第12話 驚きのB級モンスター
今の美春には二つの選択肢がある。
エドワードにこのまま別の場所につれていってもらうか最初に見つけたポータルでビーチのフィールドへ行くかだ。
「ミハルはあの輪っかに入れるのか?」
「はい。……というよりあれ見えてるんですか?」
「ん? ああ、たまに見かけるぞ。私たちが触ってもなにも起きないがたまに入れるやつがいると聞いたことがある」
NPCは基本的に自分のいる世界の外に行くことはできない。共通している世界ならともかく、エドワードが東京フィールドやSFフィールドに移動することは不可能。
しかし、ゲームの役割としてプレイヤーを導いたりするためにポータルを理解しているものがそれぞれの世界に存在している。
エドワードもその一人なのだ。
この戦いでは200ポイントを越えた人数が80人を越えた時点で終了。美春はおもむろにメニューを開き現在の状況を確認すると、すでに二人200ポイントを越えていることがわかった。
「早すぎる……。いや、何らかの方法でプレイヤーを瞬時に二人倒せば可能性はあるか。ここは急いだほうがいいかも。――私、あのポータルから移動します」
「そうか。改めて船員を守ってくれたことに感謝するよ。気を付けていけよ」
「はい!」
美春はエドワードや船員たちに手を振り、ビーチフィールドへと移動した。
移動した先は水着を着た人たちが海水浴や日光浴を楽しむ場所で現代的な建物も見えるがどうやら日本ではない様子。
「海外……かな?」
メニュー画面で改めてクリアした人数を確認するとまた一人増えていた。まだ人数に余裕はあるとはいえ時間が経てば一気にクリア人数が増える。
すると、美春自身のポイントが20ポイント増えていることに気づいた。
これは隠しシステムの影響だ。
本来、ポイントを稼ぐためにはクエストをクリアしたりモンスターを倒すことでプラスされるが、NPCを助けたり、分断された道を解放したりと、フィールドの生活に貢献するとポイントがプラスされることがある。
「あれ? 美春じゃん!?」
「えっ?」
声のするほうを見ると椿と大和がやってきた。
「そこのポータルから移動してきたんですか?」
「うん。ちょっといろいろあってね」
「ここがどこだか知ってます?」
「いや、まったく。海外の海っぽいなぁくらいしか」
「ここはホノルルのワイキキビーチです。現実にある場所ですがかなり細かく作られているみたいですよ」
穏やかなビーチの逆側には街が広がっている。戦いとは無縁そうなこの場所。しかし、ここはゲームの世界。全てがバトルフィールドになってしまう。
「キャー!!」
女性の声がビーチのほうから聞こえた。女性は海のほうを指差しており周りの人たちもその方向を見るとひどく驚いていた。
三人が駆けつけたときにはすでに浜辺に巨大な生物が出てきていた。
その見た目は明らかに海洋生物でありみんながみたことある形状をしている。しかし、その大きさもさることながら大きな違いがあった。
椿はその生物を目撃すると大きな声で言った。
「ダブルヘッドシャークだ!!!」
「椿、知ってるの?」
「うん! この前みた映画に出てた! すっごい強いんだよ! みんな食べられてた!」
「そんな楽しそうにいわないの! でも、やっぱり戦わなきゃ行けない感じか……。そうだ、弱点とかないの?」
「ない! めちゃくちゃ強い!」
椿はあっさりと答えた。
どうやら映画の中に登場したダブルヘッドシャークは無駄に強く二人同時に人間を食べたりとやりたい放題だという。
「でも、二つだから大丈夫だよ! 六つ頭がある鮫もいるんだよ!」
「鮫って映画でそんなにアレンジされてるんだ……」
「姉ちゃん変な映画見つけてくるの得意なんですよ……」
謎が深まるサメ映画の世界が気になりながらも美春は目の前のダブルヘッドシャークと思われる鮫をどう相手にするかを考えた。
エドワードとの一件でポイントをもらったこと考えればここでダブルヘッドシャークを退ければポイントに繋がると判断したのだ。
「みなさん下がってください! 何とかします!」
ビーチの人たちを守るために美春はダブルヘッドシャークと人々の間に割って入った。
しかし、人々の反応は思っていたものとだいぶ違った。
「おー! 侍だ!」
「女の子の侍よ!」
「お嬢ちゃんがんばれー!」
むしろ現場が盛り上がってしまい収拾がつかなくなってしまった。
「あ、あの! 下がってないと危ないですから!」
すると、ダブルヘッドシャークは陸だというのにまるで気にしないように飛び上がり美春に襲いかかってきた。
「美春!」
「美春さん!」
二人の声もダブルヘッドシャークの接近にも気づいていた美春は即座に柄を握り、目の色を変え抜刀術でカウンターを狙っていた。
しかし、美春とダブルヘッドシャークの間に人影が割って入った。
大きな衝撃音が鳴り響く。
その正体は飛びかかってきたダブルヘッドシャークに強烈な蹴りを当てた音だった。ダブルヘッドシャークは空中で蹴り飛ばされ大きな音を立て再び海へと戻された。
蹴りが効いたのかダブルヘッドシャークはすぐに陸へと上がってこようとはしなかったが、確実にビーチの人々を狙っている。
それと同時に目の前に、茶髪のポニーテールを揺らし着地する一人の少女が現れた。
「危ないとこだったね。と言ってもカウンターする気だったのか。なら邪魔しちゃったね。私はハルミ。あなたのことは知ってるよ。ヨハネを倒しNPCを助けるお人好し、女侍のミハル。会えて嬉しいよ」
椿は二人の姿をみて驚いた。
「そっくりじゃん!」
名前も含めその背丈や顔は酷似していた。
それに名前までも。
「あのモンスター強いみたいだよ。ここは共闘して経験値とポイントを分けようよ」
「そんなこと出きるんですか?」
「うん。正直あいつを一人で相手するのはきつそうなんだよね」
ハルミがモンスターをサーチするとレベルは20と出た。美春はヨハネとの戦いや貴族との戦いによりレベルは10になっていた。そして、ハルミはレベル7。この短時間でたくさんの敵を倒してきたようだ。
「レベル差はあるけど私の格闘術とミハルの剣術ならきっと倒せるよ!」
「では、よろしくお願いします!」
初の共闘戦が始まった。
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