サイドストーリー サクラ 2

――とあるカフェテラス―― 


 符陽は不敵な笑みを浮かべながらスマホを見せると、画面にはサクラというプレイヤーネームと専用のIDが記載されたバトルエースオンラインのアプリ画面が開いていた。


「こちとら準備万全なわけよっ!」

「なんで赤城さんはここまでしてるの」

「といいますと?」

「私とあなたはこのまえあったばかり。そんな私をゲームに誘ってしかも事前に登録まで。普通はこんなことしないでしょ」

「そうだなぁ~」


 少し考え納得したようにうなずきまっすぐ桜の目を見つめて返事をした。


「君がつまんなそうにしてたからかな」

「私が?」

「ひょっとして自覚ない? それなりに信頼も得て人並みに友人もいて、一緒にご飯を食べたり帰ったりしてるのに桜はつまんなそうにしてる。普通の高校生なら満足するようなことだよ。そういう人とは違うところにびびっと来たわけですよ」


 楽しく振舞おう、悟られないようにしよう、今に集中しよう。そういう風に自身に言い聞かせながらなんとか過ごしていた日々。それを転校生の符陽は一瞬で見抜いていた。


「人生ってのはさ。追い越し追い越され切磋琢磨するのが一番だよ。疲れた人は休むのもありだけどさ、超えるべきハードルがない人ってのは牙のない獣同然。存在価値なんてないよ。だから、心優しい私が君の才能を開花させてあげようじゃないかという粋な計らいだね」


 あまりにも堂々とそんな言葉を口にするものだから桜は笑ってしまった。皮肉や軽蔑、馬鹿にしているわけでもない。掴みどころがなく神出鬼没で感情に素直なのか計算高いのかわからないその不規則で一か所に留まらない雲のような雰囲気に笑いが込み上げた。


「なにさ~、笑わなくてもいいじゃん」

「ごめんごめん。でも、あなたみたいな人には初めて出会ったから。赤城さんは面白いよ」

「符陽! 苗字じゃなくて名前で呼んでよ。私を私として見てくれるならね」

「わかった。符陽さん」

「さん付けか~。まっ、その辺は追々取ってもらいますかな。じゃ、今日はゲームをしに行くよ!」

「えっ、もうできるの?」

「一般プレイヤーが参加できるのは当日からだけど私たちメインのバトルプレイヤーは事前にアバター登録ができるの」


 近くにある大きなゲームセンターへ行きダイブマシンルーム入るといくつもの10台以上ものマシンが並んでいた。これからさらに増える予定らしい。


「ささ、これをつけてゲームへ入ろう!」


 真っ暗な空間に映し出されたのはバトルエースオンラインの様々なフィールド。現実のものから空想のものまで、NPCが行き交いその中を縦横無尽に動き回ることができる。


「バトルエースオンラインへようこそ。バトルプレイヤーの事前アバター登録を行います。ご希望のバトルスタイル、衣装などはございますか?」


 桜は即答した。


「私は刀を使います。それに袴で。――そうだ、顔が隠せるように竹笠とかありますか?」

「もちろん。ご希望のものとサクラさんの想像上にあるものを組み合わせ完成したものがこちらになります。この衣装とバトルスタイルでアバターを作成しますか?」


 桜柄の袴に薄い桜色の上衣。道場で扱っていた模擬刀と同じデザインの刀。なぜこんな風に的確に作れるのか理解などできなかったが、桜にとって原理などはどうでもいい。


「はい、おねがいします」

「――作成完了です。想像力で広がる無限の世界の旅をぜひご堪能ください!」


 バトルエースオンラインの世界へ一歩を踏み出した。

 

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