第6話 どうして
『特異なる魔を秘めるその身体』
誰の?俺の?
魔法なんて突拍子もなく自分の外の話に、いきなり自分が関わってきた。
きっと、柊がわかりやすいように言葉を砕いて訳したんだろうけれど、それでも内容はさっぱりだった。
いや、言葉としてはわかる。けれど・・・
「初めて見るけど、昔からやり口は変わっていないようね」
「俺に、魔法が・・・?ど、どういうことだ」
柊が冷静に口にした言葉も、右から左へと通り過ぎた。
「そのままの意味。貴方の体を包むように特殊な魔法がかかっている。しかも、魔法が溢れ出ている。貴方の存在に気づいた魔法研究会が急遽キューを使いに送ったのかも」
「お、俺はさっきみたいな閃光とか、一瞬で消えることとか出来ないぞ!それに、俺に魔法の力が備わっているならとっくに連行しているはずだ。わけがわからないぞ!」
これ以上頭を混乱させないでくれ。
俺は・・・柊のいう通り、ただの一般人だ。
魔法とかいうファンタジーな世界と縁のかけらもない。
両親も本当にただの人たちだ。
「・・・これを、見てもらえばわかる」
柊は落ち着いた様子で俺の右手を取る。
突如どうしたと思ったが、今更照れるようなこともなく、俺は本当に疑問符ばかりが頭に浮かぶばかりだった。
彼女の白く冷たい手がすすすっと、俺の指先から腕の地点まで動いて止まる。
「今更だけど、驚かないでね」
「え・・・うわっ!」
柊が触れた途端だった。
先ほどとはまた違う、眩い光が当たりを照らした。
一瞬目を瞑った後、目の前の光景に愕然とした。
最初は、さっきみたいに柊が光を周囲に魔法とかいうものを放ったのかと思った。
けれど・・・色がさっきとは違う。さっきは白く、それこそ閃光と言える光だったのに、対し、エメラルドのような緑色の輝きが周囲を照らしていた。
そしてその輝きの元は・・・俺だった。
「なんでっ・・・どうして、腕から・・・!」
緑の光が、光に当てた宝石みたいに・・・俺の腕から溢れていた。
いや、溢れていたと言うより、腕の一部分が輝く緑色になって、発光していた。
「な・・・なんだこれ・・・なんなんだこれは!?」
「落ち着いてハルカ。大丈夫、今のところ何も起きないから」
柊がもう片方の手を俺の手に起き、落ち着かせようとする。
だが、パニック状態の人間はそう簡単に止まらない。
「さっきから何なんだ一体!柊!答えてくれ頼む!俺はどうなっちまうんだ!?」
ずっと留めていた感情が爆発してしまった。
喚いても状況は変わらないことを知っているから、目の前に広がっていた光景にも騒いだりはしなかった。我慢していたんだ。
だけど、こんな意味のわからない状況で、落ち着いていられる方がおかしい!
「・・・」
発言しようとして、柊は口を閉じた。
言い淀んだように見えるけれど、その表情からどんな理由なのかは察することが出来ない。
言えない内容なのか、困ったのか、面倒くさくなったのか。
わざわざ腕を光らせたくせに、説明もしてくれないのか!
「もしかして・・・柊も、お前も俺を拘束してどこかに連れて行くつもりなのか!?俺と出会ったことも、付き合ってくれたことも・・・もしかして・・・!」
ギュッ
突然のことで始めはわからなかった。
柊は俺の腕に置いていた手を指先まで移動させ、両手でしっかりと握ってきた。
じんわりと手が温かく感じ始めた。
「・・・大丈夫。私が、必ず何とかする。ハルカを危険になんて晒させない」
「・・・」
俺の混乱なぞ、柊の言葉で一瞬で静まった。
まるで宝石みたいに綺麗な目をまっすぐに俺に向けていた。
落ち着かせるように、安心させるように柊は俺の手を握ったまま喋り掛ける。
何を考えているのかわからない彼女が、ここまで強い意志を見せるのは初めてだった。
俺はただ・・・なされるがまま、柊の言葉に従った。
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