忍びのタイマン 2

 忍びとして狡猾でトリッキーに戦うフヨウとヒーローに憧れる二人の戦いはこれを見てるプレイヤーたちが想像をしていない最後を迎える。

 

「ここまでくれば大丈夫かな」


 正面切って戦ってはパワーで押し切られると考えたフヨウは、校舎二階の廊下を走っていた。狭い場所ならば自身のほうが有利に動けると判断したからだ。それに加えアクアの単純な性格は、特別策を弄しなくてもついてきてくれるとわかっていた。その判断はおおむね当たっていたがアクアのとる行動までは予測することができなかった。

 走っていると目の前にはゴールポストが投げ込まれた。通路をふさがれ教室は悲惨な状態。生徒はいないが到底ヒーローの行いだと思えない被害。

 驚いていると後ろの窓ガラスが割れアクアがやってきた。


「ちょっとここ三階なんだけど」

「これぐらい跳躍して一発よ」

「じゃあ、このゴールポストは?」

「投げ飛ばした!」

「平然と言わないでよ。このゲームパワーバランスめちゃくちゃじゃん」


 想像していたよりもパワーの差があることに気づき、小手先では意味がないと状況から簡単に理解ができる。フヨウは今までフィールドやほかプレイヤーを利用し戦っていたことから一対一での戦闘はこれが初。反してアクアは単純な性格ゆえ第二戦、第三戦ともに単独で戦い勝利を納めてきた。


「あんまり柄じゃないけどちょっとやる気出さないとだめだね。――忍び術、風壁!」


 割れた窓ガラスから大量の風が吹き込み目には見えない風となりアクアの前に立ちはだかる。何層にも重なっている。


「切れることはないけど触れたら無事じゃすまないよ」

「風程度で臆してたまるか!」


 アクアはフヨウの忠告を一切気にせず突き進む。風の層の中間まで来るとフヨウが再び技を放つ。


「風縛り!」


 何層にもなっていた風の壁はアクアに絡みつくように周りはじめ何方向にも軌道を変える。前に進むことも後ろに戻ることさえも困難状況を作り出す。


「くっ……。確かにこれはやりづらい」

「私としてはこのまま時間を稼いでもいいし倒してもいい。でも、ヴィランのお助けが先に来られるとこっちとしては勝ち目ないからここで倒すのが一番てっとり早い。悪いけど終わらせるよ。忍び術、雷線!」


 弾丸のように直線に進む雷の攻撃がアクアを襲う。腕で防御するがダメージはしっかり入っていた。


「何かしてくるのを待ってたよ!」


 アクアは好機とばかりに床を蹴り後方へと飛んだ。


「私だけだと力がちょっと足りなかった。でも、攻撃の勢いを使えばここから抜け出せる!」


 風縛りから抜け出したアクアはクラウチングスタートの構えを取り、床にヒビを入れるほどのパワーで踏み込んだ。再び風縛りの中へと突入するが勢いを抑えきれず突破される。もう一度床を蹴り勢いをつけなおし青く光る拳をフヨウへと放った。


「ブルーストリーム!!!」


 渦巻き状の攻撃となり周りのものを巻き込みながら一直線に放たれる。窓側の壁は粉々となり天井を破壊し上の階が見え教室と廊下の境界線がわからなくなるほど破壊は大きいものだった。

 しかし、フヨウの姿は一切ない。外へ落ちた形跡もなく隠れる場所もない。


「いやはや、こんな攻撃まともに食らったら死んじゃいますよ」


 背後から声が聞こえる。振り向こうとした瞬間、口に布を当てられ視界がぼんやりとし立っていられずペタリと床へと座った。


「なんで……後ろに……」

「分身というやつですよ」

「だって……一対一って」

「私はな忍びだからね。できることなら楽にしたいのですよ」


 柔道場を出て空手道場を確認する際、すでに分身を作っており今までの戦いは分身によるものだった。


「忍びの言葉を信用しちゃいかんですよ。とくに敵の忍びはね」


 黒い煙玉を地面にたたきつけ視界を隠すとエースストライクを発動し決着。

 フヨウがどんなエースストライクを発動したかは煙玉の影響で誰も確認することができなかった。

 

 二試合目

 フヨウ 勝利ボーナス 1000ポイント

 

 アクア ヒーローNPC撃破 100ポイント


 戦いはヒーローサイドの勝利。しかし、早期決着の影響もありお助けNPCやプレイヤーのポイントを稼ぐことなく終わる結果となってしまった。

 ちなみに今回のお助けプレイヤーはヒーローサイドからゼンガ―、ヴィランサイドからはウォーカーである。


 戻ってきたフヨウは気づかれずにミハルの後ろへと回り声をかけた。


「勝ってきましたよ」

「おつかれ」

「いやいや、そこは驚いてかわいい声でも出すところでしょう。まったくミハルちゃんは掴めませんよ」

「フヨウも同じでしょ。やる気を見せたかと思ったら分身だし、エースストライクは誰にも見せない。それに口調だっていつも変えてる」

「忍びは真実の姿を見せないものだよ。ま、さすがに疲れたんでハルミちゃんと休んできますよ」


 神出鬼没の忍びフヨウ。改めてその姿をじっくりと観察したミハルは忍びの里の少女と姿を重ねていた。


「いや……まさかね」


 そうこうしているうちに第三試合が始まろうとしていた。


「第三試合、オータムVSサウス。それぞれポータルへ向かってください。メインプレイヤーの配置完了後、呼ばれたお助けプレイヤーの方もポータルへお願いします」


 黒に近い紫色の剣をもち数多の相手を沈めてきたオータム。ハルミやショーン同様の体を武器として戦う不屈の心を持つサウス。

 そして、お助けプレイヤーに選ばれたのはヒーローサイドからは敗者復活戦を勝ち抜いた高速移動のウィーク。ヴィランサイドからはクリントだった。闇に潜み対象を確実に仕留めるリッパ―。

 ハワイホノルルフィールドで激しい戦いが繰り広げられる。

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