共鳴する心

 第三戦当日。椿にゲームセンターが開く時間に入り口で待つようにと言われた美春は近くのベンチで待機していた。


「美春、おはよう!」

「おはよう。朝からなんてめずらしいね。大会は昼からなのに」

「単刀直入に言うね。――美春、私と戦って!」


 それは予想外の言葉だった。

 戦いというものとは無縁な椿がゲームで初めて美春と戦いと心の底からお願いした。それは美春と友人でありたいという強い思いから生まれ行動だった。入学から夏休みまでという決して長くはない期間で椿は美春ととても仲良くなれたと思っていたが、かつて桜と切磋琢磨していたように、出会ってすぐなのにともに強敵と戦ったマキナやレイランように、お互いの全力をぶつけあった晴海のように、美春という存在を戦いという土俵でもっと理解したかったのだ。


「いいよ」


 美春はここよく受け入れた。しかし、その直後表情変えて言った。


「でも、手加減はできないよ」


 倒すべき相手に向ける時の険しい瞳に椿は一瞬気圧されるも、こんなことで揺らいでいちゃだめだと気合いを入れ強くうなずいた。


 ゲームの世界へ入りシミュレーションモードで草原を選び二人は向かい合った。


「私はいつも通り刀だけどツバキはそんな重いのでいいの?」


 ツバキがもっていたのは以前から使っていた巨大な盾と槍。誰の目から見ても刀相手と戦うにはあまりにも相性が悪い。しかも、ミハルほどの使い手ならばなおのこと。


「まずはこれでいく。でも、油断しない方がいいよ!」


 満更ハッタリでもないようなツバキの自信にミハルは了承して刀を構えた。

 お互いに何かを合図にするとは言わず、戦いは始まった。先手はツバキ。直線の突進力を活かした攻撃を行った。刀でいなそうとしたミハルだったがパワーが段違いでカウンターを当てようにもしっかりと盾を身に寄せられていたために当てられる箇所が少なく押される勢いを利用し後方へ跳躍。着地と同時に踏み込み切りかかろうとしたがツバキの違和感に気づく。


(盾しか見えない……)


 正面には盾が一枚。ツバキの体なら隠れてもおかしくないが槍が見えていないことが疑問だった。その時、上空でキラリと何かが光る。それはツバキの槍だった。


「盾は囮か」


 しかし、そこにツバキの姿はない。もう一度前をみると目の前に盾が勢いよく飛んできていた。刀で防御するも重さに耐えきれず大きく飛ばされるミハル。

 ツバキは盾に隠れ槍を囮にした隙に盾で攻撃するという意表を突き初ダメージをとった。

 空から落ちてきた槍をキャッチし満足げに言う。


「どうよっ! 私も案外考えてるんだよ」

「正直いまのはびっくりしたよ。でも、盾をなくしたらそれこそまずいんじゃないの」

「試してみてよ」

「なら、遠慮なく!」

 

 ツバキへと切りかかると槍は神々しく光を放ち、重い無骨なフォルムから鋭利なフォルムへと変化。第二戦で披露した槍の新形態だ。軽々と振り回し防御し受け止めた。


「だめだよミハル。もっと本気で来てくれないと」

「ツバキ相手だとどうもね。でも、そこまで言うならそろそろ本気出すよ」


 ミハルの目つきが変わり強いプレッシャーを放つ。外で見た時よりも強い圧にツバキは驚きを隠せなかった。冷や汗のような嫌な感覚が体を走り想像したことのない敵意をミハルから向けられ半ば悲しくなりそうになっていたが、今まで戦った相手も同様のプレッシャーをかけられていたことを想像すると、自分ばかりへこたれてなんていいられないと改めて思いを強くする。

 隣で共に歩くために、頼りにされるために、ツバキは槍を振るった。

 

 刀と槍がぶつかり合う音が響く。

 無駄がないのにトリッキーな動きを見せるミハルとは対照的にツバキはついていくので精一杯。


「持久走大会で置いて行かれるような気分だよ」

「それ面白いね。おいて行かれたくなかったらがんばってついてきて!」


 その時、ツバキは気づいた。真剣な表情で手加減なく刀を振るうミハルの姿はとてもたのしそうだということに。決して笑顔で戦っているわけではない。なのに、動きから伝わる生き生きとした躍動がツバキへも伝わっていた。

 今までツバキはミハルの技術やゲームとの相性が飛躍的に成果を上げている要因だと判断していたが、それはあくまで要因の一つ。これが正しいかなど本当のところはわからずとも、ミハルと戦っていると自然に体が動きを対応しようとして想像超える力が発揮されるのは、戦いを本気でやりながらもそれを楽しみつつ勝ちたいという強い意志が刀を伝わって心に、魂に響くからだと感じ取った。


「隙だらけ。もらった!」

 

 切り上げた刀は槍を天高く弾き飛ばす。それでもツバキはあきらめなかった。


「まだまだ!!」


 スカートをたくし上げ腿のホルダーに装備していた拳銃を取り出し発砲。しかし、常人離れした察知能力で瞬時に避けカウンター気味に攻撃をしかけるが、ツバキは左手を前に出した瞬間に動きが止まる。


「爆弾!?」


 左手に持っていたのはピンが抜かれた手榴弾であった。右の腿に拳銃を、左の腿に手榴弾を隠し持っていた。


「これが今の私にできる全力!!」


 咄嗟に銃を捨て強くミハルを抱きしめお互いの体の間に手榴弾を挟み爆発。

 二人は同時に強く吹き飛ばされ轟音が響き渡った後静寂が訪れる。

 ツバキはあおむけで空を眺めていた。そこにミハルがやってきてゆっくりと隣に座る。ツバキは笑顔で言った。。


「体力差で負けちゃった」


 まともに与えられたダメージは盾の一撃のみ。対しツバキは幾度も刀による攻撃を受けすでに体力はじり貧だった。そこに爆発ダメージが加わったことにより体力ゼロ。


「もし、私とツバキの実力が同じでさっきの爆発を受けていたならこの戦いは引き分けだったと思う」

「それでも引き分けかぁ~」

「正直に言うと最初は油断してた。だから、突進を正面から防ごうとしたし盾の一撃ももらっちゃった。でも、そこでなんて馬鹿なことをしてたんだろうってわかったの。本気でやってる相手に手加減をするなんて侮辱と同じ。師範代も手加減は一度もしてくれなかった。後半は本気だったよ」

「ミハルが本気になってくれるくらいにはやれたってことだね。――はぁ~、負けたけど楽しかったなぁ」


 ツバキにとって初めての体験だった。

 仲良く過ごしていた友達と本気で戦い勝ちたいと心の底から思えたこの体験はかけがえのないもの。最初は負けるだろうと思っていながらも少しでも近づきたいという一心だった。それがいつのまにか勝ちたいへと変わり、全力を尽くした。

 競うからこそ、壁があるからこそ、本気だからこそ見えるものがある。

 

「私、強かった?」


 複雑そうな表情のツバキに対してミハルは笑顔で答える。


「まぁまぁかな」

「もぉ~そこは嘘でも強かったっていうところでしょ!」

「だって嘘はつけないよ。友達なんだからさ」

「それもそうか。――ミハル、第三戦も絶対に勝ってね」

「うん」


 体を起こし立ち上がると架空の青空を見ながら言った。


「サクラさんがどれだけ強かったか私にはわからないけどさ。ミハルなら絶対勝てる。それだけは言える」


 なんら根拠のない言葉。

 でも、そんな純粋な言葉が今のミハルには心強い後押しとなった。


「勝つよ。絶対にね」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る