光と影

 オータムとサウスは早い段階で会敵し戦闘へと突入した。ホノルルの町で行われる二人の戦いは凄まじく、他をを寄せ付けない死闘へ。それもそのはず。二人は友人でありライバル、そんな二人の直接対決となれば介入の余地はそうそうない。


「敵になってはじめてわかるお前の不屈の精神。異常だと気づかされる」


 戦いはわずかにオータムが有利だった。銀髪の髪に緑色の瞳、パワードスーツにも似た銀色の装甲は神聖なもののようだ。その手に持つのは淀んだ紫の刃が光る剣。一方サウスは黒い装甲に真っ赤な目。手には神々しく光り輝く剣を握る。


「オータム、この場で戦うことになったのもまた運命。どちらしか上に上がれないというのなら、君を倒してでも上へとのし上がってやる!」

「いつも俺の背中ばかりみていたお前がそこまでいうとはな。ゲームでありながら人の心を成長させる世界。ここでなら本気で戦える!」


 その二人の姿を見ていたミハルは二人の関係を一切知らない中でも自身との共通点を感じ取っていた。切磋琢磨し超えたい相手がいる。そんな二人を自身とサクラを重ね熱心に見ていた。


 すでにお互いお助けNPCを倒ししているため点数差はそこまで広がってはいない。お助けプレイヤー撃破と勝利ボーナスで簡単に覆せるこの状況は両サイドともに目の離せない展開となっている。現在ヒーローサイドがポイントの上で有利だが、もしこの戦いでヴィラン側が多くのポイントを稼ぐことができたならひとつ前の戦いでの点差はほぼなかったことになる。

 

「あんなのにどうやって加勢すればいいんだろう……」


 高速移動のできる少女ウィークはヴィランサイドのお助けプレイヤークリントを足止めしつつも状況の把握を怠ってはいない。だが、二人の激突は援護するにはあまりにも激しすぎた。

 わずか数秒、二人の戦いに目を奪われていたところに背後から三発の銃弾が直撃する。


「よそ見してる余裕はないだろう」

「足を止めてあげないと当たらないでしょ」


 余裕をもって答えるウィークであったがクリントが撃ちこんだ箇所は腿と腰。痛みはなくともダメージにより速度は低下する。


「こうなったならめちゃくちゃにするほうがいいかもね!」


 スピードアップのアイテムを使用し激しく戦う二人の下へと走る。ウィークが走れば風が吹き荒れる。二人の周りを縦横無尽に走りクリントがそれ狙い射撃。二つの戦いが合流したことにより戦いは一歩先さえ何が起こるかわからない混沌へ。


「こうなれば長期戦での決着は不本意だ。終わらせるぞサウス」


 左手を怪しげに発光させ電撃のようなエネルギーを放出。サウスにダメージを与えながらも動きを拘束する。スピードアップアイテムの効果を維持したウィークの高速移動の影響で発生した風でクリントはオータムに狙いが定まらずヴィランサイドは劣勢。しかし、雲の切れ間から太陽の光が降りそそぎサウスへと照射される。


「この程度で負けてたまるか。同じ舞台でこうやって戦っているんだ。最後まであきらめないぞ」


 その時、体力を削られ拘束されていたサウスに不思議なことが起こった。

 太陽の光を吸収しパワーアップしたサウスはいとも簡単に拘束を破る。剣を地面に勢いよく跳躍し太陽のごとく光を放つ蹴りでオータムを狙った。

 オータムは力を高め受け止める体制を取るがその後ろではクリントが狙っている。三人の動きが見えていたウィークは何かをしなければ負けてしまうと察したが、戦略を立てて戦うタイプではないために一番最初に思いついたもっとも単純な方法を選択した。


「この距離なら寄り道もできる!」


 ウィークの能力である一度の戦闘で一回のみ使える超高速移動を発動。10秒間だけ目にもとまらぬ速さでフィールドを移動できる。この際アイテムによる効果はすべて打ち消される。

 超高速移動状態でサウスの妨害をしようとするが体中を光が覆い近づくことができない。即座に標的をクリントへと変更し連続攻撃。オータムの方向へと蹴り残り2秒。オータムを後方へと飛ばすがまだ蹴りが当たる危険性は高い。残り1秒。


「やっぱこれしかないか」


 0秒。超高速移動が解除された瞬間、オータムの視界には直撃を受けるウィークの姿があった。


「ここまでしたんだから勝ってくださいね」


 ウィークはリタイア。ヴィランサイドへポイントが加算された。クリントは起き上がり体制を整えようとするが怪しく発光する強烈な斬撃を受けリタイア。


「距離が近すぎたか」

 

 ついに両サイドともにメインプレイヤーのみとなった。

 サウスには太陽の光が、オータムには影。二人の姿を象徴してるようだった。


「これで決着をつける! 行くぞオータム!」

「終わらせる!」


 光と影を纏う蹴りが衝突。

 衝撃波がフィールドを駆け巡りガラスが割れ車は横転。NPCたちが逃げ纏う中、最後に立っていたのはサウスだった。


 オータム ヴィランNPC30人撃破 300ポイント

      お助けプレイヤー撃破 800ポイント

      お助けNPC撃破 500ポイント


 サウス  ヒーローNPC20人撃破 200ポイント

      お助けプレイヤー撃破 800ポイント

      お助けNPC撃破 500ポイント

      勝利ボーナス 1000ポイント



 ヴィランサイドが初めての勝利。

 残り22試合。まだ強豪プレイヤーの戦いが控えている状態でありリードはわずか。

 そして、次のプレイヤーが選ばれる。


「第四試合、レナVSサクラ。それぞれポータルへ向かってください。メインプレイヤーの配置完了後、呼ばれたお助けプレイヤーの方もポータルへお願いします」

      

 次の戦いは敗者復活で偶然レイランの危機を救いロイド互角に戦っていた侍少女レナ。そして、ミハルと同等以上の剣術を扱うサクラ。ミハルからすればこの戦いはヴィランに見えた。


「ミハルさん」


 声をかけたのはレナだった。


「ミハルさんやサクラさんの剣術がすごいことは私でもわかります。私は憧れているだけの素人ですから勝ち目は薄いです。でも、ここで私が勝ったら面白いと思いません?」

「戦う前にこういうのも悪いけど、並大抵じゃサクラには勝てない。私が一番よく知ってる」

「やっぱり二人はつながりがあるんですね。何度もサクラさんへ目線がいくのを見ていました」

「私を見てたの?」

「はい。憧れのまま終わらせないためにまずは観察です。ミハルさんとは対照的にサクラさんはあえて目をそらしている。そんな気がしました」


 純粋な向上心ゆえの鋭い観察眼。その向上心は中学時代の稽古を思い出させる。

 

「一つだけアドバイスしてあげる」

「ぜひ」

「サクラのペースに飲み込まれないで。静かでどんなことでも対応してくるけど、そう感じた時にはすでにサクラの手中だから」

「肝に銘じておきます」


 アドバイスをしたミハルだったが、実のところはレナがサクラに勝てるヴィジョンが浮かばなかった。だが、期待をしていないわけではない。サクラの実力がどれほどのものか確かめるため、レナに実力以上を出してほしかったからこそのアドバイス。

 

「見せてもらうよ、サクラ」

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