第13話 剣術と拳術 

 本来海の生物であるサメだがこのダブルヘッドシャークは地上に上がっても自力で移動することができる。まるで蛇のようにうねうねと体を動かし高速で近づいてきた。

 ふざけたみための割に想像を超える速さで来るためミハルは動揺するがハルミは果敢に立ち向かう。


「海の生物が地上で覇権を取ろうだなんて図々しいよ!」


 水中なら全方位で攻撃を仕掛けることができるダブルヘッドシャークだが地上では正面の相手しか攻撃できないと考えたハルミは大きく跳躍し頭上に拳を叩きこもうとした。

 ありえないほど高く飛び太陽を背にして急降下。

 しかし、ダブルヘッドシャークは体をエビぞりをするように曲げて勢いよく地面にたたきつけるとその反動を利用して上空へと飛び上がった。

 あまりにも予想外の出来事にハルミは急遽防御して攻撃を軽減しミハルの近くへと着地した。それと同時にダブルヘッドシャークも大きな音を立て地上へと落ちた。


「まさか飛んでくるなんて思ってもなかった」

「恐ろしいですね。地上戦ならまだ勝機はありますけどもし水中にもっていかれたら……」

「今の私たちじゃかなわないだろうね」

「やっぱり地上にいるうちに!」


 ミハルは刀を構えハルミも拳に力を入れた。

 シルエットや名前が似ている二人ではあるがその雰囲気はまったくの別人。

 しかし、自身のスキルに絶対的な自身があることは共通している。


「ハルミさんは私生活でも格闘技を?」

「うん、いろいろやってるよ」

「では、ハルミさんの反射神経と経験を信じてまかせたいことがあります」

「さんはいらないよ。それに敬語もね」

「――ハルミ、私のサポートをお願い」

「よろこんで!」


 刀を右手に持ちミハルは一気にダブルヘッドシャークとの距離を詰めた。

 ダブルヘッドシャークは大きく口を開け嚙みつこうと迫ってきた。


「それが狙い! 攻撃中ならばこちらの刀は見えていない!」


 大きく開けた口の上あごに突きをお見舞いしようとすると、ダブルヘッドシャークは異常な危険察知能力で即座に口を閉じて刀を咥える形となった。


「ぬ、ぬけない……!」

 

 ミハルの力ではびくともせずもう一つの頭が噛みつこうと狙っている。

 すかさずハルミがもう一つの頭の下に滑り込み顎を蹴り上げた。地面を背にし反動を気にしない一撃は強烈なダメージを与え無事刀も抜けたがミハルも一緒に上空へと飛ばされてしまった。


「あっ、ごめん!!」


 上空へ飛ばされたミハルは運悪くダブルヘッドシャークと目があった。


「来るか……」


 この目は攻撃をする目だとミハルは今までの経験から理解した。

 戦いという舞台において人も動物も大きな差はない。

 ミハルには見えるのだ。

 攻撃をするもののぎらついた眼光が。


「イメージしろ……。地に足がついていなくても相手を切る方法を……」


 道場での習う剣術は実戦をベースにしたもの。

 競技性などは二の次。

 あくまで相手を仕留めるため、己を守るための剣術。

 そのうえで様々な現実な離れした剣術を習ったが平和な現代でそれを使うことはできない。何より身体能力的に難しいものが多かった。

 だが、この世界なら現実の物理法則を超越した動きを再現できる。


「刀を頭上に上げて重量バランスを調整。相手が仕掛けたところに全力で振る!!」


 上半身と刀の重さ、さらに手首の繊細かつ力強い動きを利用し体を縦回転。

 迫ってきたダブルヘッドシャークを一刀両断。


「剣術! 空天回刀くうてんかいとう!!」


 地上からその様子を見ていたハルミは笑みを浮かべていた。


「へぇ~。やっぱ私の審美眼は当たってるじゃない。こりゃ苦戦しそうだなぁ」


 無事倒したとホッとしていると一刀両断されたダブルヘッドシャークは二匹のサメとなり海へと戻っていった。

 地上に着地したミハルは異常な生命力をみせたサメに驚きを隠せなかった。


「頭があるから再生できたのかな」

「どうだろうね。私にはわかんない。でも、ポイントはちゃっかり追加されてるみたいよ」


 自身のポイントを確認すると40ポイントとなり20ポイント追加されていた。

 無事にポイントを稼げていることに安心するミハルとは対照的にハルミは浮かない顔をしていた。


「しょっぱいなぁ……。もっとどかっと稼げると思ったんだけど。やっぱり完全に倒せなかったのが悪かったか」

「ごめんね。私が二匹に分けちゃったから」

「いいよいいよ。私も終わったと思って追撃しなかったしね。――で、倒したことで共闘関係は終わったわけだけどどうする。ここでやりあう?」


 プレイヤー同士の戦いでもポイントが稼げるため勝ちを狙うならこの場で戦いさらに大きくポイントを稼ぐのが定石。

 しかし、ミハルは首を横に振った。


「ハルミがいいなら私はここでは戦いたくないかな。せっかく一緒に戦ったのに終わったら敵だなんて悲しいでしょ」

「お人好しだね。いずれは戦うのにさ。そんなんだと後ろから刺されるよ」

「大丈夫。刀があるなら私は強いから」

「いうね。じゃあ、次あった時は手合わせおねがいね」


 そういうとハルミ去っていった。

 ツバキはその姿を眺めながら言った。


「なんだか熱くて爽やかな人だったね」

「うん。まだ何にもわからないけどあの人は最後まで残りそうな気がする」

「だったら今のうちにしっかり観察して攻略しないとだねっ」

「まずはこの第一戦を勝たないと」


 まだまだポイントバトルは始まったばかりだ。

 

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