錆びた遺恨

 舗装されていない畦道の脇に一軒のちびたあばら家があった。屋根には乾かしたバナナの葉が葺いてあって、屋内には小さな竈と寝室と居室を兼ねた板の間部屋がひとつあるきりで、とても生活に余裕があるとは言えなかった。その家に暮らすのは中年の女がひとりと、右足のない七歳になる娘とのふたりきりである。女の夫は街に出ていたところを国の内戦のどさくさと空襲で行方知れずになって二年になる。

 畦道はこのあばら家から西へ五十メートルと離れていないところで雑草生い茂る薮となって途切れている。あばら家から薮に向かって数十メートル進んだ進んだところには細い棒があちこちに何本も立っていて、そのうちの一本は女の娘が地雷で片足を飛ばされた箇所である。棒の一本一本が地雷で災難にあった人々の変わり果てた姿が横たわっていた痕跡であった。

 女の娘は半年前に友だち数名と雑草に分け入ったところで、轟音と共に地面から噴いた土に身体を跳ね上げられるようにして吹き飛ばされた。一緒に遊んでいたはずの友だちは、大怪我をして倒れて気を失っていた娘をほおっておいて、その場から逃げてしまった。


 地雷の炸裂によって犠牲者が出るたびに雑草が刈られて道が開かれる。

 何も知らない子供たちがこのあばら家の前を通ると女は彼らに言うのである。

「道の奥に宝が埋めてあるから探してきな」

 すると三回に一度くらいは爆音が聞こえて小さな身体がバラバラに散ったり、足がなくなったりする少年や少女が後を絶たなかった。

 女は村人から、

「なぜ子供に地雷のことを黙って遊ばせた?」

 と非難を受けるたびに言葉すくなく答えるのである。

「宝探しに危険はつきものさね」

 よその国から地雷除去の重機械がやって来るまでのあいだ、そんなふうにして女の荒んだ心根が荒れ地を平地にしていった。

 やがて道がアスファルトで舗装されて一本の街道に変わると、女は娘を連れてどこかへ消えて行った。


                 (了)

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