第19話 弱者の美学

 草原のエリアで弱そうなモンスターを倒しいつのまにかポイントは190。

 第二戦への枠はまだ17人残っており順調にいけば問題なくクリアすることができる。


「序盤にすごいことが立て続きにおきたけど最後はあっさりだったね」

「あんなのがもっと続いてたら集中力持たないよ。ゲームの中なのに疲労感がすごいし」

「よく考えてみれば第一戦から中々ハードですよね」


 たくさんの時代や世界をポータルで移動し、エリアごとに配置されたモンスターやギミックを活用し200ポイントを稼ぐというのは、コントローラーを握る従来のゲームであればチュートリアル的な感覚でできなくもない。

 だが、バトルエースオンラインのようにダイブ型に至っては、移動でも戦闘でも入る情報量が段違い。それゆえに疲労感も従来の物より重いものとなる。


 目の前に三体の小型モンスターが現れた。


「これで終わりかな」


 ミハルは刀を構え動きを見ながら斬りかかろうとした時だった。

 横からビームが放たれ次々と小型モンスターを倒していった。横取り行為は通常のゲームではマナー的によくはない行為だがこのゲームはまだ始まったばかり。

 こういった行為があってもおかしくはない。

 ビームが放たれた方向を見ると、そこにはビームガンをもった男の参加プレイヤーと武器を持たない一般プレイヤーが二人横に立っていた。


「なにあれ。ミハルのモンスターを横取りしたのに態度悪くない?」

「マナー的には悪いけどルール違反じゃないから仕方ない。始まったばかりのゲームにああいうのはつきもんだ」

「でも、あとちょっとだったのに……」

「いいよ。別のモンスター倒すからさ」

「ミハルそういうならいいけど……」


 ミハルたちが男を気にせず別の場所に移動しようとすると男は声をかけてきた。


「侍! 無視していくのかよ」

「私はもうすぐでクリアだから安全な策を取るだけ。さっきのことは気にしてないからあなたも別の相手を倒した方がいいですよ」


 ミハルはポータルへ行こうとすると男は後ろからビームガンを放った。


「ッ!」


 納刀直前だったこともありすぐにビームを刀で弾くことができた。

 男のほうを見ると自慢気な顔をしておりこういった。


「悪いが逃がさないぜ。こちとらすでにクリア圏内。強い奴は今のうちに落とすのが定石さ」

「クリア圏内ってどういうことですか。クリアしたらその時点で終了では」

「知らないのも無理はない。クリアした者だけがこのまま続行するか速やかに帰還するかを選ぶ。ほとんどのやつらは自身がクリアしたことに満足し帰還するが俺は違う。障害になる相手は今のうちに潰しておくのさ」


 ミハルが目の前でクリアしたプレイヤーを見たのはマキナ一人だけ。クリアしてもほかのプレイヤーに襲われるのではないかという疑問は確かにミハルの中にあったが、それを確認することなくマキナとは別れることになったためこのシステムに気づくことがなかった。


「では、あなたは私を倒すということですか」

「そうじゃなければここにはいない」

「いいでしょう。相手になります! ここまで来たんです。そうやすやすと負けるわけにはいきません!」


 草原エリアを夕日が照らし始める。


「かかってきな! お前の得意な近接戦闘でやってやるよ!」


 男が出したのは細かい振動を行う黒い刀風の武器。


「かかってきな!」

「いわれなくても!」


 接近し刀を振るおうとした瞬間、男は手元の装備から目を開けられないほどの光を放った。


「うっ!」

「正面切って戦うだけじゃこの先勝ち残れねぇよ!」


 視界を塞がれたミハルを無慈悲に黒い刃が襲い掛かる。

 だが、ミハルは軽く後方に下がりつつ刀を横にして男の攻撃を防御した。


「おいおい、見えてねえはずだろうよ」

「素人の刀なんておおむね予想がつく」

「言うじゃないの。なら次はお前から打ってこい!」


 その言葉のすぐにミハルは刀を振るった。当たれば大きなダメージが入るのは確実。

 すると、男は近くの仲間をひっぱり自分の盾としてミハルの前に押し付けた。


「あいつ仲間を盾にしたよ!?」

「ミハルさん攻撃を止めてください!!」


 参加プレイヤーを倒すと100ポイントだが戦いとは無関係なプレイヤーを倒すとマイナス100ポイントとなってしまう。

 ミハルは相手の体に刀が接触する直前になんとか方向を変えて大きく外す。しかし、それは大きな隙を生み男はすかさずビームガンを連射してきた。


「くっ!」


 なんとか後方へと下がりながらビームを弾くがあまりにも近距離だったために二発受けてしまい膝をついてしまった。


「ミハル!」

「サメにラーシュにモンスターと連戦続きでミハルさんも疲弊してるんだ!」


 思うように動かない体を無理やり立ち上がらせ男をじっと見た。一つ一つの攻撃と技術とは大したことはないが組み合わせることで達人の裏をかくほどの力を生み出す。

 それに加え仲間を盾にするという参加プレイヤーに対しての絶対的な壁。

 

「一般プレイヤーがフィールドを歩けるってことはこんな風に利用できる」

「卑怯な……」

「強者相手に真正面からいくほうがおかしいだろう。正直俺は大して強くはないが強くないなりの戦い方があるのさ。」


クリア直前に現れた男により一気に劣勢へと立たされた。

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