第25話 ツバキとレイラン 1

「ねぇ~、ここどこなの~?」

「あっれおかしいなぁ。こっちから来たと思ったんだけど」

「もしかしてレイランって方向音痴?」

「よく道を間違えるとは言われる」

「それは方向音痴だよ! え~いまからどうしよう」


 完全に道に迷った二人はその場で一旦これからどうするかを考えた。 

 ツバキには特別な探索能力はなく、レイランも戦闘に全振りしてるため二人の力だけでは元の場所へ戻るのは困難。

 それに加え再びミスチェフテンタクルスが襲ってくる可能性もあるためあまり一つの場所でじっとしているわけにもいかなかった。


「とりあえず動かない? 別の方向に進んでみたら何かあるかも」

「じゃあ、次は私が前に行くよ。レイランよりは方向音痴じゃないはずだから」


 先導を交代し歩いてはみるもののやはり景色には何の変化もなく鳥の声や木々は揺れる音などしか聞こえない。

 ゲームの世界であるため肉体的疲労はないがスタミナの概念は存在しているため慣れてない道にツバキは足取りが重くなり始めていた。


「一旦休憩しようよー」

「もう? まぁ、ツバキがそういうなら私は構わないけど」


 ツバキは適当な木に腰かけ一息ついた。

 再び触手が襲ってこないようにレイランは周囲を見渡し警戒している。すると、ツバキのほうをじーっとみてゆっくりを顔を近づけてきた。


「え、急にどうしたの?」

 

 問いかけるがどんどんと顔を近づけてくる。


「あ、その、女の子同士でこんな森の中なんてだめだよ!」

「――これ、二人が行った方向じゃない」

「……へ?」


 後ろを振り向くとツバキが腰かけていた木には刃物で矢印をつけた跡があった。

 刀にしては跡が雑なことからこれはヤマトがつけたものだとすぐに分かった。


「二人ともあっちの方向に行ったんだよ!」

「よし、だったら急ごう」

「私が前に出るからついてきて!」


 二人は矢印の示す方向へと向かった。


 少しすると太陽の降り注ぐ花園へと到着。ミハルとヤマトが来た場所と同様の場所だ。


「わぁ! 花がいっぱいだよ!!」


 ツバキは花園を見るや否や走っていき咲き誇る花々に目をキラキラさせながら喜んでいる。


「こんな開けた場所があるのにモンスターが一体もいないなんて不思議」

「みんな花に興味ないんじゃない? にしてもすごいなぁ~。こんなに綺麗な光景をゲームで見れるなんて思ってもなかったよ」


 あまりにも不自然な場所にレイランは違和感を覚えながら辺りを警戒していた。

 すると、二人がやってきた方向とは別の場所からゆっくりと重い足音が聞こえ始めた。 

 ドスンドスンとまるで地響きのような音に二人の緊張感は高まっていく。


「ツバキ、武器を展開して。この重い足音……ボスオークだ」


 花園付近の木々が倒れ、そこから緑色の肌に獣の皮に身を包む巨体が姿を現した。右手には自身の体格ほどある大きな棍棒を持っており明らかに人間程度では力くらべなど到底できないことがわかる。


「で、でかすぎだよ!!!」

「これは想像以上かも。でも、ばっちりこっちをにらんでるよ」


 二人の姿をじっくりと確認するとボスオークは雄たけびを上げ棍棒を振るい突風を発生させた。


「ツバキ! ガード!!」


 レイランは咄嗟にツバキの後ろに周り背中を支えた。

 ツバキの大きな盾で突風を防御するが凄まじい衝撃波は一番防御力のあるツバキでさえ押されるほどの威力。

 二人で倒すにはあまりにも困難だと悟った。

 レイランは服から自分の身長ほどの武器である大刀を取り出し構えた。これは中国武術の暗器。服に様々な武器を仕込んで無防備状態から瞬時に臨戦態勢へと変え相手の虚をつくことができる。

 しかし、今回はその強みを活かすことはできない。


「私の武器がどこまで通じるかわからないけどやってみる。ツバキはなるべく被害がない場所まで下がってて」


 レイランはツバキの戦闘能力を低く見積もっていた。いきなりミスチェフテンタクルスに足を取られ花園に躊躇なく近づいた姿を見ては無理もないことだった。

 しかし、ツバキはレイランの提案を否定した。


「むしろ私がいないとあいつは倒せないよ!」

「何か策があるの?」

「この武器の先端からは海を裂くほどの強力なビームが出るんだよ。これならきっとあいつにもダメージを入れられる!」

 

 どれほどの威力のビームが出るかわからないツバキの武器に賭けるしかないと考えたレイランはツバキの案に乗ることにした。


「私が隙を作る。いいとこはツバキに任せる」

「まかせといて!」


 ツバキとレイランによる一撃必殺の作戦が始まる。


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