サイドストーリー サクラ

 綺麗な街並みに穏やかな日常。

 しかし、ぽっかりと空いた心の虚無感が時折襲い掛かる。

 小さくため息を吐いて教室の外を眺めた。

 周りは隣のクラスに転校生がやってきたことでどこか浮足立ったムードであるが桜はそのことをまったく考えていない。


「ねぇ、桜ちゃんは転校生見に行かないの?」

「私はいいかな」

「相変わらずクールだね」

「そんなんじゃないよ」

「じゃ、私は見てくるね~」


 かつて過ごしていた道場は決して遠い場所にあるわけではない。だが、親の圧力と親友へ別れも告げず月日が経ってしまい罪悪感に苛まれていた桜は顔を出しに行く勇気がなかった。

 いつのまにかため息の数も増え、稽古も怠り張り合いのない殺風景な日常に飽き飽きしながらも、今が自分がいる場所が最善なのだと問い聞かせ生活していた。

 

 綺麗な海さえもどこか寂し気に見えてしまう。


「はぁ……」

「――おやおや~、なんだか陰気臭い顔してますなぁ~」

「えっ」


 後ろを振り向くとそこには見たいことのない女子生徒が立っていた。桜と同じ制服ではあるがクラスでは見たことがない。小さなポニーテールがどこか親友を思わせる。


「あなたは?」

「ありゃ、私のこと知らない? 今日転校してきた赤城あかぎ符陽ふようだよ」

「隣のクラスの子ね」

「そうそう。君、桜でしょ。いやぁ~やっと見つけた~。これで怒られずに済むよ」

「誰に怒られるの?」

「えーっと……。そっちはあまり詮索しないでほしいな。それよりさ、案内してよ。私、田舎の方から来たからこんな都会初めてで右も左もわかんないんだよね」

 

 悪い子ではないというのは雰囲気から理解していたが、今の心境で相手をしたい気持ではなかった。冷たくあしらいその場を去ろうとすると、符陽はその場に座り泣き始めた。


「右も左もわからないのにこの身ひとつで都会までやってきたけど、噂は本当だったんだ。都会の人ってなんて冷たいんだ……」


 どこかわざとらしいその動作に半ば呆れていたが周りの目も気になるためしぶしぶ了承するとさっきまでのはなんだったのかとツッコみたくなるほど表情を変えて元気を取り戻していた。


「さぁさぁ、いろんなところに行っちゃおー!」

「はぁ……」


 渋々いろんな店へと行き桜はどんなものがあるか赤城に丁寧に教えた。赤城はいろんなものに目を奪われすぐにどこかへいなくなってしまい探すのに苦労していたが、どこか懐かしくも感じていた。

 夏の夕日が沈もうとしたころ、再び最初の場所に戻った。


「いやいやぁ~都会ってほんとすごいね。強引に声かけたけど案内してくれうれしかったよ。桜といるの楽しかったし」

「うん。私も楽しかったかも」

「おやおや? もしかして私のこと気に行っちゃったかなぁ~」

「嫌いじゃないよ。でも、あまりはぐれないで。そのせいで想像以上につかれた」

「あははっ、振り回されるのもたまには悪くないでしょ。――じゃ、今日はありがとね。また頼むよっ」

「あ、ちょっと!」


 そういうと軽快な身のこなしですぐに姿を消した。


「まるで忍者ね。……久しぶりに楽しかったかも」


 中学時代の楽しい思い出がフラッシュバックし、桜は頭を軽く振ってそれをかき消した。思い出に浸ると心が切なくなる。そして、弱い自分が見えてしまう。だから、思い出したくなかった。

 

「今を見なきゃ」


 過去を切り払い、桜は前へを歩を進めた。


 ある日、連絡先を交換した覚えのない符陽から連絡が入った。 

 それはバトルエースオンラインの参加資格をゲットしたとのこと。ゲームなんてほとんどやったことのない桜は拒否しようとして返事を打ち込もうとすると再び符陽から連絡が入る。次は画像付きであった。

 そこには参加者の本名が書かれた名簿だった。なぜこのようなものをもっているかわからなかったがそこにはとても馴染みのある名前が記載されていた。


「美春……」


 桜はバトルエースオンラインに参加することを決意した。突如現れたチャンスを無駄にしないために。


 

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