忍びのタイマン

 ポータルの先は見たことない高校の校舎。四階の教室にフヨウは立っていた。部活生徒の声が響き季節は冬直前。ほとんどの生徒はすでに帰っている状態。そんな中ヒーローサイドの目的はヴィランサイドのプレイヤーを倒すこと。逆にヴィランサイドは制限時間10分間自由にNPCを倒し時間切れが達成目的。この場合ヴィランサイドが有利な立ち位置となる。


「はずれくじかも。早いとこ探さないとポイント稼がれちゃうし急ぎますかな」


 そのころ、アクアは学校裏の森からスタートしていた。


「うわぁ、学校敷地内のNPCの撃破か。抵抗できない相手ってのは気が引けるな……」


 アクアにとって今回の条件は気乗りするものではなくなるべくならお助けNPCとお助けプレイヤーの撃破で済ませたいと考えていたところに髪を染めた3人の生徒を発見。気乗りしなかったアクアであったが何かを思いつき生徒たちについてき学校へと移動を開始した。


 フヨウは廊下を歩きながらグラウンドの様子を眺めていた。夏の大会が終わった野球部の練習にはどこかゆったりとした雰囲気が漂う中、冬の大会に向けた演劇部の声は力強く響く。大会が近い部活とそうではない部活で雰囲気はまるで違う。

 一般生徒が少ないおかげで部活生徒を重点的に監視しておけばヴィランサイドの動きを感知することはできる。だが、部活棟にいたり音楽室や美術室、グラウンドや近隣を走っている生徒もいるため、どっちつかずの位置で待機する以外に全方位をカバーするのは難しい。目星をつけて移動すると逆側を襲われた際に対処が遅れる。ポイントを稼げる範囲はそこまで広くはないが、対象がばらついていることが今回どちらのサイドにおいても鍵となる。

 

 屋上で周囲を確認するが目立った動きはない。そんな時、少しだけ何かを殴ったような物音が聞こえた。学校の裏側だ。


「ちょいと確認しますかな」


 裏側へと向かい確認してみるとそこにはいかにもな不良生徒が三人倒れていた。目に見えるケガはなく近くには真面目そうなメガネの生徒が驚きの表情で立っていた。


「何かあったの?」

「え、あ。あの、見たことのない青い髪の人が助けてくれて」

「青い髪? マフラーした人かな」

「そうです! あれも演劇部の人ですか?」

「どうだろうなぁ~。確かにいてもおかしくないよね」

「あれ、フヨウ先輩も演劇部ですよね」

「……えっ?」


 デジタルグラスで自身の立場を確認してみるとフヨウは演劇部を隠れ蓑にする女子高生ヒーローであり忍びの振りをした忍びであることがいまさらわかった。


「あ~、そういうことね。詮索しないのが身のためだよ。暗くなる前に家に帰りなよ」


 ヴィランサイドは生徒全員が撃破対象でありながらメガネの生徒を残したことでフヨウにはある考えが思いついた。それを確認するために次は柔道場へと向かった。


「たのも~。って一足遅かったか」


 柔道場では赤白帯の生徒5人と黒帯の男性が倒れていた。


「いまの時代に道場破りね。やっぱりあの子は戦う力をもった相手としか戦わないタイプ。ここから一番近い格闘技系の部活は隣の空手部――」


 隣の建物である空手部を見た瞬間、茶帯と黒帯の男性が扉を破って外へと吹き飛ばされていた。すぐあとにアクアは現れデジタルグラスでポイントを確認しているとフヨウに気づいた。


「あっ」

「あっ。じゃないよ。どうせならもっと隠れて動いてくれないと張り合いないでしょ」

「だって私ヒーローがよかったんだもん。逃げ回るヴィランを追いかけて圧倒する。それが私の望んでたことなのにさ。こんなこそこそと動き回るのは性に合わなくて」

「そんならここで決着付けちゃおうか。お助けNPCもお助けプレイヤーもまだ来てないうちにさ」

「いいね。一対一は一番燃える展開。お互いダメージ受けてないんだからいいわけなしだよ」


 二試合目が始まって3分。メインプレイヤー同士が出会ったことにより早々とどちらのサイドが勝利を掴むかを決定づける戦いが始まる。

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