第11話 命が一番
槍というのは突くという動作に特化すると同時にほかの武器よりも長く扱いやすい。素人が扱ってもその真骨頂を発揮することができる。
刀と槍の対面となると基本的に刀には分が悪い。
単純なリーチの問題。それに、突きに関しては槍もかなりの速さを誇る。
ロイドの突きをいなしていくがロイドの動きから本気でないことが伝わってくる。
「中々やるじゃねぇか。でもよ、聞いた話だとお前はゲームに関してはずぶの素人らしいな」
「コントローラーを握るゲームなら私は弱い。でも、体を動かすなら私にだってやりようはある」
「それがヨハネとの戦いか。いいだろう。もう少し遊んでやる!」
ロイドは再び隙のない攻撃をしてくるが突きの連続ならばそれこそ貴族との戦いで経験済み。慣れた手つきで弾くと、突如ロイドの槍は伸びてきたのだ。
「ッ?!」
そのトリックは簡単なものだった。
両手で持っていた槍を片手に持ち替え根本の方に手を移動させ一気に突くという単純なもの。
咄嗟に後ろへ下がるがそこはすでに船を繋ぐ橋の部分。
二人は決して安定しているわけではない足場で再び武器を交える。
「だったら少し本気を出してやる! ダブルシャドー!!」
ロイドの槍を防ぐと二度衝撃が伝わる。ロイドが動くたびにロイドの影が現れ同じ軌道をたどり同様に攻撃を仕掛ける。
さすがの美春もこれには耐えるしかなかった。
足場も悪く二重の攻撃。槍の重さとロイドの攻撃速度の前では刀で耐えるにはそう長くはもたない。
「このまま持久戦になったらお前に正気はない。そして、一つ面白い話をしてやろう。このフィールドにおいてお前は旅人というステータスを付与されている。そして、それを攻撃する俺は敵というステータス。ということは俺からすれば船員たちはみな敵というわけだ。ということはよ、お前を倒して船員と船長をやっちまえばそれだけでポイントは200近くまで稼ぐことができる! 全部お前のおかげだ!」
倒すという行為でポイントを稼ぐ場合、どうしてもモンスターなどを想像してしまうが、自身にとって敵である場合そのすべてがポイントの対象となる。
この場合では美春にとっては船員たちはポイントにならないがロイドにとってはポイントの対象となる。もちろん、美春が船員を一人倒し全体から敵と認識されればそれで船員たちをポイントの対象とすることもできる。
「手間を省いてくれてよかったぜ。それにこの橋からでしかあいつらはこっちへはこれない。道が一つならどれだけの数がいたところで同時に戦うのはへでもない。船員を向こうへ逃がしてくれたのはかなり助かったぜ」
「私の行動が裏目に……」
自身の行動が相手にとって優位な状況を生み出してしまったことが腹立たしかった。
それを利用するロイドにではない。自分自身にだ。
そもそも本当に追い返すなら最初から特攻してあわよくば二人同時にポータルへと押し返せばよかった。なのに話し合いという道を選ぼうとした美春の行動が裏目となったのだ。
「そういえばよぉ。もし海に落ちたらどうなるんだろうなぁ? 試してみたくなってきたぜ」
疲弊した美春へと力強い槍の横振りが迫ってきた。
避ける余裕はないが不安定な足場で耐えられるかはわからない。だが、美春は刀を構えを耐えるしかない。足をふんばり全力で迎え撃とうとした。
その時、銃撃の音が鳴り響いた。
それと同時にロイドは後方へと跳躍し橋から船の上へと戻った。
「私の客人に手を出す無頼の輩はあんたか?」
銃を撃ったのは女船長だった。
「NPCが加勢だと?」
女船長は美春の肩に手を置き言った。
「船員たちを下がらせてくれてありがとう。うちのやつらじゃあいつには敵わないからな。そういえばまだ名を名乗っていなかった。私の名はエドワードだ。エドとても呼んでくれ」
「美春です。助けてくれてありがとうございます!」
「あんたはこんなとこでやられていい存在じゃない。――やろうども!! 準備はいいか!!」
船員たちは一斉に返事をした。
「なぁ、あんた。海に落ちたらどうなるかとな言ってたなぁ。そんなのは自分で試しな!」
エドワードは美春を抱え船員たちがいる船へと飛んだ。それと同時にロイドがいる船へと大砲による砲撃が始まった。
「早く船を出せ!」
「倒れる前にいくぞー!」
「相変わらず船長は無茶言いやがる」
船員たちは手際よく橋を取り外し急いで船を前進させた。
「あの、船壊しちゃっていいんですか?」
「別にいいさ。美春が命かけて船員を守ってくれたんだ、船の一隻くらい安いもんさ」
砲撃や爆薬のせいでロイドがどうなったかはわからない。しかし、無事ではすまないだろう。美春はNPCの手助けにより難を逃れた。
ゲームの世界での行いが連鎖して別のところでよい影響をもたらしたのだ。
このゲームが想像力を具現化する予想のできないゲームでありながらも、現実のように出会いや繋がりが大事だと理解した。
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