第24話 ミハルとヤマト 1
レイランを追いかけるとヤマトが引きずられたあとが途中で止まっているのを発見した。
「これは剣かな……。ミハルさん、おそらくここで姉ちゃんはレイランさんに救出されてます。でも、周りで音がしないのを考えるとだいぶ離れてしまったみたいですけど」
ヤマトの能力は銃やナイフスキルのほかに忍者やアサシンなどには劣るが隠密能力や索敵能力も高く備わっている。
「一安心だけど困ったね。右も左もわからないからどっちへ向かえばいいんだろう」
「照明弾はありますけど森だと空が見えないのであまり効果はないです。景色も変化がないですしとりあえずここに印をつけて前へ進みましょうか」
ヤマトは近くにあった木へ自分たちが向かう方向を記し二人は進み始めた。
「あれで戻ってきたときに気づくはずです」
「ヤマトくんって器用なんだね。私じゃ思いつかないよ」
「ゲームばかりやってますから。現実世界じゃ役に立ったことないですけど」
「今はそうでもきっとどこかで役に立つことがあるよ。私だって道場に何年もいるのに剣術や鍛練が役に立つことなんてそうそうないからね」
「そうなんですか? 反射神経やあの動きの数々は日常でも十分に使えそうですけど」
「木刀握ったり危機的な瞬間があれば確かに使えなくもないけど、普段はまったく意識してないよ。師範代曰く『適材適所。万事に通ずる手段はない』だって」
師範代の教えの一つ。万事に通ずる道はないとは、どれだけ卓越した技術だろうが多くを会得していようがたった一人できることには限界があるというものだ。
どれだけ剣術を学んだところで料理人として包丁を握れるわけではない。
どれだけ武術を学んだところで格闘技で負けることもある。
自分の活躍できる舞台で全力を尽くすことが生きることの本質だと師範代は語っていた。
「俺にできること……」
「昔と違って今はゲームで賞金が出たりするんだよ。競技として成立しているし見ている人を楽しませたりもできる。これってとっても素敵なことじゃないかな」
「そんなことを言ってくれる人身近にいなかったのでなんだか不思議な気持ちです。……あ、いたな」
「ふふ、ツバキでしょ」
「認めたくないけどそうです」
ヤマトを溺愛し誰よりも知っているのはツバキだということにヤマト自身改めて気づかされた。
素直になれないヤマトを見てミハルは小さく笑う。
しばらく歩くと開けた場所に到着した。
ここは太陽の光も降り注ぎ中央にはまるで花園といわんばかりの花々が綺麗に咲き誇っている。
「綺麗だね。ツバキにも見せてあげたいなぁ」
「姉ちゃんなら見つけた瞬間に走っていきそうですよ」
「確かに。容易に想像できちゃう」
二人は周りを警戒しつつも花の方へと近づいた。
現実世界ほど鮮明ではないが微かに甘い香りが漂っている。
「ゲームの世界でもこんなに美しく花は咲けるんだね」
腰を落とし花に触れるミハルの姿は戦いの時に見せる勇ましさはない。可憐な姿にヤマトは目を奪われていた。
「おっと、こんなことしてる場合じゃないんだよね。先を急ごうか」
すると、花園をかき分け何かが足元に迫ってくる音が近づいてきた。
恐ろしい速さで近づく何かをいち早く対応したのはミハルだ
自身の近くまで来たところで軽く跳躍すると、ツバキをさらった触手が現れる。
「ミハルさん!」
ヤマトは咄嗟に銃を抜くがそれより速く触手はミハルへと迫っていた。しかし、ミハルもただ跳躍したわけではない。
相手の正体を把握しすでに攻撃の体勢へと移行していたのだ。体をまるめて柄を握るその姿はラーシュ戦の最後で見せた刹那の抜刀。
一瞬にして触手は切断され残った部分は奥へと下がっていった。
「大丈夫ですか?」
「全然平気だよ。にしても驚いたね。音を立ててくれなかったらわからなかったかも」
「でも、これで本体が向こうにいることはわかりましたね。どうします? 俺たちはボスオークの討伐が目的ですけど現状ミスチェフテンタクルスも驚異の一つです」
「倒しちゃおうか。私とヤマトくんの武器なら遠距離も近距離も対応できるしまたツバキが連れ去られる心配もなくなるしね」
「では、奥へ進みましょう」
二人は太陽の降り注ぐ花園から再び暗い森へと向かった。
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