ていたことで仲間だと理解はしたがなぜ橋から離れてここまで来たのかレナには疑問だった。


「あなたは?」

「おいおい忘れるなよな俺は――」


 と、言いかけたところで佐久間象山が名を呼んだ。


「恪二郎!」

「よう父さん。木陰で隠れてるのも案外似合うじゃないの」

「恪二郎ってまさか佐久間象山の息子さん……」

「ったく忘れんなよな。七光りだからって剣術が弱いわけじゃないわけよ」


 佐久間恪二郎。またの名を三浦啓之助。史実においては佐久間象山が河上彦斎に暗殺されたあとに新選組に入隊したがこのストーリーバトルではすでに入隊しており佐久間の名で戦っていた。


「つってもあっちの侍女は俺に手に余る。河上と同等がそれ以上。だから、あっちの妖怪女の足止めをさせてもらうよ。ああ、礼はいらんさ。酒代でももらえれば満足だからな」

「お礼いるんじゃん……」

「はっはっは! まぁ、今は生き延びましょうや」


 

 お助けNPCよりもゲーム上のステータスは劣る恪二郎であったが、意外にも器用に攻撃を避けながらレベッカの足止めに成功していた。

 戦闘NPCにはそれぞれに固有のスキルが設定されている場合があり、恪二郎にはごまかしと狡猾というスキルが設定されている。


「くそっ! NPCなのにちょこまかと!」

「やられるために存在してるわけじゃないってわけよ」


 その間にレナとサクラは戦闘を続けていた。

 純粋な剣術では現実で鍛錬を積んでいがサクラに軍配が上がる。それでも果敢に挑むレナの姿勢にサクラはどこか懐かしさを感じしまい攻めきれずにいた。


(似ている……)


 戦いの最中に脳裏を過る記憶。

 余計な思考だと思っているのにもかかわらずかき消すことができない。

 その隙を突いてレナは一気に畳みかける。格上だと理解しているからこそ倒すことに対してより情熱的に立ち向かうことができていた。確実に戦いの中で動きを理解し立ち回りが上手くなりつつある。時代が違えば剣術家として化けていたかもしれない吸収力はサクラとの差をわずかではあるが確かに縮めている。

 

「さらに一歩!!」


 カウンターを当てられないように超接近戦に持ち込む。これは同時にレナの攻撃もやりづらくなる状態でもあるがそんなことよりもサクラの圧倒的な反射神経を封じることで有利を取られないことが活路だと直感したのだ。


(確か以前ミハルが言っていたかな)


 思い出すミハルの言葉。


「私は私を信じることにした。相手のペースに乗せられるのはこりごりだからね」


 この時の相手とは桜と師範代のこと。

 スランプ気味だった美春が桜と師範代に対して再び立ち向かうようになってから言った言葉。


「もしかして戦うまえにミハルと話した?」

「そうですけどそれが何か」

「だからか。あなたの動きがどうも苦手な理由がわかった。でも、わかればどういうということはない」


 レナの攻撃に対し先ほどまでは耐えて反撃に出ていたサクラであったが、今回の攻撃に対しては耐えるふりをして相手の攻撃の軌道に合わせ攻撃を外すよう動かした。また反撃に移るとばかり考えていたレナは呆気にとられほんのわずかに隙を見せる。


「一秒もいらないから」


 その言葉と共に一気に切り上げる。

 攻撃を食らい宙に浮いたレナは何が起きたかいまだ状況がつかめていなかった。順調に進んでいた戦いだったはずなのに突如として形勢が逆転。

 

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