拳の先にある勝利を目指して

 現在のハルミの状況は宮殿での不審者の捜索。王女から一時的ではあるが離れなければいけない。相手がどこに移動したかわからない中不用意に行動するのは得策ではないと判断し、侍女などから王女の位置を聞いてその近辺を捜索しつついつでも動ける状態にした。


「せいがでますね」


 やってきたのはお助けNPCのミオン。お団子姿はどことなくレイランに似ているが侍女としての凛とした所作が侍女としての風格を物語っている。


「こちらには不審な人物はいませんでした。予告状通りならそろそろ侵入していてもおかしくないころですが」


 デジタルグラスでストーリーバトルのシナリオを確認。予告状を送ったきてのは裏社会で有名な闇組織ヘイシン。殺し、密輸、窃盗、といった裏家業をやっておりことを行動を移す前にこのように予告状を送り付けるのがお決まりである。

 その場を後にしようとしたとき、別の侍女が慌てて走ってきた。


「何事だ」

「巡回中のチェーシンが通路で倒れていました!」

「なに!? 直ちに王女の護衛を固めろ!――ハルミさんはすぐに王女の近くで警戒にあたってください」


 緊急事態に宮殿内の人々は慌ただしく動き始める。戦闘ができないものは安全な場所に移しつつ兵の召集と配置が開始された。ハルミはミオンに王女の場所を聞き向かっていると通路に兵士が3人倒れているところに遭遇してしまう。兵士たちは息をしておらず全員が胸を突かれ争った跡もないことから一撃で倒されていることがわかる。


「背中を刺されてる。奇襲を受けたってわけね」


 その直後、背後に黒い影が現れる。人並み外れた警戒心はわずかな空気の揺らぎと地面に触れる音を逃さなかった。感知した瞬間すかさず後方へ蹴りを放つが手ごたえは一切ない。黒い影はふわりと後方へ飛びハルミの攻撃を回避していた。


「難攻不落の宮殿とはよく言ったものだ。達人の領域に達するほどの護衛がいるならばそれもうなづける」


 黒いローブを羽織った男は余裕のある声で言った、袖からは血の滴るナイフがわずかに見えている。靴は足袋のような身軽なもので音もなく忍び寄る姿はまさしく暗殺者。並大抵の兵士が一瞬でやられるのも仕方がない。


「当てるつもりだったのに避けるなんてね」

「一撃もらうだけで宮殿の外まで飛ばされそうなを蹴りをそうそう受けるわけにもいかんさ。と言っても負けるつもりはないがな」


 男はローブをハルミのほうへ投げ捨て視界をふさぐ。それと同時にハルミの背後から増援が一人現れ奇襲を仕掛けた。広くはない通路での挟み撃ち。不利な状況下の中の戦闘を強いられる。

 足音は聞こえないがローブ越しに迫る確かな気配。さらに後ろからも同様にナイフをもった男。タイミングが計れない正面と対処だけなら容易な背後。どちらかを阻止すればもう片方の攻撃を食らうことになってしまう。

 ハルミは先の倒れている兵士の状況から行動を考え受けの姿勢を取る。ローブを突き破るナイフ、同時に迫る背後の奇襲。ハルミはわずかな動きでその二つ同時に回避し二人の手首をつかんだ。


「これを止めるとは予定が狂うな」

「この程度の子どもだましにやられるほどやわじゃないわ。あんたらはすぐに戦いを終わらせようとしていた。だったら急所か攻撃を無力化できる場所にナイフをが来るのは必然。あんたらにやられた兵士たちがそれを教えてくれた」


 兵士たちの死は無駄ではなかった。むしろ、兵士たちがやられていたおかげで相手の戦法を導き出すことができたのだ。

 つかんだ手首を強引に振り回し二人一方へと投げ挟み撃ちの状況を打破。本来なら腕を折ったり蹴りを当てられる場面であるが、ハルミはあえて投げることにした。


「仕込みナイフとかあるんでしょ」


 男たちの靴は身軽でありながらも小さな針が二つ飛び出していた。


「こうも看破されると自信がなくなる」

「そんなこと思ってもないくせに」

「まぁ、ほかには手はいくらでもある!」


 ついに会敵したハルミ。別の場所でも戦闘は起こり第三戦ストーリーバトルは本格的に始まった。 

 

 


 

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