第7話 シミュレーションモード 2

 美春が選んだのは草原ステージ。

 広大な自然にどこまでも続く草原。

 目の前には刀をもったトレーニングエネミーが一体。


「なぜ草原を選んだんですか?」

「無駄なものがないほうが集中できるからね。それにこういうとこって中々いく機会ないから気持ち良さそうだなって」


 早速、美春はトレーニングエネミーを攻撃モードに切り替え練習をはじめた。

 刀同士がぶつかる甲高い音が辺りに響く。

 大和はそんな美春の様子を見ておどろいていた。


「話は聞いてたけど太刀筋とか武芸をやってるって感じ」

「そりゃ、本当よ。美春が嘘つくわけないじゃん」

「いや、姉ちゃんが話盛ってるかと思って」

「そっち!? 私って信用ないのぉ~」

「確認せずに人のハガキだしたり勝手に応募するようなやつを信用できるわけないだろ」

「うぅ~……」


 椿はしょんぼりと膝を抱え座っていた。

 二人が話している間にも美春はトレーニングエネミーを簡単に倒し刀での練習を終えた。


「次は弓を使ってみようかな」

「だったら空中にターゲットを出しますね。固定されたものと動くものどちらがいいですか?」

「じゃあ、まずは固定された的をお願い」

「わかりました」


 複数のターゲットが現れると美春は武器を弓に切り替えターゲットを狙った。

 本来、弓という武器は狙いを定め目標に放つもの。大量の人間が同時に放つことにより点ではなく面に対して攻撃することも出来る。

 しかし、その弱点として連射が不可能である点や打つ度に新しい矢を構えなければいけない。さらに、狙いを定め軸をぶれさせないために時間をとるため隙も生まれる。

 だが、ゲームの世界では狙いに対して補正がかかるのと本物ほど弓を引く力が必要ないこと。さらに美春の稽古の経験が活かされ高速の射撃を可能とする。


「姉ちゃんも拗ねてないでなにかしてみたら?」

「私たちバトルプレイヤーじゃないけどできるの?」

「シミュレーションモードならね。武器を選んで試したりモンスターを出したり出来る。メニューを開いて適当にやってみたら」

「楽しそう! 何しようかなぁ~」


 さっきまでしょんぼりと膝を抱えていた椿は意気揚々とメニュー画面を開き項目を選びはじめた。

 美春は固定されたターゲット、動くターゲット、さらに鳥やモンスターを模した移動するターゲットなど様々なターゲットを射ち抜く。


「ゲームの世界だからなんだろうけどここまで狙いやすいのはさすがに驚くなぁ」

「現実の弓はもっと難しいんですか?」

「こんな簡単には射てないよ。呼吸も整えるし何より力もいる」

「奥が深いんですね」

「興味があればいつでもうちの稽古場に来るといいよ。弓道は結構人気なんだよ」

「考えておきます」


 すると、椿が大きな声で叫んだ。


「まったく……。姉ちゃん一体何を――って何出してんだよ!」

「わ、私押してないよ! 勝手に出てきたんだって!」


 そこには現れたのは身長約2メートルはある大柄な体格で、緑色の肌に腰には獣の皮のようなものが巻かれている大きな棍棒をもったオークの姿があった。


「はやくメニューから消してくれ」

「メニューの操作がきかないよ~」

「はぁ? ……ほんとだ。なにも押せない」


 シミュレーションモードでは入室しているプレイヤーそれぞれにオブジェクトやモンスターの設置権限がある。

 しかし、美春も大和も椿もメニュー画面を操作することができなかった。


「椿! 武器もってないんだからこっちに来て!」


 椿は美春と大和がいるほうへ走るが同時にオークも追いかけてきた。

 オークは決して速いわけではないが歩幅が広くじわじわと椿に追い付いていく。


「なら足を止める!」

 

 美春は弓を構えオークの足を狙おうとするが椿がふらふらと走ってるためうまく狙いを定めることが出来ない。


「このままじゃ椿に当たっちゃう……」


 そんなとき、オークは椿に棍棒を振りかざした。

 すぐに美春もオークのを腕に狙いを変えるが間に合うか美春でさえも不安だった。

 しかし、美春が矢を放つ前に大きな炸裂音が草原に広がる。それと同時にオークの眉間には穴があきその場に倒れた。


「美春さん、相手はゲームのモンスターです。急所を狙ったほうが早いですよ」


 銃口から硝煙を出し構える大和の姿があった。


「大和くん、銃の扱い上手いんだね……」


 美春は想像していなかった出来事に驚いていた。


「こういう銃を扱うゲームが好きなだけです。まぁ、それ以外もしますけどね。あと、ハワイに旅行いったときに銃を触ったので」


 大和の意外な一面が垣間見得た瞬間だった。

 椿はそのまま大和へと抱きついた。


「ありがとぉ~。ゲームの中だけど怖かったよぉ~」

「鬱陶しいなもう! 姉ちゃん、本当にさっきの出してないの?」

「出してないよ! あんなの怖くて出せないよ!」

「それもそうか……。美春さん、練習始めたばっかですけどもしかしたらバグかもしれないので一旦抜けたほうがいいかもしれません」


 バグという言葉に聞き覚えがない美春はきょとんとした表情を浮かべている。


「えーっと。言うならば不調ですね。またなにかおかしなことが起きる前に抜けたほうが安全だと思います」

「それもそうだね」


 ダイブマシンから抜けた三人は近くのファストフード店で食事をとりながらゲームの話をしていると、大和のスマホに通知が入った。


「あ、やっぱりバグだったみたいです」

「なんでわかるの?」

「バトルエースオンラインのアプリを入れてるので。って、もしかして美春さん入れてないんですか?」

「う、うん。そういうのよくわからなくて……」

「入れておいたほうがいいですよ。お知らせとかフレンドからのメッセージが来たりするので」

「じゃあ、家に帰ったら入れておくよ」


 シミュレーションモードの不調は全体的なものらしく、一時バトルエースオンラインはメンテナンスへと入った。

 次の再開は夏休み直前。

 その日まで美春たちは日常へと戻った。

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