第18話 刹那を斬る者

 おそらくこれが最後の攻防。

 先陣を切ったのはミハルだった。動きの読みづらい縮地法からの急接近。

 先ほどとは違って視界に入っている状態。ラーシュ相手では簡単に見切られてしまう。


「見えてりゃなんてことはない!」


 ラーシュが突きをお見舞いしようとした時、ミハルはピタッと停止し瞬時に傾け姿勢下げて足を狙った。それと同時にマキナが飛び低空からの突きを狙った。


「コンビネーションか!」


 ラーシュは攻撃を中断しバックする。

 しかし、姿勢を下げたミハルは再び急接近をした。姿勢を下げる。まさしくこれが縮地法の真髄。傾斜した体の重みで足を引っ張り刀の攻撃範囲に入ると一気に振った。

 槍でなんとか防ぎ高速で移動し着地したマキナに連続突きを放った。


「くっ!」


 槍は胴体の鎧を破壊し肩を掠める。

 胴体へのダメージで怯みを見せたマキナをラーシュは槍の横払いでミハルの方へと飛ばした。

 視界の外にいるからこそミハルが攻めてきていると予想したのだ。

 それは見事に当たっており吹き飛ぶマキナをミハルは受け止め衝撃を緩和した。


「その程度なら回避すればいいものを!」


 マキナとって決定的な一撃ではなかったがミハルは放っておくことができなかった。その優しさが仇となり二人は同時にピンチに陥った。


「ミハル……任せたぞ!」

「えっ?」


 そういうとマキナはミハルを強く押し飛ばした。


「一人は頂くぜェ!!!」


 怪しく光るラーシュ渾身の一撃がマキナを襲う。


「マキナ!!!」


 鈍い音が闘技場に鳴り響く。

 確実にマキナへと攻撃が当たった音だ。防ぐことも回避することもできなかった。ラーシュを倒せば第一戦を通過できるというところまで来ていたのに、マキナは最後の最後で槍の餌食となった。


「中々わるくなかったぜ女騎士。だが、俺には及ばねぇ」

「そんな……」


 ミハルがマキナを受け止めたばかりに起きてしまった出来事。

 もし、あの時ミハルがマキナを回避して攻撃に転じていればこうはならなかった。

 選択を誤った自身の行動に強い後悔が襲う。


「いっただろう……。任せたと」

「え……」

「なに!?」


 マキナの剣は神々しく輝き、マキナ自身もまだ完全にはやられていなかった。


「ヤ、ヤマトどういうこと。なんであれでやられてないの?」

「……そうか。そういうことか! すでに条件を達成していたんだ!」

「条件?」

「エースストライクの条件だ!」


 エースストライクはこのゲームのプレイヤーに与えられた一人一人のオリジナルの必殺技。条件を満たすことでそのプレイヤーの想像力や戦い方に合わせて技が構築される。


「私のエースストライクはミハルのように相手の動きを封じることはできない。しかし、相手の攻撃で絶命しない最後の底力と次の一撃を最強の一撃にする。ミハル! もう一度言う。任せたぞ!」


 ミハルはその言葉の意味を理解し刀を鞘に納めた。


「刀を戻しただと? お前、いったい何を。それにこの力は」


 ラーシュは槍を引こうとしても握られているマキナの左手の力が強すぎてうんともすんとも言わない。そして、神々しく光る右手の剣。何かが来る。それだけを理解した。


「これを受けたら褒めてやる! 私のエースストライク。聖なるホーリー騎士たちのナイツ咆哮ロアー!!!」


 下から上へと斬り上げる。

 光が一気に放出され圧倒的破壊力の攻撃がラーシュを狙う。


「ち、まずい!!」


 光の斬撃は地面も屋根も闘技場の壁さえもいともたやすく破壊し一直線の破壊の跡が出来上がった。


「す、すごい……。これがゲームだなんて」

「姉ちゃん驚いてる場合じゃないよ! ラーシュがやられてない!」

「えっ!?」


 ラーシュはマキナの攻撃が当たる瞬間に槍を放棄しすでに離れていたのだ。


「あぶねぇ。俺に槍を捨てさせるとは……。まて、もう一人はどこに――」


 その瞬間、ラーシュは背後に凄まじい殺気を感じ取った。


「なん……だと……!?」


 背後には刀を鞘に抑え柄を握るミハルの姿があった。


「抜刀!!!」


 ミハルの真骨頂。それは卓越した適応能力や判断スピードだけではない。

 唯一、親友の桜さえも完全な負けを認めた抜刀術にある。


「避けられねぇ!」


 あまりの速さと殺気にラーシュの体は追いつかなかった。

 武器を持たぬラーシュにこれを防ぐ方法はない。

 圧倒的な力と圧倒的な速さから繰り出された一撃にラーシュは沈んだ。


「くそっ……」

 

 地面に倒れる音が闘技場に響くと静寂が場を支配した。

 二人に100ポイントずつが追加され勝利したことを知らせる。


「ははっ……。負けたぜ……。東洋の剣豪。それに女騎士。また戦う機会があったら次は負けねぇからな」

「ああ、次は一対一だ」

「私も望むところです!」

「ったく。恐ろしい殺気を放ってたのに今は可愛い顔してやがるぜ。鍛えなおしだ……」


そういうとラーシュは光となり消えていった。


「死んだの……?」

「いや、このポイントバトルにおいての使命を終えただけ。またすぐに会える」


 ツバキたちも合流し無事にラーシュとの戦いは終わった。


「ミハルー!」

「うわぁ! いきなり抱き着かないでよ」

「心配したんだからねっ。毎度毎度無茶するから!」

「ごめんって。でも、ちゃんと勝ったよ」


 二人が仲良くしている姿を見てマキナは小さく笑った。


「ミハル、私と共闘してくれてありがとう。一人じゃとても戦える相手じゃなかったよ」

「いえ、こちらこそ貴重な体験でした。最後、私に託してくれたの気づけて良かったです」

「あれは賭けだった。詳しく説明する時間もないしラーシュは騎士として強いが貪欲さも兼ね備えていた。私の攻撃は十中八九回避される。君のセンスに賭けて正解だった」


 ミハル自身この戦いで何度か抜刀を試みようと考えていたがラーシュの速さでは刀を鞘に納める隙さえも与えてくれない。体勢を整える前にやられるのが落ちだと理解していた。

 だが、マキナが作ってくれた隙とミハルの抜刀術の速さにより勝つことができたのだ。


「私はこの時点でクリアだ。君が第一戦通過することを祈ってるよ」

「はい! また、どこかで共に戦いましょう!」

「次は敵かもしれないがな」


 マキナはそういうと去っていった。


「これであと60ポイントだね」

「油断はできない。プレイヤーだってまだいるからね」

「ほかのプレイヤーが来る前に別のエリアに行きましょう。さっきの衝撃で誰か来ちゃうと思うので」

「そうだね」


 ミハルたちはほかプレイヤーが来る前に別エリアへと向かった。



 ミハルたちがラーシュと死闘を繰り広げていた間にとあるプレイヤーがいともたやすくノルマを達成していた。


「つ、強すぎる……」

「くそっ……こんな女に……」


 屈強なプレイヤー二人が地に伏せていた。

 その前に立つのは竹笠を被り桜柄の袴をはいた女性のプレイヤー。


「あなたたち程度では話にならない。師範代との稽古に比べればままごと同然」


 そういうと女性プレイヤーは去っていった。

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