ポイントバトル

第10話 第一戦ポイントバトル

 今日はバトルエースオンラインの第一戦。

 美春はバトルプレイヤーたちが集うロビーへ向かった。


「会場で一度見たけどなんだかすごい人たちがいっぱいいる……」


 美春は適当な椅子に座りバトルプレイヤーを眺めていた。椿と大和は一般プレイヤーとしてフィールドを回っていた。

 今回の戦いでは各地に散らばったバトルプレイヤーは100人が敵を倒しそのポイントで競い合う。バトルプレイヤーを倒せばプラス100ポイント。さらにその時点で倒されたものはリタイアとなる。

 一般プレイヤーを倒すと逆にマイナス100ポイント。モンスターの点数は倒すまでわからないため一番手っ取り早くポイントを稼ぐならバトルプレイヤー同士が一番ということになる。

 さらに、各地に散らばったアイテムにはポイントアップやパワーアップ、さらに武器も落ちているため戦略は無限大。

 

 美春が椅子に座ってまっているとエキジビションマッチで圧倒的な力を見せた黒衣の少年が近づいてきた。


「君がミハルだね。活躍は見させてもらったよ。この戦いで脱落しないことを祈ってる」


 そういうと少年は去っていった。


「声変わり前かな?」


 思ったよりも高い声にそんな印象を待った美春だった。

 少しするとエキジビションマッチで戦ったヨハネもやってきた。


「ミハルさん、お久しぶりです」

「あっ! ヨハネさん!」

「お一人でどうされたのですか?」

「あっ、いやぁ……。みんな迫力があって近寄りがたいなって」

「個性的なアバターが多いですね。大男に獣人、魔法使いにマフィアのような人、そして、素敵な女侍もね」

「えっ、私ですか?」

「あなたの戦いに私はとても惹かれました。ぜひ勝ち抜いてください」

「ありがとうございます! ヨハネさんにも負けませんよ!」


 美春の緊張をほぐすとヨハネは去っていった。

 程なくして実況の声がロビーエリアとフィールドに響き渡る。


「まもなく100人のバトルプレイヤーによる激しい戦いが繰り広げられる! バトルプレイヤーの配置は完全ランダム! 一人でフィールドを独占してることもあれば初期位置ですでにほかのプレイヤーと遭遇することもある! 覚悟してくれ!」


 警戒な実況の声だがロビーもフィールドも緊張感に包まれつつあった。


「第一戦を勝ち抜く条件はポイントだ! モンスターやクエストや依頼をこなすのもあり、バトルプレイヤーを倒して一気に稼ぐのもあり! 200ポイント取ったプレイヤーが80人現れた時点ゲームは終了だ! それでは第一戦まであと10秒!」


 カウントダウンが始まり、ついに本番への意識が高まる。


「3! 2! 1! スタート!!!」


 バトルプレイヤーは一斉にフィールドへと飛ばされた。


 美春が飛ばされた先は木製の室内だった。


「波の音に木製の床。揺れる部屋……もしかして!」


 外へと飛び出すと、そこは広大な海に並べられた海賊船の上だった。海賊船はそれぞれを横一列に木の橋で繋げられており海賊たちがせっせと働いていた。

 美春のことは認識されてはいるようだがとくに言及されることなく皆それぞれの作業を進めている。


「海なんて久しぶりだなぁ」

「お目覚めかい、東洋のお侍さん」


 後ろからやってきたのはノンプレイヤーキャラクターの女船長だった。


「船団の積み込みが終わるまで時間がかかるからゆっくりしていきな」


 美春は海賊船に乗った侍の旅人ということになっていた。


「あの、私以外の方はいるんですか?」

「旅人のことかい? いいや、いない。そもそもうちらは海賊さ。そんな慈善活動なんか基本はしないのさ。まぁ、あいつらが女を連れ込んでる可能性はあるけどな」

「では、なぜ私を?」

「あんた、どこぞの偉そうな貴族を倒したって話を聞いたからな。女一人でそんな荒事起こすなんて大したたまだよ。うちの船員たちも見習ってほしいもんだね」


 どうやら前回別フィールドで倒した貴族の話がこのフィールドに影響しているようだ。

 現状、全てのフィールドはポータルにより移動することができるが、一部のフィールドは世界が共通しており、別の場所で行った行動がノンプレイヤーキャラの行動に影響する。


「船長ー! この荷物はどこへ置きますか!」

「ちょっと見せてみろ。――騒がしくて悪いな。ちょっと行ってくる」

「お構いなく」


 美春は船員たちの邪魔にならないように移動し海を眺めていた。

 雲一つない空に自由に飛び回る鳥たち。

 平和そのものだった。


「なんとなくだけど潮の匂いがする気がする。もう現実との区別がつかないなぁ」


 船を歩いていると船首のほうに円形のポータルが浮いているのが見えた。

 その向こうにはビーチが写っている。

 

「あっちも海か。でも、現代っぽい」


 その時、繋がっている船の一番端のほうで激しい物音がなり始めた。

 

「こんな海の上で戦い!? ゆっくりしてるひまはないみたいね」


 早速その場所へと向かうと、そこには付近のポータルから移動してきた二人のバトルプレイヤーが戦っていた。

 一人は伸縮性のある鞭を扱う女性。褐色の肌にうねった黒髪が特徴的で南国のような服を身に纏う。プレイヤーネームはミチハ。

 もう一人は槍を構える男性。黒いタンクトップに下はチェーンがぶら下がっている革のような黒ズボンを履いている。プレイヤーネームはロイド。

 女性の鞭は伸縮も硬さも調整できるようでロイドは押され気味だった。

 バトルプレイヤー同士が戦うことはゲームのルールでありセオリーであるが、この二人の戦いで周りの船員たちに多大な迷惑になっていることを美春は気に入らなかった。


「ストップです! 戦うならここじゃなくてもいいじゃないですか」


 すると、二人は手を止めロイドが美春のほうを見ていった。


「お前あれか、エキシビションマッチのプレイヤー。プレイヤーがどこで戦おうと勝手だろう」

「否定はできませんが、ここじゃなくてもいいじゃないですか。ここは船員の方々が必死にお仕事をしてるんですよ」

「ゲームのNPCにそこまで気を使ってられるかよ。そういうのが面倒だからゲームの世界で暴れんだろうが」

「そんな横暴な……」

 

 しかし、ミチハは踵を返しやってきたポータルへと戻ろうとした。


「おい! 逃げんのか!」

「興ざめしただけさ。あんたの相手はきっとその子がしてくれるよ。その子を倒した後に相手になってあげる」


 ミチハは草原の見えるポータルへと姿を消した。


「チッ! 勝手にしやがれ。――このおとしまえつけてもらうぜ!」


 ロイドは槍を構え美春をにらんだ。


「船員のみなさんは至急隣の船へ! あのポータルへと押し返せば被害は少なく済む」

「槍ってのは刀よりもリーチが長く、刀以上に殺すことに特化している。その真髄を見せてやる」


 女侍美春と槍使いのロイドの戦いが始まる。



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