第8話 ゲームでも現実でも 1

 教室の生徒たちはそわそわしながら先生の話が終わるのを待っていた。

 それもそのはず。

 明日からは夏休みなのだ。


 お昼前に学校が終わり二人はゲームセンター付近のファストフード店で食事をとっていた。


「ねぇ、今日はゲームするんでしょ!」

「その予定だけどどうしたの?」

「だって今日は一般プレイヤーも一緒にフィールドに出られるって聞いたから楽しみでさ!」


 バトルプレイヤー、一般プレイヤー共に今日から解放されるフィールドを移動することが出来る。

 一般プレイヤーは武器をもつことはできないが広大な様々なフィールドを移動するだけでも満足できるほど充実なギミックが揃っている。

 明日にはバトルプレイヤーによる第一戦が開かれる。バトルプレイヤーはフィールドの下見を、一般プレイヤーはフィールド楽しむためにゲームへとダイブするものが多い。


「見て見て~!」


 椿はバトルエースオンラインのアプリからバトルプレイヤーの一覧を見せた。

 美春の姿もあり、そこにはランキングが表記されており美春は2位となっていた。


「バトルプレイヤーってこんな風に見れるんだ。この2位ってのはなに?」

「一般プレイヤーやネットで見てる人たちの応援してるプレイヤーランキングだよ」

「まだ4人しか戦ってないからね。1位はやっぱり二刀流の人かな」

「えーっとね。……そうみたい! やっぱあれだけ圧勝したからね」

「手の内を明かさずにあれだけ圧倒する技量。私は戦い方もエースストライクも出しちゃったからちょっと不利かもなぁ」

「あっ、それで思い出した! エースストライクとかって基本は一度で一種類しかないんだけど、覚えたエースストライクを使わずに戦いに挑めばまた新しいエースストライクが出来るみたいなんだよね」


 エースストライクは原則一人一つ。さらに、一度使用するとエースストライクは同じものを使い続けることになる。

 だが、フィールドに入る前やバトル前に覚えたエースストライクを外し挑むことで、新たなエースストライクを作り出すことができる。

 しかし、どれだけ多くのエースストライクを生み出しても戦闘エリアで使えるものは一つ限り。さらに、戦闘エリアに入る前に決めなければならない。

 複数のエースストライクをもっているものは相手にあわせて隠し球をもっていったりその場で一発逆転を狙うエースストライクを生み出したりと戦いの幅は無限大だ。


「想像力次第ってわけか。でも、一度強力なエースストライクを身につけたらそれで満足しそうだよね」

「大和が言ってたけど武器って使いやすいものを選ぶでしょ? で、それに会わせた戦闘スタイルを編み出す。だから、その武器やスタイルに会わせたエースストライクが完成すればみんな同じものを使うようになるって言ってた」

「……なら、その隙をつくことは容易いかも」


 二人はゲームセンターのダイブマシンへと移動しゲームへとダイブした。

 ロビーに行くと前回よりもプレイヤーが多く、ロビーそのものも広くなっていた。受付頭上のモニターには前回のシミュレーションモードでのお詫びや改善についてのお知らせが流れている。


「さっそくフィールドに行こうよ!」

「うん。……あ、ちょっとまって」


 メニューからフィールドの情報をみていた美春はある文に目が行った。


「バトルプレイヤーはフィールド内での戦闘が行えるか。じゃあ、もしかしたら他プレイヤーに襲われるかもしれないわけだ」

「なにそれ怖いね。なるべく目立たないようにいこうね!」

「私すでに戦っちゃったし椿がいるから目立たないのは無理かもなぁ……」


 先が思いやられるがとりあえずはフィールドへと移動した。

 専用のポータルから最初に行きたい場所を選び移動する。フィールド内ではまったく異なるフィールドへと移動する際に地上か空中、もしくは地下にある円形のポータルから移動することになる。

 円形の中には移動先のフィールドが写っておりどこへ移動することになるかは一目瞭然。

 どのフィールドにいてもメニューから強制帰還することはできるがクエストやバトル中であれば一度ギブアップしなければ強制帰還はできない。

 そのため、ゲーム進行中はこのポータルの位置とどこへ繋がっているかを把握することが勝利への鍵となる。


 二人が最初に訪れたのはおとぎ話やファンタジー漫画に出てきそうなお城が見える町だった。


「すっごーい!! 見てよお城だよ! 小さい頃に見たホーエンツォレルン城よりも大きい!」

「椿たちって案外いろんなとこに行ってるんだね。このまえ大和くんもハワイで銃を触ったって言ってたし」

「毎年家族旅行で海外行くからね。まぁ、そこそこ裕福な家系だから」

「普段の雰囲気からはそんな感じしなかったよ」

「あはは……。あまり裕福なのって好まれないからね」


 椿の表情はほんの少しだが陰りを見せた。

 あまり聞かれたくないことだろうと美春は察して話を変えるために椿の手を引っ張った。


「あっちの公園見てみようよ」

「えっ? ちょ、ちょっとそんなに引っ張ったら転けちゃうよー」


 ノンプレイヤーキャラが噴水のきれいな公園で遊んだり休んだりお話ししたりと、まるで現実のような生活をしていた。


「すごいよね。これってみんなゲームの人たちなんでしょ。もう何が現実で何がゲームかなんてわからなくなるね!」

「ほんとにね。師範代が見たら何て言うだろう」


 二人は公園で少しすごし城の近くまで行くと大きな門の前に兵士が構えているのが見えた。


「ちゃんと見張りしてるんだね。この中どうなってるんだろう?」


 椿が挙動不審に中が見えないかと動いていると、ノンプレイヤーキャラである門番がやってきた。


「貴様! 何者だ! その怪しい動き魔法使いの類いか!」

「ち、違いますよ! 武器もないし服だってとけ込んでるでしょ!」

「変装だろ!」

「えーーー!!」


 椿に槍を向け威嚇する門番にたいし美春が前に出て言った。


「ごめんなさい。友人の行動が不審だったのは認めますけどこういう子なんですよ。ここから離れますので揺るしてくれませんか?」

「む? あなたはハンターのミハルさんではありませんか。ご友人の件はあなたの言うことですので信用しましょう。ですが、次はないですよ」

「え? あ、どうも」


 ハンターになった覚えなど無い美春だったが、どうやら調べてみるとバトルプレイヤーはこの大会の間は各地で移動したり権限を行使しやすい立場の役が当てられていると言う。

 このファンタジー世界ならハンターということだ。


「なんだかよくわかんないけど助けてくれてありがと~!」

「椿はちょっとくらい落ち着いてね。じゃないとまた疑われちゃうよ」

「うん、そうする」


 すると、町外れで大きな爆発音が鳴り響いた。


「わ、私はなにもやってないよ!」

「わかってるって。とりあえず見に行って見よう」


 二人は音の鳴ったほうへと向かった。

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