烈火の拳
ヴィランサイドのショーンはハルミが暗殺者と戦っている間に正面から王女の下へと進行していた。何人もの兵士と戦ったのにもかかわらず黄色い胴着には一切の汚れがついていない。それほどに兵士との実力差があった。
「貴様が侵入者か!」
いち早く駆け付けたヒーローサイドのお助けNPCミオン。1.5メートルほどの槍をもっていた。
「お互いにお助けNPCをぶつけていたわけか。ちょうどいい、ここで一気に稼がせてもらおう」
「何わけのわからないことを」
ショーンはハルミと同じファイタータイプ。体を武器として近接戦闘を制することに長けている。だが、槍をもったミオンの内側へと入らなければ拳も蹴りも当たることはない。そんな不利な状況下であるはずなのにショーンの表情はまったくもって動揺していない。むしろすでに勝利の笑みさえも浮かべている。あまりにも余裕そうにするショーンの表情に耐えかねたミオンは勢いで走り出し先に仕掛けた。
「悪くないけどお助けといっても所詮はNPC。プレイヤーには敵わないさ!」
攻撃圏内に入っていないというのにショーンは拳を突き出した。すると、拳から火球が放たれミオンに迫る。槍でいなしさらに前進するがすでにショーンの姿は消えていた。
「あんま時間かけてっとこっちのお助けがやられるかもしれないからな。一気に終わらせるぞ」
一発目を目くらましにした隙にミオンの背後へ回っていたショーンは、両手を右の腰あたりで重ねるようにして先ほどの何倍もの炎を圧縮していた。まだ放たれていないのに周囲には強烈な熱風が吹き荒れ足元の雑草は燃え始める。
「そういや中国には丸焼きにしたアヒルの料理があったな。こいつでその気持ちを味わいな!
重ねた手を一気に前へ突き出す。圧縮されていた炎は目に物止まらない勢いで放出され周囲の草花と門を完全に燃やし尽くした。圧倒的な火力のこの技であるが、あくまで技の一つ。エースストライクではない。それでも相手を制圧するだけのパワーを誇っておりショーンの十八番の一つ。これまでの戦いでも隙を突いた瞬間に放つこの技で多くのプレイヤーを倒した。溜め時間もさほど長くなく、距離もあり出し始めなら範囲もある。
「これで500ポイントもらったぜ」
あまりにも一瞬の出来事。槍は燃え尽きかつて人であったであろう焦げた物がぱたりと地面に倒れた。
「ん? おかしいな……。ポイントが付与されていない」
お助けNPCを倒した場合500ポイントが付与される。しかし、ショーンのポイントは現在70ポイント。これは兵士たちを7人倒した分のポイントである。
「――術を使うのはお前だけではない!!」
突如、地面から手が現れ足首をがっちりとつかんだ。
「なにっ!?」
強く引っ張りショーンは腰まで地面に引きずられ入れ替わりにミオンが背後へと飛び出した。引きずられた時は緩くなっていた地面だが、ミオンが飛び出したと同時に再び固くなり身動きを封じられてしまう。
「土を人型にして身代わりか。さすがお助けNPCというわけだな。――だが、この程度でプレイヤーは止まらないぞ!」
体全体に炎を纏い天高く放出。
同時に周囲の地面をえぐり脱出することに成功した。
地面に立つ首を鳴らし肩を回して余裕の笑みを浮かべる。
「地面を利用するならこうすればどうだ」
炎を纏う拳を地面にたたきつけると半径3メートルに薄い炎の波を地面から10センチ程度瞬間的に発生させた。それをみてミオンは反射的に跳躍。しかし、この判断が仇となる。
「そうるするよな。技術が高い奴ほど反応してしまう。お前にとってその行動が自身の武器を失うことになってもな」
ミオンの高さまで跳躍すると鋭いかかと落としを肩へと打ち付ける。地面にたたきつけられたミオンは痛みを我慢しながらも立ち上がるが、再度ショーンは大天炎衝波の構えを取る。
お助けNPCはほかのNPCよりも特殊な技や技術をもちいるがそれでもプレイヤーに及ばないこともある。今回の場合は相性も悪くミオンでは歯が立たない。
そして、ショーンの戦闘センスもずば抜けていた。
烈火の拳を持つショーンのファイトスタイルにミオンは成す術がなかった。
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